36話 ご機嫌斜め
「これは……」
差し出された物は布気包まれた小さな袋だった。
「えっと、これはお守り……サウルがこれから遠くに行くでしょ? だから……」
この世界のお守りは旅立つ人への祝福を込めて贈られるものだ。
その人のこれからの冒険や生活により良い物をもたらしてくれますようにという
思いの籠った物、それがお守りだ。
「ありがとう、実は僕もこれ……」
そう言って箱をそれぞれに渡す。
二人は受け取ると、箱を開ける。
そこには可愛らしい花の紋様が刻まれたヘアピンが目に入る。
リラには青色のルラには白い花だ。
「つけてみて」
サウルがそう言うと、二人は互いにヘアピンをつける。
リラは右にルラは左につける。
「似合う?」
「うん、思った通り良く似合ってるよ……可愛い」
「そ、そう? えへへ~」
いつものきつい表情のリラが頬を緩めている。
チョロいっと思うサウルだったが、口にすると血を見るので黙る。
ルラはチラチラと見ながら、自分への感想を待っている。
「さて、花火も終わったことだし、屋台周りに戻ろっか」
「………」
サウルが言うと、ルラが下を向き向かってくる。
「………ルラ?」
無言の圧を感じたので、サウルは少し下がる。
ルラは笑顔でサウルの足を蹴る。
「痛っ、何するんだよ」
そう言うと、ルラは再び足を蹴る。
「痛い痛い! え、何!?」
そう言うとルラは横から膝に蹴りを入れる。
サウルは後ろから蹴られ、膝から崩れ落ちる。
「………ふん!」
「えぇ……」
ルラは膝をついているサウルを無視して先に行く。
「今のはサウルが悪いよ」
はぁ~っとため息をついたリラはサウルに手を差し出す。
リラの手を握り、起き上がる。
「何で?」
「………知らない」
リラはむっとして背中を向け、歩き出していく。
何で二人とも怒ってるんだ?
訳が分からないよといった感じでサウルは二人を追いかける。
「待ってよ~」
「知らない」
二人は歩き出す。
何を怒っているのかわからず、暫らく沈黙が続く。
「あの、二人とも?」
「「………」」
相当ご立腹のようだ。
しばらく歩くとルラは立ち止まる。
サウルが二人の見ている方を向くと、輪投げの出店があった。
そこには三つの腕輪があった。
この腕輪は三人の名前を刻んで魔力を通すと、それぞれの特性の魔法の色が三種類均等に出来る。
その腕輪の色は所有者が死亡、若しくは腕輪が完全に破壊された時のみ消える。
パーティーなどで主に使われるものだ。
「あれ、取ってくれたら許す」
ルラが指を差し、そう言う。
一回百ルドか……。
現在サウルの所持金は4000ルーだ。
今月厳しいんだよなぁ~っと思ったが、取らなければルラのご機嫌はこのままだろう。
「一回いいですか?」
「はいよ!」
亭主は結界を発動する。
魔封結界。
ここでは以下な魔法といえど、自分以外にかけられた魔法以外は無効化される。
サウルは亭主から投げ輪を渡され、ルラ達のご機嫌の為に頑張るのだった。
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