一方の控室

 一方の控室では。

 

「もう、やめ……」


 悲鳴に近い形で言う少女。

 今回の混合戦出場者にしてこれから決勝をウェルサと共に戦う子だ。

 

「うぐっ!」

「お前ら、何も役に立たない奴が何俺に意見してんの?」


 口元を塞がれ、そう言われると壁に後頭部を後ろの壁に叩きつける。

 誰も止める者はいない、この控室ににいる全ての人がもうすでに動ける状態ではないのだ。

 この男によって……。

 ウェルサ・マックハート……貴族の長男にして無能と呼ばれている男だ。

 家系の位が高いだけで、傲慢という言葉が相応しい横暴な性格をしている。

 妹のセシアに負けてから彼はさらに荒れていった。

 性格はどんどん狂暴化し今では誰彼構わず攻撃的になっている。

 

「答えろよ」


 壁に叩きつけられる。

 口を塞がれ答えられない彼女に応えろという無理難題を押し付ける。

 痛い……誰か助けて!!

 涙を流しながらそう祈るが誰も助けは来ない。

 ひとしきり暴れてすっきりしたのか、私はその辺に投げ出される。

 動かない方がいい、動いて彼の機嫌を損ねたら今度は殺されかねない。

 今の彼は完全に狂っていた。

 暴力的で加虐的、初めてあった時はこうじゃなかったのに……。

 どこで変わっちゃったんだろ……。 

 暗い天井を眺めながら少女はそんなことを思った。

 






 

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