第28話 陰謀
一方その頃。
ナイジェルらのパーティは、いまだに廃神殿の外で待機していた。
グールなど一体も倒してはいない。
そればかりか、彼らは「暇だから」とカードゲームを始めている有り様だった。
ナイジェルが一枚のカードを捨て札にしながら、こう口にする。
「くくくっ……。あの脳筋の少年とバカ女どもは、そろそろ最初のグールの群れに遭遇でもしている頃かな」
それにパーティメンバーたちも、カードを場に捨てたり、山札からカードを引いたりしながら応じた。
「へへへっ、バカなやつらだぜ。ナイジェルさんの手の上で踊らされているとも知らずに」
「まったくだ。それにしても、グールどもと連戦して消耗しきったところを一網打尽とは、さすがナイジェルさんだ。考えることが違う」
「キャハハハッ、何しろグールの群れが相手だしね~。Dランクの二流パーティじゃ、無事じゃすまないでしょ~」
「そういうことだ。そして力を使い果たしてあの神殿から出てきたところを、この『爆炎のジュエル』でドカンだ。ひとたまりもなかろうよ」
ナイジェルは口元をつり上げ、公の場では見せない邪悪な笑みを浮かべる。
「くくくっ……ルシア、待っていてくれ。もうすぐキミは僕のものになるんだ。──キミが僕の思い通りにならないからいけないんだよ? そんな女、力ずくで奪うしかないじゃないか」
邪悪な表情を浮かべるのは、ナイジェルばかりではなかった。
彼のパーティメンバーたちもまた、歪んだ欲望に満ちた顔で笑う。
「へへっ、ナイジェルさん、あの獣人のメスガキは俺にくれるって約束、頼みますよ」
「俺はあの盗賊女だ。ひひひっ、やつらが泣き叫ぶ姿を見るのが、今から楽しみだぜ」
「キャハハハッ、あの男の子はあたしのものだからね~。あの生意気な子が、全身を滅多刺しにされてどんな悲鳴を上げるか。もう想像しただけで達しちゃいそうだわ~♡」
ナイジェルらの計画は、ある意味でとてもシンプルであった。
グールの討伐数勝負という正々堂々の戦いを挑んだと見せかけておいて、その真の狙いは、消耗したケヴィンらを騙し討ちにすること。
そうして少年や少女らの戦闘力を奪った後に、ナイジェルたちの歪んだ欲望のはけ口にしようというのが、彼らの本当の目的である。
その動機が常軌を逸しており、ケヴィンらの想像の埒外であったため、少年たちは彼らの行動を読み当てることができずにいたのだ。
「くくくっ……。少年、キミたちは人を信用しすぎなのだよ。ひとたび街を出れば、そこは正義の及ばぬ無法の地だと知っておかなければいけなかった。迂闊だったね」
ナイジェルは最後の手札を捨て、ゲームを上がりながら笑う。
ほかの三人が悔しそうにカードを投げ出し、懐からいくばくかの銀貨を取り出してナイジェルに渡した。
そのうちの一人、女冒険者がリーダーに向かって問う。
「でもナイジェル、あいつらがグールどもに殺されるってことはないの?」
「さてね。ただあの少年は、僕ほどじゃないだろうがなかなかのやり手のようだ。当然に苦戦はするだろうが、どうにかなるのではないかな」
「ふぅん」
「それによしんば彼らが全滅したとして、僕たちには何ら損害はないよ。楽をしてグール退治のクエストを終えるだけさ」
「それはそうね。でもルシアのことはいいの? あんなにご執心だったのに」
「僕の思い通りにならない女が、ほかの男と楽しそうにしているよりは、死体になってくれた方が何倍もいいさ」
「キャハハハッ、怖いわね~、男の嫉妬って」
「人を苦しめるのが趣味の女に怖いと言われてはね。──さて、もう一ゲームしようか。彼らが出てくるまでには、まだしばらく時間がかかるだろうからね」
ナイジェルたちは、カードゲームの第二ラウンドを開始する。
こんな邪悪な計画も、彼らにとっては取るに足らない日常の出来事の一つなのだ。
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