第11話



「由々しき問題だわ。」

「はい、姉上。姉上の好きなカモミールティーです。熱いので気を付けてくださいね。」

「ありがとう…じゃなくて、こういった行動こそが噂を加速させていくのよ。…頂くけど。」



私とユリウスは昼食をとるため学校の中庭に来ていた。学校には食堂も併設されているのだが、周りの視線に晒されながら食べる食事ほど不味いものはない。私は見世物の動物じゃないのだ。

少なからず中庭にも人の姿はあるものの食堂にいるよりはマシだ。ユリウスも食堂は落ち着かないようで昼食はいつも中庭で一緒にとっている。


ユリウスからカモミールティーを受け取り一息つく。

私達は今、ピクニックのように芝生の上にシートを敷き、その上で邸から持ってきたお弁当を広げていた。ティーセットはいつもユリウスが邸にあるものを転移の魔法で出してくれる為、学校に居ながら邸で飲むのと同じ紅茶を味わうことが出来る。…便利だ。


こうしてユリウスはいつも甲斐甲斐しく私の世話をしてくれる。何度もやめて欲しいと言ったのだが「もはや前々からの癖の様なものですから…。」と言われてしまった。

ユリウスは記憶が戻る前の脳内お花畑な私の子守りをよくしてくれていた。そのせいでついてしまった癖なのならば本当に申し訳ない。…いや、完璧に私のせいだろう。

こういう所も何とか直して姉の尊厳を取り戻したいのだが、どうも上手くいかない。だが、問題はこれよりも…



「姉上、噂は所詮噂です。どうかあまり気にしないでください。」

「気にするわよ。私が貴方を虐めているなんて噂だけは許せないわ。」



私が今頭を抱える問題はこれなのだ。何故か今、私が姉という立場を利用して義理の弟をまるで奴隷の様に扱い虐め倒している、という噂が学校中に流れているのだ。

何も出来ない甘ったれの公爵令嬢という皆の認識がこうもガラリと変わるなんて…やはり噂は恐ろしい。


噂の渦中に共に身を置いているはずのユリウスは呑気にデザートの準備をしている。その様子にため息が出た。



「…ねぇ、ユーリ。そっちは大丈夫なの?何も言われてない?」



自分が人から何を言われようとも気にしないが、ユリウスまで被害があるとなると話しは違ってくる。



「大丈夫ですよ。たまに噂を鵜呑みにした方が僕に話しかけてきますが、その度に噂の訂正を行っていますので。いずれこの噂もデマだということが分かって落ち着くでしょう。それに…」



やはりユリウスにも被害が…!なんという事だ。早々に解決させなければ…!

噂の発生源には心当たりがある。噂を払拭するためにはその根本を絶たなければならない。考えを巡らしている私の耳にユリウスの最後の言葉は入ってこなかった。



「姉上。」



ピタッとユリウスは自身の人差し指を私の眉間に押し当ててきた。思考の海に深く潜っていた私は現実に戻される。



「凄いしわですけど…僕の話聞いていましたか?」



グリグリと人差し指を私の眉間に押し付けてくるユリウスの腕を掴み、下に下ろさせる。

正直ユリウスが最後の方何を話していたのかは覚えていない。

また心配そうに私を見るユリウスを安心させるため微笑んでみせた。



「もちろん聞いていたわ。大丈夫よ、ユーリに迷惑はかけないから。さ、デザートも食べちゃいましょうか。」

「…そうですね。」



そう言って手渡してくれたのはシューンベルグ公爵家の料理長お手製の苺のムースだ。


―苺…。


その淡いピンク色に胸の中に苦いものが込み上げてきた。それを誤魔化すように私はムースをスプーンですくって口の中に運びいれる。すぐに甘酸っぱい苺の風味が口の中に拡がった。


美味しい。とても美味しい。

目を瞑って食べれば問題ない。




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