第68話
ケヴィンの宣言に、狼牙族の族長ガウと青年ウルドは、ともに目をしばたかせた。
ガウは大きく息を吐き、ケヴィンに向かって口を開く。
「ワウの友──ケヴィンといったか。手助けしてくれるという気持ちは嬉しい。だが冒険者が一人や二人、あるいは四人加わったところで、あの九の首を持つ大蛇に勝てるかどうかは分からんのだ」
一方でウルドも、何かの気持ちを振り切るようにぶんぶんと首を横に振ってから、ケヴィンに言う。
「オレサマたち誇り高き狼牙族の戦士は、部族のみんなのために命を捨てる覚悟があるんだ! でもオマエは外の者だ! オレサマたちの集落のために戦うのは、なんか違う!」
ウルドの言葉は不器用だったが、ケヴィンはそれを、目の前の狼牙族の青年の誠意の表れだと見てとった。
ケヴィンはウルドに微笑みかける。
「大丈夫です。俺は死ぬつもりも、皆さんを死なせるつもりもないですから」
「なっ……!? オマエは何を言っているんだ!」
気色ばむウルド。
族長のガウもまた、怪訝そうな顔を見せる。
ワウが前に出て、ウルドとガウに向かって言う。
「父ちゃん、ウルド。ケヴィンはすごく強いんだ! ケヴィンがいれば百人力だ!」
「あ、あの、ワウさん……百人はさすがに、言いすぎかと……」
「ん、そうか? 弱っちい戦士が百人よりも、ケヴィン一人のほうが強くないか?」
当のケヴィンからの突っ込みに、ワウは首を傾げる。
どうにも締まらないコンビであった。
一方では魔導士のルシアが、族長のガウに向かって進言する。
「ヒュドラの再生能力は、炎か稲妻でダメージを与えることによって、一時的に止めることができるはずです。私も魔法でお手伝いします」
「魔法……たしか人間たちが使う、呪術のようなものだったな。ふむ……」
族長のガウは、考え込む仕草を見せた。
しばしの後、彼はケヴィンに向かって問いかける。
「ワウの友ケヴィンよ。お前は自分が死ぬつもりも、オレたちを死なせるつもりもないと言ったな」
「はい」
「オレは部族の戦士たちの命を預かる身だ。オレが間違えると多くの同胞が死ぬ。ワウの友ケヴィンよ、お前の強さを見たい」
「分かりました」
ケヴィンと族長のガウは、言葉少なに語っただけで、互いの意志を察した。
二人は連れ立って、洞窟の外へと出ていく。
「おーっ、父ちゃんとケヴィンの勝負か!」
興奮したワウに加え、ルシア、ジャスミン、それにウルドら集落の狼牙族たちもそれに続いた。
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