74話 追い詰められる者

「お前は役立たずだな……」


 僕ウェルサは父に今呆れられていた。


「決してそのような事は……」

「妹に何もかも負けて恥ずかしくないのか? 力も地位も……」


 王族との縁談が決まった途端に父は掌を返すように僕を罵倒する。


「あれは……」

「言い訳はいい、全く…セシアはあれだけ優秀なのにお前ときたら……」


 次期当主の自覚が無いだの、努力が足りないと散々な言われようだった。


「いいか、次の国家魔法大会ルミナスには絶対に出場しろ」

「いえ、それは……」

「出来んのか?」


 正直できるわけがない……あの大会は全生徒の代表20名が選出されるほど狭き門だ。

 ましてや称号のない僕が入るなんて夢のまた夢だ……。


「今年は……歴代最強と言われる六法生がいるので厳しいかと……」

「後15枠あるじゃないか」


 後15枠しかないんだけど!?


「無理ならそれでも構わんが、無理な輩に出す金などないからな……」


 なんとかしろとそういう事なのだろう。

 停学は父になんとかしてもらったので可能性がないわけではない……。


「精進せよ……」


 父はそう言うと部屋に戻った。

 僕にはどうしようもない事なのだが、出来なければこの家から追放されかねない。

 強くならねば、どんな事をしてでも……。

 力だ、力をつけなければ!!


「でしたら、こちらなど如何です?」


 突然声がする。

 声の方を振り向くと男が立っていた。


「こちら、魔力増幅薬で飲み続ける事で魔力増強、詠唱速度アップですよ?」

「お前、何者だ……」

「私は、貴方のように強くなりたいと思う方の御力になる為、こういう薬を売っている者です」


 父の所の行商人か? 

 それにしては見た事ないが……。


「それよりどうですか? 試してみます?」

「いやそんなもの必要ない」


 魅力的だが、怪しすぎる……。

 先程父が居たのだから普通父に挨拶するべきだろう……。


「良いんですか? このまま妹に負けてて」


 その言葉に苛立つ。


「は? 俺はまだ負けて……」

「良いですよね、魔力量の多い人は……何の魔法を使っても結局魔力量で押し切れちゃうんですから……」

「………」

「まぁ、今回はお試しという事でこれ、どうぞ」


 それは粉のようだった。

 男がいうにはこれを口に含むと、効果が出るらしい。


「2回分です。もし、お使いになられましたら定期購入されるかまた伺いますね……」


 そう言うと、急に辺りが霧に包まれる。


「それではまた後日に……」

 

 そういうと、彼は霧の中に消えていった。

 何だったのだろう……。

 手に残された粉を見つめる。

 魔力を増強させる薬か……。

 考えるようにして僕は寝室へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る