変貌

 何かがおかしい。

 ウェルサは小者だからそんなことをする度胸はないはずだ。

 力を手に入れたから? 

 否、そんなことをすれば彼の立場上、危うくなるのは小心者の彼ならわかるはずだ。

 それなのに彼はやった。

 残虐極まりない行為で司会進行であるカエラにさえ、攻撃するほどに。

 エレナがあそこで止めなければカエラの両手両足は引きちぎられていた可能性が高かった。

 この試合は中止になる。

 誰しもがそう思っていたが、予定通りに決行するようでスタッフが会場を整えている。

 師匠たちの強い要望によって試合は再開される運びとなったのだ。

 控室に行くと母がいた。


「お、来たわね」

「どうかしたんですか」


 レイスの所から来るという事は何かあるのだろう。


「いいえ、弟子の応援よ」

「そうですか」


 これから試合の鼓舞っというわけではないだろうが、言う気がないのなら聞いても答えてはくれないだろう。


「サウルも善戦してたけど、残念だったわね」

「手も足も出ませんでした」


 結局試作試練と戦っただけで、その後の戦いは防戦一方だった。

 攻撃する暇もなく初級魔法で凌いでいるだけだった。

 無詠唱に加え、魔法展開速度が速すぎるのだ。

 速度、火力全てにおいて足らなさ過ぎたのだ。 


 そう言うと、ドアが開く。


「すみません、ドアが開いていたので……そろそろ準備お願いしますね」

「さ、行ってらっしゃい」


 そう言われ立ち上がるミナの背中を叩く。


「痛いです、試合前に負傷させる気ですか?」


 ミナはミリーに叩かれた背中をさすりながら皮肉っぽくそう言った。


 

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