第33話 拘束
戦いが終わると、盗賊のジャスミンがロープを使ってナイジェルら四人を拘束し、動けないようにした。
次に四人を背中合わせにして地べたに座らせ、ケヴィンが
その後ジャスミンが、ナイジェルの頬をひっぱたいて目を覚まさせた。
「やぁクソ色男。お目覚めの気分はどうよ?」
「うっ……。この状況は……俺たちは、負けたのか……。くそっ……! テメェら、俺たちをどうするつもりだ!」
目を覚ましたナイジェルは、ケヴィンら四人を見回して怒鳴りつける。
それに応じたのは、彼と因縁の深いルシアだ。
「ナイジェルさん、どうして……。こんなことをしたって、ナイジェルさんたちには大した得もないじゃないですか」
それを聞いたナイジェルは、表情を歪めて口を開く。
荒っぽかった口調が、ルシアを前にして少し変わった。
「どうして……? どうしてだって? ハハッ、そんなのは決まっているだろう! ルシア、お前を僕のものにするためさ!」
「私を……?」
「そうだよ! お前が僕のものにならないからいけないんだ! だったら奪うしかないだろう、お前のすべてを! まずはたっぷりと心行くまでお前を犯して、そのあとは裸にして首輪を付けて飼うんだ。僕にだけ従順な雌犬じゃなきゃいけなかったんだよお前は! だっていうのにさぁ!」
「な、何を言って……!?」
うろたえて、後ずさりをするルシア。
その少女の肩を叩くのはジャスミンだ。
「今の話で、だいたい事情は分かったわ。分かりたくもないけどな。こいつは普通じゃない。ルシア、あんたはこれ以上、聞かんほうがええわ」
「……うん」
ジャスミンはルシアを軽く抱いて、背中をぽんぽんと叩く。
ルシアはジャスミンの胸に顔を埋めて、肩を震わせていた。
ナイジェルとの対話を引き継いだのは、ケヴィンだ。
少年は、拘束状態で座らされた青年の前に立ち、その姿を見下ろす。
「ナイジェルさん。あなたたちがやったことは、決して許されることじゃありません。街まで連行しますので、司法の場で自分たちの罪を包み隠さず話してください。正当な裁きが下されるはずです」
だがそれを聞いたナイジェルは、鼻で笑った。
青年は歪んだ顔でケヴィンを見上げ、睨みつける。
「はっ、見下してんじゃねぇぞクソガキが! バカのお前にも分かるように説明してやるがな、一歩でも街を出たら、そこはもう法律なんて及ばない無法地帯なんだよ! 街の外で起こった冒険者同士の争いなんざ、ノージャッジなんだよバァアアアアカッ!」
「……あのな、あんた。それ言うたら、うちらがここであんたら殺しても同じやけど、分かっとんの?」
ジャスミンが横から突っ込みを入れるが、それにもナイジェルは恫喝するように怒鳴り返す。
「見下すなっつってんだろうが! 犯すぞこのクソアマ!」
「あー、もう話にならんわ。……チッ、しゃーないな。殺るっきゃないか」
苦い顔をして、短剣を取り出すジャスミン。
しかしケヴィンが、そんなジャスミンを手で制した。
「待ってください。それ、違いますよ」
「「ん……?」」
ナイジェルとジャスミンの口から、疑問符のついた声が同時に漏れた。
聖騎士見習いの少年は、説明を続ける。
「二人とも、街の外で行われた違法行為に関する法治の認識が間違っています。街の外で行われた行為にも、法は及びますよ。ただ訴えがなければ裁かれることもないので、事実上、無法地帯のようになっているだけだと思います」
「「……???」」
ケヴィンが説明しても、やはり頭上にたくさんの疑問符を浮かべるナイジェルとジャスミン。
ジャスミンはひとしきり首をひねってから問う。
「えっと……少年、それってどゆこと?」
「んー、どう説明すればいいのか……。ほら、冒険者同士の争いで片方が全滅してしまったら、その殺人行為を犯罪として訴える人がいなくなるじゃないですか。誰からも訴えられなければ、裁きにもかけられないので、事実上無法同然になっているだけなのではないかと」
「てことは……訴えられさえすれば、街の外で起こったことでも法で裁かれるいうこと?」
「はい。そのはずです」
「んー……でも、街の外は法治の外っちゅうのは、冒険者の間では常識なんやけどなぁ」
「それは何でか分からないですけど。冒険者の口伝で間違った認識が広まったとか、そのあたりじゃないでしょうか」
「ほーん……。しかしさすがやな少年、博識やわ。恐れ入った」
「い、いえ、そういうわけでは。聖騎士の試験では、法律に関する知識も問われるんですよ」
「ふっ──ははははははっ!」
そのとき突然に笑い出したのは、二人の話を聞いていたナイジェルだ。
すっかり表情を歪ませた青年は、ケヴィンを小馬鹿にするように言い放つ。
「──で、それがどうしたクソガキ? 無駄知識ひけらかして賢いですアピールか? はっ、知識があったところで、やはりバカはバカだな!」
「……どういうことです?」
ケヴィンが問い返すと、ナイジェルは精いっぱい少年をあざ笑うようにして答える。
「くくくっ……。いいから俺たちを街まで連れて行けよ。正当な裁きとやらが下されるんだろう? だったらやってみろよ!」
「はあ……では、そうします」
そういったわけで、ケヴィンたちはナイジェルらを連行して、街へと帰還することになった。
だがその際、ジャスミンが不安そうに、ケヴィンに問いかける。
「なあ少年、本当に大丈夫なんか?」
「はい。そのはずですけど、何が心配ですか?」
「いや、だってな──」
ジャスミンはナイジェルらに聞こえないところまでケヴィンを引っ張っていって、少年に耳打ちする。
それを聞いたケヴィンは「なるほど」と言って、ジャスミンに返事をした。
「それなら大丈夫ですよ。だって──」
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