第44話 村人たちの議論
近隣の山に大型の
すぐに村の代表者たちが中央広場に集められて、会議が持たれる。
代表者以外の村人たちも、会議の場を取り巻くように大勢が集まり、ケヴィンたちもその中に混ざっていた。
時刻は夕方を過ぎ、夜に差し掛かろうという頃。
口火を切ったのは、老齢の村長だった。
「近くの山に降り立ったドラゴンの話は、皆すでに聞き及んでいることと思う。ここで話し合うべきは、我々はどうするのかだ」
すぐに別の代表者たちが声を上げていく。
「悠長に話し合いなんてしている場合じゃないだろう! ドラゴンの翼なら、あの山からここまではひとっ飛びだぞ! 早くここから避難しないければ……!」
「だが避難といったって、具体的にはどうするんだ? 五百人を超える村人をどこに避難させる? 我々の明日からの生活はどうなる? 子供や老人だっている。この村を捨てて我々は生きていけるのか?」
「し、しかし……!」
「やはり国に救援を求めるべきだろうな。大きさから察するに、
「救援を求めるのはいい。だが救援の到着がいつになるかが問題だ。この辺境の村まで戦力を送ってもらうには、どれだけ早くても五日以上はかかるだろう」
「それまであのドラゴンが、この村のことを放っておいてくれるかどうか、か……」
「じゃあどうするというのだ……!? どうしてこんなときのために、ドラゴンを倒せるだけの戦力を村に用意しておかなかったんだ!」
「無茶言うなよ……。そんな大戦力を常に村にキープしておくなんて、いくら金があったって足りやしないぜ」
「ぐぬぅううううっ! こんな理不尽があってたまるか! おかしいではないか! ──そ、そうだ! まだあのドラゴンがこの村を襲ってくると決まったわけじゃないんだ! はははっ、私は何を怯えていたのだ……!」
「現実逃避すんなよ……。そりゃあその可能性もあるけどさ。あんたが言ったとおり、今すぐドラゴンがここまで飛んでくる可能性だってあるんだぜ」
「だったらなぜ、お前たちはそんなに落ち着いているんだ! おかしいではないか!」
「慌てたところでどうにもならないからだよ。こっちだって気持ちに余裕があるわけじゃないんだ。ちょっと静かにしていてくれよ」
「ドラゴンなどというのは、災害のようなものなのだ。理不尽と叫んだところでどうしようもない。我々にできるのは──」
喧々諤々と、村人たちの議論が行われていく。
周囲を取り巻く村人たちからも、口々に不安の声があがっていた。
子供を抱きしめる母親や、震える恋人を抱く男の姿もある。
ケヴィンたち四人はその中にあって、互いにこそこそと話をしていた。
「ドラゴンは強いぞ。でもケヴィンなら倒せないか?」
「さすがに難しいやろな……。賞金首にモンスターランクA+ってあったやろ? ランクだけで見たら、ギルドマスターのヒューバートさんでも敵わん公算のほうが大きいいうことになる」
「でもそれは、一対一ならの話ですよね? 私たちと、それにローナさんたちも手伝ってくれれば、あるいは──」
「そらそうかもしれんけど、だとしても結果は全然分からんよ。うちらが全滅する可能性だってある。そこまでする義理、うちらにあるか?」
「…………」
ケヴィンは先輩冒険者たちの話を聞きながら、黙って考えていた。
自分がどうするべきなのか、少年は決めかねていた。
ケヴィンが思い出すのは、父親の言葉だ。
何年も前、まだケヴィンが幼い頃に、父親は少年に稽古をつける最中に言った。
『ケヴィン──お前が本当に強くなるためには、神が与えた試練に挑まなければならない。お前にはたぐい稀な才能があるが、まだ「それだけ」だ』
『神様が与えた、試練……? 父さんも、試練に挑んだの?』
『ああ、何度もな。どういうわけか、俺たちにはそういうものが巡ってくるらしい。神が与えた運命だとでも思わないと、帳尻が合わないってことだ』
『俺たち……?』
『そうだ。俺が出会った「英雄」と呼ばれるようなやつらは、みんな同じようなことを言っていたよ』
そんな父親の言葉を思い出しながら、ケヴィンは考える。
いま自分が、何をするべきなのかを──
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