29話 魔法科の試験監督

 二日後。

 リラやルラに言いだせず訓練していると、馬車がこちらに向かってくるのが見えた。

 馬車には蒼を中心に真ん中に剣と杖が交差している紋様があった。

 馬車が止まると紅い髪をなびかせ降りてくる一人の少女。

 歳は14歳くらいだろうか?

 少女はミリーを見つける。

 ミリーの方へ向かう。


「お久しぶりです。 師匠」

「えぇ、久しぶりねミナ。元気だった?」

「はい、師匠こそお元気そうで何よりです」

 

 挨拶を互いに挨拶を済ませるとサウル達を見る。


「あの子ですか? 試験を受けるというのは」

「えぇ、私の息子のサウル」 

「随分小さいですね」

「貴方も十分小さいでしょ」

「何か?」


 コンプレックスなのか、ミナは悪戯っぽい感じで言うミリーをウザそうな顔で見る。

 

「ううん、だけど貴方がもうすぐ卒業で嬉しいわ。 卒業後は教授として誘われています」

「流石ね、首席で卒業して教授なんてエリートコースじゃない」

「そうですね、貴方との修行に比べたらあそこでの日々なんて可愛い物ですよ」


 遠い目をするミナ。

 

 いったい何したんだよっとサウルは心の中で突っ込む。


 魔法科の試験は魔法科の生徒が受け持つことになっている。

 合格した場合、推薦した生徒の責任にもなり、評価に繋がるので試験を合格難易度は上がる。

 一般の試験もあるが、そちらも難問中の難問である。

 毎年何万人と受験し、何回もの試験で振り分けられる。

 最終で残るのは数名だ。

 それを受けるよりも生徒の推薦の方が実力があるのなら推薦の方が最短ルートともいわれている。

 ミナは頷き、こちらを向く。

 

「サウル君、初めまして。 今日のアルス王立魔法科の試験を監督するミナ・フォーレンです」

「サウルです」


 因みにサウル達の家も名前がある。

 家名はラット家だ。

 サウル・ラット、これがサウルの正式な名前だ。


「では早速君のステータスを見せてもらってもいいかな?」


 胸ポケットのステータスプレートを見せる。


「ふむふむ、ありがとう」


 プレートを返してもらい胸ポケットにしまう。


「では、これから試験を開始します。 準備はいいですか?」


 頷くとミナは背を向け、視線をこちらに向ける。


「ではまず初めにこの魔法をやってみてください」


 魔法を展開する。

 ミナのオーラの色は主に赤で、その他にも青と緑が放たれていた。


水玉ウォーターボール

 

 ミナの手から水が生成される。

 やがて水は丸い形をして目の前に放たれる。

 水玉は目の前の壁に当たる。

 

「これをやっていてください」


 サウルの方を向くとどや顔でそういう。

 前に出る。


 

 先程のミナほどではないが、小さな水玉が出来上がり放つ。

 先程同様に壁に衝突し、弾け飛ぶ。

 魔法を見て考え込むミナ。

 少し考えた後、サウルの方を見る。

 

「得意な魔法は何かある?」

「えぇ、ありますがここではちょっと」

「何か不都合でも?」

「いえ、ここだと危ないかと思いまして」

「フフッ」

「何か?」

「いえ、わかりました。どこにしますか?」

「この近くに広い平原があります、そこで」

「わかりました。 ではこの子をお借りします」


 二人は庭を出る。

 場所は村から少し離れた平原。


「それで? どんな魔法を見せてくれるんですか?」


 馬鹿にしたようにサウルを見るミナ。

 ミリーの前では猫被ってやがったな。


「ミナさん、魔法戦しませんか?」

「……は?」


 意味が分からないと言った顔でサウルを見る。


「言いませんでしたが、僕は母に魔法戦を教えてもらっていまして少しは戦えます」

「ふ~ん」


 興味なさそうな顔のミナ。

 サウルはその余裕な顔に不満を覚える。


「では、戦ってもらえますね?」

「はいはい、子供のお遊びですね」

「障壁結界しないんですか?」

「する必要あるんですか?はぁ~」


 心底面倒くさそうに魔法を発動する。

 周りには結界が張られる。


「これでいいですか?」

「ありがとうございます」


 サウルが魔法用の構えを取る。

 ミナは構えず見ている。


「構えないのですか?」

「必要ないかと」

「そうですか」


 この女、後悔させてやる! 

 魔法を脳内で展開する。


「光の複矢アローレイン

 

 複数の光の矢が彼女を襲う。

 ミナはバリアを張る。

 無詠唱で魔法とは流石魔法科主席。

 肩書は伊達ではないのだ。

 バリアにヒビが入っていくのに驚くミナ。

 そのままもう一つのバリアを内側に張る。

 破られた際の保険なのだろう。


「やりますね」

「それはどうも」

「このバリアを破るなんて、才能有りますね」


 感心したような顔で見ている。


「バリアを破ったご褒美として、私の魔法を少しお見せしましょう」

 

 詠唱を開始するミナ。

 

「さぁさぁ、私の影たちその姿を現し給え……影分身シンパシーアバター

 

 七人のミナの分身が現れる。

 どれが本物か分からないので光の矢を討つのをやめる。


「あら、いい判断ですね」


 ミナたちが魔法を展開する。


「影の力を用いて」

「光の力を用いて」

「火の力を用いて」

「風の力を用いて」

「水の力を用いて」

「雷の力を用いて」

 

 それを言うとそれぞの詠唱を始める。

 詠唱が終わり、もう一人のミナが唱える。 


「圧縮」


 全ての魔法を圧縮し、1つの大きな塊が出来上がる。


「避けた方が良いですよ、混沌砲アビス・バーン


 魔法を放ってくる。

 直感的に悟った。

 これは受け止めるべきではないと本能がそう言っている。

 幸いスピードはそこまでの為、避ける。

 避けるとミナは指をクイッと上げると先ほどの魔法がゆっくりと昇っていく。

 そうして頭上で爆発が起こる。

 その魔法はこの辺りを吹き飛ばすのではないかと思われる程、大きな光が周りを包んだ。



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