第119話 俺はまだちょっと疑ってますよ?
「はーい、じゃあさよならー」
何事もなく終わりを告げるホームルーム。そしてそのタイミングを俺は待っていたのだ。
「じゃあやっちん、私部活行ってるから。暇だったら顔見せてよ」
「りょーかい。リハ終わったら顔出してみるよ」
よし、沼北コンビが解散して……北山さんが1人廊下にっ! 今がチャンス!
そう、朝のあのやり取りから俺はふと考えていた。
鳳瞭学園って学力は勿論だけど、各部活動も強豪揃いってのは分かってるんだよ。そして設けられているスポーツリハビリテーションの学科……という事はだよ? 各部活に専用のトレーナーって居るんじゃね? 俺の経験上、テーピングとかはマネージャーがやってくれてたりはしたけど、基本的に怪我の手当とかは自分でやってたし、体調管理も自己責任だったから考えもしなかった……でも、もしかしたら鳳瞭なら有り得るかもしれない。
てか、もしかしてそのトップが三月先生だって可能性もあるぞ? 決して表には出ない、影の支配者……これは上手くいけば新聞の特集としてイケるかもしれないっ! だからこそ、北山さんがリハビリを受けている今こそ好機! この機を逃す手はないっ!
「あっ、北山さん?」
「んー? あぁしろっち。どうしたのー?」
「えっとそのー」
あれ? なんて言えばいいかな? リハビリ見せて? いやこれは怪我してる本人にしてみれば軽々しい気持ちで見に来んじゃねぇ! ってならない? 怪我の具合見せて? これじゃまるで医者じゃねぇか!
「んー?」
とっ、とりあえず差支えない様に言わなきゃだよなっ!
「しろっち?」
「えっ、えーっと。そのー、北山さんの体見せてくれない?」
…………
はっ、はぁ! 何言ってんだよ俺! ただの変態じゃないかっ!
「しろっちって、顔に似合わず意外と大胆なんだな」
はははっ……めちゃニヤニヤしてるじゃん? これは明らかに悪用する気満々じゃないっすか。
言い訳を……お願いだから言い訳を聞いてくれぇ!
「ぷっ! はははっ!」
「いや、笑い過ぎでしょ?」
「はっはっは! だってさぁ? いっいや、こここれは違うんだっ! 決して変態なんかじゃないよっ! ってあの焦りっぷり見たらさー?」
「止めて、思い出したくもない」
「はははっ。てかリハビリ見たいなら最初っからそう言いなよ?」
「いやー、いきなりそんな事言われたら怪しまれるかなぁって」
「体見せてって言われる方がヤバいっしょ?」
「……おっしゃる通りです」
えっと、北山さんの様子を見る限りこれはセーフって事で良いんだろうか? 必死の言い訳が通じたのかめちゃ爆笑してるし……うん、セーフという事にしておこう。
「まぁ気にしないけどさ。言われたのが私で良かったねぇしろっち。他の子だったら叫ばれて職員室行きだったと思うよ?」
「ははは……」
確かに……そう考えると一気に背中が寒くなるな。
「それで? リハビリの様子見るだけでいいの?」
「えっ、あぁそうだね」
「ふーん。もしかしてソフト部の美女アスリート復帰までの道のりみたいな?」
「まぁ半分は当たってるかな?」
「マジぃ? やっぱ美女アスリート枠かぁ」
「あっ、そっちの半分じゃないっす」
「……さぁ、しろっち好きな方選んで? 頭かお腹か大事なシンボル。どこにぶつけて欲しい?」
うおっ、どこからソフトボール出したんだよっ! しかも全部急所じゃねぇか! てか、あんた右肘リハビリ中でしょ? 振り被る動作したら……
「っ……!」
ほらぁ! ダメだろうよ。
「無理すんなって」
「ははっ、つい怪我してるの忘れちゃうわ」
そうだよな、ケガして1番傷付いてるのは……間違いなく北山さんだ。
「まぁ、優秀な先生も居る事だし、今は集中して早期完治目指すよ! はいっ、しろっち。到着だよ?」
そう言って北山さんが立ち止まった教室、そのプレートにはこう書かれていた。
「烏真三月……研究室?」
おいっ、名前は分かるぞ? でも研究室ってなんだよ。大学の先生とかなら分かるよ? でもここ学園よ?
「研究室?」
「まぁ要は先生の部屋だね?」
「部屋ぁ?」
部屋って……いやいや普通職員室でしょ? そこに自分の机あるんじゃないの? しかもここ一般的な教室と同じ大きさなんですけど? おかしくない?
「待って待って、なんか色々おかしい様な……」
「もう、ごたごた言ってないで入った入った」
「ちょっ、ちょっと」
その瞬間、北山さんは勢いよく扉を開けると、そのまま俺の背中を思いっきり押し出す。思いのほかの強烈な力、そして不意打ちくらった体は踏ん張る事も出来ず、成すがままにその中へと吸い込まれて行く。
おっとっと!
そして何とか勢いを殺して立ち止まる事が出来たのは、その部屋の真ん中辺りだと思う。ゆっくりと顔を上げていくと、両端にはデカい本棚に机が見えるし、目の前にはベッドと……そこに座る少し日焼けした誰かの足。
「おっ、ツッキーじゃん。なんだ学校で夜這いとは大胆だなぁ。でも残念ながら夜じゃぁないんだよ」
夜這い? くっ、そんな事平然と言える人と言えば数えるほどしかいないぞ? まぁ恐らくこの状況じゃ約1名しか当てはまらないんですけどね?
ゆっくりと顔を上げていく中、それが誰なのかは大体は予想できる。足を組み、若干笑みを浮かべながら俺の方を見つめる人物……それは勿論この部屋の主だった。
「違うよーみつきっち。しろっちは私の体見たいんだって」
「えっ、そうなの? 邪魔しちゃったか? けどここは一応私の研究室だし……」
「ストーップ! 夜這いでもないし、体目的でもねぇよっ!」
「またまたぁ」
「またまたぁ」
あぁ……なんだこいつら。絶対に引き合わせてはいけない2人じゃねぇか? ここに沼尾さんも居てみろ? もっと凄まじい事になるに決まってる。
「本当ですっ!」
「素直じゃないなぁ」
「ないなぁ」
……帰ろうかな?
「さて、まぁ冗談はこれ位にしといて」
冗談? 本当にそう思ってんだろうな? いやその通りなんですけど。
「やっちんはルーティンだから分かるとして、ツッキーはどうしてここに?」
まぁぶっちゃけ突っ込みたい事は山ほどあるんだけど……下手に突っついて面倒になるのはもうコリゴリなんですよね。なら、単刀直入に……
「まぁ単純な話です。スポーツリハビリテーション……それに興味があって来たんです」
「だから私の体を……」
「体じゃなぁぁい!」
「ははっ、やっぱしろっち面白いわ」
「でしょでしょ? 意外と面白いんだよ? ツッキーは」
誰か助けてくれぇ、せめてあと1人ツッコミの人ー! ボケを捌き切れねぇよー。
「まぁ冗談はこれ位にして」
……おい、その言葉は絶対信じないからな?
「まぁ、新聞の特集として考えてるって感じかな?」
ドキッ! ははっ……あの急に核心突くの止めてもらえます?
「まっ、まぁそれもあります。その役割自体に興味があるんですよ」
「それでここに向かう途中のやっちんをストーカーして来て……」
「セクハラまがいの発言を……」
「キャー」
「きゃー」
…………よし、帰ろう。
「すいません、お邪魔しました」
「まぁまぁ、ツッキー。これ位ジョークの内にも入らないって」
三月先生。だとしたらあんたジョークって言葉のレベルを履き違えてるよ。むしろジョークを越えた本音かと思いましたもん。
「それに、スポトレに着目してくれた事は素直に嬉しいしね」
ん? スポトレ?
「スポトレって……」
「あぁ、スポーツトレーナーの略」
「リハビリトレーナーとかじゃないんですか?」
「だって、なんか響きが格好良いじゃない?」
大丈夫なんだろうな? この人。
「まっ、まぁそれはいいとして……三月先生が学科担当ってのは本当なんですか?」
「モチのロンー!」
「北山さんのリハビリを手伝ってくれてるってのも?」
「私がバリバリやっておりますっ!」
「本当? 北山さん?」
「えっ、マジもんのマジだよー」
「なるほど……」
「ちょっと! なんで1回やっちんに聞いたのっ!」
いや、ちょっと信用できなくなったもんで。
「まぁそれはそうと……」
「むぅぅー!」
ふふふ、ちょっとは俺の気持ちが分かったかね? まぁともあれ、学科担当という事ならせっかくの機会だ、事細かく詳細までお聞かせ願いますよ?
「三月先生。スポーツリハビリテーション学科って、やっぱり運動部に入ってる生徒が多いんです?」
「んーそうだね。多いのは部活のマネージャーさんかな? やっぱりケアとか助言とか? 皆の力になりたいって感じだと思う」
なるほど……それは合点がいくなぁ。
「あっ、でもさこれはごく少数なんだけどね?」
少数?
「少数ですか?」
「うん。まぁあんまり声を大にしては言えないんだけど……数人は居るね」
居るって……しかも声を大にしては言えない? どんな人達か逆に気になるじゃんかっ!
「どんな人達ですか?」
「怪我をした……ううん、もっとハッキリ言うと……」
怪我……?
「大きな怪我や事故で……「選手生命を絶たれた生徒達」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます