第120話 思わぬ援軍(味方とは限らない)
「それがシロ、あんたの特集案って事?」
「そうです」
夕暮れの部室。いつもの位置に座っている皆に、いつもの如く豪華な椅子に腰を据えて俺の方をじっと見ているヨーマ。
ある意味いつも通りの部室の雰囲気だけど、今は若干の沈黙に包まれている。
「まぁ、昨日部活をサボって考えただけあって……なかなか良い線はいってると思うわ」
おっ、おぉ! ヨーマが褒めたぞ?
「ただし……」
あっ、やっぱり上げっ放しじゃ終わらないんですね?
「それがどう転ぶかは正直見当もつかないわ?」
「そうですか……」
「まずは、取材相手が見つかるかどうか。過去をえぐる様な話をしてくれる善人が居るかしら?」
うぅ……ごもっともです。
「それに、怖い話とは違ったシリアスなテーマ。しかも運動に関しての事だから……今現在頑張ってる運動部の生徒から距離を置かれるかもしれないって事。もしかしたら自分が……なんてネガティブな感情になる可能性だってあるんだし?」
ですよねぇ。まぁ夏休み明け1発目にやる特集ではないか。まだ海璃の残暑を吹き飛ばせ怪談特集の方がいいわな。
「まっ、まぁこの特集は俺がちょくちょく取材してどこかのタイミングで掲載するってのも有りだと思うんで、気長に……」
「手伝いましょうか?」
その声に、一瞬で皆の視線がそっちに向かう。俺も勿論同じ行動をしたんだけど……その先に居たのは、奴だった。
「その取材、私も手伝いましょうか?」
はっ、はぁ? いやいや、今まさに延期にしようって話してた所っ! リスク考えたら様子見だろ? なんでこんな時に空気読まずにそんな事言っちゃうわけ? 凜?
「わっ、私も手伝うよっ!」
今度は一斉に皆の視線が、その横に居る人物へと移っていく。まぁ大体は予想できるよ? 声一緒だし? 隣だし? にしてもさ?
なんで立ち上がって、しかも手まで上げてアピールしてんだよっ! 恋!
「へぇ、モテモテじゃない。シロ」
モテモテじゃねぇよ! あんたむしろこの状況楽しんでんじゃねぇか? 焦る俺に、リスク高めな特集やらせて? 見事ハズレたら……どんなお仕置きしようかって考えてんだろっ!
「いっ、いや。別にこのタイミングじゃなくても……」
「私は良いと思う。鳳瞭学園の部活動が強豪揃いなのは誰でも知ってる。でもその影で怪我をした人とかも居るし、それをサポートする人も居るんだよ? そういう人達にスポット当てるのって良いんじゃないかな?」
「そっ、そうだよ! 縁の下の力持ちって奴じゃん? まぁツッキーが1番力入れようとしてる、怪我とかが原因で引退を余儀なくされた人のインタビューはキツイと思うけど……私も一緒に探すよっ?」
えぇー! なんで君達そんな乗り気なのっ!
「えぇ……2人がそんなに言うなら、私も手伝いまーす」
てめぇ海璃! 言葉に覇気がないんだよ! なんか一緒にやるって言わなきゃいけない雰囲気かな? とかって思ってるのバレバレだぞ? それはそれで腹が立つんですけど?
「あら、意外と皆乗り気じゃない。どう思う? 采?」
「うーん」
あぁ、頼む桐生院先輩。注目度と内容のリスクを考えて、止めて下さい!
「良いんじゃないかな?」
終わった……
「正直、僕だったら考えもしなかったかもしれないね? これまで各部活のスター選手とか? 期待の新人特集はやって来たけど……それをサポートする人達に注目した特集は初めてだよ? それに……聞けたら凄く良いと思うな? 怪我をして引退を余儀なくされた人が、それでもスポーツに携わっていきたいっていう思い」
「ですよね?」
「ですよね?」
あぁ、桐生院先輩のお墨付きまで戴いちゃったよ。しかも2人同時に話さないでもらえます? めっちゃエコーに聞こえるんで。
「じゃあ、シロ?」
「はい?」
「夏休み明け一発目の特集はシロの案で行くから? 皆で協力して……くれぐれも鳳瞭ゴシップペーパーの信用を落とさないでね?」
はははっ、何度か見た事ありますよ? その悪魔の微笑み……。内心ヤバいって言葉しか浮かんでこないんですけど?
「良いかしら?」
「ハイモチロンデスー」
という訳で次の日、俺と凜は三月先生の研究室へと足を運んだ。
正直、なぜ恋も居ないのか歯痒かったけど、別の取材なら仕方がない。
「という訳で……弥生ちゃん、リハビリの光景を追跡取材させて欲しいんです」
「いいよー」
返事軽っ! いやいやそんな感じはしたけどさ?
「じゃあさ、見出しは美少女アスリート涙の復帰物語でお願いね?」
「任せて? 蓮、よろしくね?」
「はっ、はぁ?」
タンマ! それは昨日丁重にお断りしたんだよっ!
「じゃあ、私は魅惑のスポーツトレーナー! その秘術の謎に迫るでお願いね?」
「勿論です! 蓮、よろしくね?」
おいー! 魅惑ってなんだよっ! しかも秘術って科学否定してるよ!
「それじゃあ早速、見学してもいいですか?」
「はいよー、じゃあさっそく始めようか? リハビリテーションルームオープン!」
三月先生はそう言うと、横に掛けられていたカーテンを思いっきり開く。机の後ろ、昨日来た時には全然気にならなかった場所が広がる。
「ささっ、どうぞ?」
「今日も頑張るぞー」
慣れた様子でその奥へと歩いて行く2人。そんな後ろ姿を見ていると、横に居た凜もすかさず付いて行く。
「うわぁ……」
その空間の中を目にした、凜の驚く声。その声に俺が興味をそそられたのは当然だった。
なんだなんだ? その先に一体何が? てかカーテンの存在全然気付かなかったわ……。
まぁ普通に考えたら外見は普通の教室なんだから、このスペースだけってのはおかしいんだよ。教室を仕切って、俺が今居るのはいわゆる診察室。だとしたらその隣にあるのは……
ここからでもチラッと見える、何かしらの機械の断片。やっぱりそうだよっ!
そんな期待をしながらゆっくりと見えてくるその空間。そこに姿を現したのはまさしく……
「すげぇ」
リハビリテーションルームの名に恥じない、診療器具や機械のの数々だった。
なんだよこれ……見た事ある奴から、何に使うのか全然分かんねぇ物まで沢山あるぞ?
ランニングマシーン? 座って動作確認するイス? なんだあの四角いのは? その中にベッドっぽいの有るって事は、寝ながらあの箱の中でなんかやるのか? しかもあのモニターに囲まれた場所はなんだよ? こりゃ……想像以上に凄いぞ?
「烏真先生? これって全部リハビリの為の機械なんですか?」
「それもあるし、動作を確認する機械もあるよ? あとは筋肉にどの位負荷がかかってるか視覚化できるものもあるしね?」
まっ、マジ? なんか地味にすげぇ事言ってないか?
「じゃあやっちん? 早速やろうか?」
「はーい」
「じゃあ、早速着替えて?」
「私も居ていいですか!?」
「もちろん! ……」
これを使いこなす三月先生ってやっぱり物凄く凄いんじゃ……?
「……」
「……」
やっぱ人は見掛けに……ん?
「ジー」
あれ? なんで皆俺の方見てるの? しかも若干視線が冷たいんですけど?
「蓮?」
「なんだよ?」
「弥生ちゃん着替えるんだって?」
着替える? まぁリハビリやるなら着替えは必要だろう?
「うん」
「うんって……着替えるって制服の上着脱ぐんだよ?」
「ほら、みつきっち? 昨日言った通りでしょ」
制服の上着……?
「そういえば! だとしたら……ツッキーって意外と大胆不敵なんだね?」
「私もまさかこんなにも堂々と体見られるとは思いもしなかったんだけど……」
体……? はっ! 着替えるってそういう事かよ! マジか? 機械への感動でまったく気にしてなかったっ!
「でも、こんだけ堂々としてたら私もなんか見せても良いかなって……」
「ダメだよ弥生ちゃん!? 乙女の身体を軽々見せちゃ? ほら蓮?」
危ねぇ危ねぇ……危うく大胆不敵な変態って通り名を付けられる所だったわ!
「失礼しますっ!」
俺はその瞬間、急ぎ足でその場を去ると、勢いよくカーテンを閉める。完全に視界が遮られた事を確認すると安堵感が体を包み込む。
ふぅ、変態疑惑はなくなったかな? まさかいきなり着替えるとは思わんだろ? まぁ仕方あるまい、今日の所は凜に様子を見てもらうしかないか……
「んあっ……。ちょっとみつきっち? 毎回揉むの止めてくれる?」
「まっ、毎回なんですか!?」
「いやぁ、だって目の前に日焼け跡が残る、柔らかそうなものがあるんだよ? 揉みたくなるでしょ?」
「だからって毎回は……」
おいおいこんな所で何やって……
「しかし……よく見たらりっちゃんもなかなか……」
「えっ?」
「隙ありぃー!」
なんだろう、なんでか知らないけど……
「ちょっとー! リハビリはどうしたんですかー!」
「んなもん後回しだー!」
じんわりと敗北感に襲われてるんですけど?
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