28話 選択……

 自警団にオクト―達を引き渡し、お祭りを楽しんで家に帰るとウオラとミリーが出迎えてくれる。

 そこにはよくわからないが、何か違和感を感じる。


「あ、おかえりなさい。今日はお手柄だったそうじゃない」

「えぇ、まぁ……それより何かあったのですか?」

「そう言うわけじゃないの、ちょっといい? 大事な話があるの……」


 大事な話というのは恐らくサウルにも関係のあることなのだろう。

 ミリーは台所へ行きいつものように持ってくるホットミルクを受け取って椅子に腰かける。


「サウル、ここの生活は楽しい?」

「はい、楽しいですよ?」

「そう」

「あの、どうかしました?」

「レイスは知っているだろう?」

「えぇ」


 あの美男子を忘れるなんて記憶喪失でなければ忘れるわけがない。


「あいつに依頼されてな。 それで王都を拠点として活動する方向で話が進んでいる。」

 

 恐らくレイスに二人は呼び出されたのだろう。

 必然的に幼い僕も引っ越しというわけだ。

 それに依頼ということは、貴族か又はそれに連なる階級の人なのだろう。

 だからここに来た時はフードを被っていたのか。


「それって、いつですか?」

「一週間後だ」


 それだけ早く済ませたいのか、又はそれだけ厳しい状況なのだろう。


「だが、お前はまだ子供だ……俺はここに残すのもいいと思っている」


 子供にとっては新天地は戦場だ。

 新しいところに行けば新しく友達を作らないといけない。

 サウルの様な田舎者は迫害される可能性が高い。

 そうすればサウルは独りぼっちだ。

 そうなるくらいならと両親は気を利かせたのだろう。


「ルースにはずいぶん前に話してあるし、快く受け入れてくれる」

「そうですか」

「だが、もし王都に行くのなら,お前はアルス王国王立魔法科に通える。 今のお前なら受験しても上位に食い込めるだろう」


 魔法の基礎はミリーに叩き込まれているが、王立魔法科に行けばもっと沢山の魔法を会得することができる。

 両親が教えられない投影魔法だ。


「それに投影の魔法を会得するには行った方がお前の為にもなるし、どうだ?」


 投影魔法は世界でも扱える人が少ない……。

 アルス王国には、投影について研究している研究者が魔法科にいるという噂がある。

 しかしアルス王国に行くということは、ここの皆とお別れしないといけないことになる。


「いつ戻れるんですか?」

「………わからない、だがお前が魔法科を卒業したら戻るもよし、好きにすると良い」


 魔法科は段階制だ。

 全部で12段階あり、各段階は試験を合格すれば次の段階へ行くことができる。

 筆記試験などはなく、与えられたそれぞれの魔法の課題をクリアできればいい。

 出来る奴は早くに卒業できるし、できない奴は一生卒業できずに辞めていく。

 完全実力主義だ。

 更に卒業して魔法科研究に携われるのは、主席とその他数名だという。

 狭き門だ……。

 だけど魔法科を卒業というだけで職に困ることはないと言われている。

 冒険者や魔道具開発、指導者と様々な職種で優先的に採用されやすいのだ。


「………」


 せっかくの魔法に携われるというのに直ぐに返事が出来なかった。

 脳裏に浮かぶのはリラとルラとこの村の人達の事だった。

 別れたくない、しかし自分の魔法を知るチャンスでもある。

 両者がせめぎ合い、答えることができない。

 それがわかっているかのように、ウオラはサウルの頭に手を乗せる。


「気持ちはわかる。 お前はまだ小さい、ここに残るも選択だ……別れるのは辛いよな……」


 ウオラはいつもの様な優しい顔で語り掛ける。


「だが、これだけは覚えておいてくれ。 別れは必ずある、だけど今生の別れじゃない。 もしも、お前がこの村のためを思うのなら、六年修行して強くなってお前がここを守ればいいんじゃないか?」

「僕に出来るでしょうか?」


 出来なかったらどうしよう。

 出来ないのならここに居たっていいんじゃないか?

 僕如きが卒業できるのか?

 身の程って物があるだろう?

 前世で何も成し遂げられなかったのに出来るのか?

 様々な不安が、心を締め付ける。

 

「お前ならできるとは言わん、だがと俺は思うぞ」


 何故だろう、普通なら余計にプレッシャーになる筈の言葉なのに、不安が完全に消えている。

 

「そうですね」

「まぁ今すぐとは言わん、ゆっくり考えると良い」


 これ以上この話はせず、いつも通りの夜を過ごすのだった。





―――――――

 1月7日少し改変

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