第60話 火花散らす恐ろしき行事、再び
「おらぁ、いけぇ!」
「拾え拾え!」
「決めろー!」
やって来ました球技大会。俺が今居るのは第2体育館。競技はソフトバレーが行われております。
うわっ、なんだか体育祭を思い出すよこの雰囲気。
鬼の体育祭を思い出させる応援(怒号)が体育館に木霊する今日この頃。緩く適当に頑張ってきたはずの俺達は、最悪な事に……決勝トーナメントに進んでしまうという間違いを起こしてしまったのだ。
やべぇ……全学年くじ引きで7組3ブロックに分かれて、上位3組が突破だったよな? 俺達のブロック、見事に1年が4組に2年が3組って比較的良い感じだったけど、それでも勝てるなんて思わなかったんだけど?
「おーい、決勝トーナメントのくじ引き行ってきたぞー」
「おぉ、お疲れ片桐」
あぁ、その要因の1人と思われる奴が来やがった。大体、なぜ決勝トーナメントがくじ引きなんだ? 予選1位と予選3位とかが戦うんじゃないのか?
……3つだと上手く分けれないとかなのかもしれないけど……
「やったぞ? シードだった!」
「おぉ! じゃあ勝ったら決勝じゃん!」
うわっ、マジか? なんつう強運。おまけにスポーツ万能ってどんなスペックしてんだよお前。大体さ、活躍しすぎなんだよね? お前と……
「次も頑張ろうね? こっちゃん」
「うっ、うん。ごめんね? 私下手くそで」
あぁ……その要因2号が来やがった。
「全然気にしないで! あっ、ツッキー次の試合は?」
「なんかシードだって」
「おぉ! 勝ったら決勝か……頑張らないと!」
あんたもなかなか凄いよね? 体育祭の時もそうだったけど、新聞部のくせにその身体能力は何処から来る訳? 栄人より恐ろしいよ。
「まぁ、ケガしないように頑張ってくれ」
「こらぁ、ツッキーも頑張りなさいよ? やるからには勝つんだ!」
「そうだぞ? 蓮!」
うっわ、暑苦しいのが揃いやがった。こりゃヤバいわ。
「頑張るぞ!」
「「「おおー」」」
そこまで熱はでねぇよ。ほれ、早瀬さんだって引いてるぞ?
「早瀬さん、ケガしない様に程々に頑張ろう」
「そっ、そうだね。ごめんね? 私足引っ張てるよね?」
確かにトスやレシーブの動きが硬いってのはあるよな? まぁ足が速くても球技が苦手な人だっている訳だし……俺もそんなにボールに絡んでないから人の事言えないけどね。
「全然。てか、皆で楽しむのが大前提でしょ? 気楽に気楽に」
「わっ、わかった。ありがとうね? 月城君」
素晴らしい……今ので体力回復したわ。
「次―、2年5組対1年3組! 用意してー!」
先生の声が聞こえ、ついに俺達の出番がやってくる。ちなみに3組のメンバーは栄人に恋と早瀬さん、佐藤さんに俺と柳の6人。勘のいい人ならわかると思うけど、このバレーボールは混合なのである。
毎年ソフトボール、ドッチボール、ソフトバレーボールの3球技で争われるわけだが、どこが男女混合になるかはその年のくじ引き次第。ちなみに今年はドッチボールが男子、ソフトボールが女子で……各々やりたい種目を聞いてったら見事にソフトバレーに俺達学級委員+佐藤さんと柳が残った。
いかんせん変わり映えしないメンバーだが……皆まだ男女混じって競技をするには抵抗があるって事だろう。
「あっ、まさか5組って!」
おっ? どしたぁ? 誰か有名な人でもいたか? バレー部はソフトバレー禁止だからそんな強い選手は……
「あら、3組ってあんた達のクラスだったの?」
はっ! この耳を塞ぎたくなるこの声は……
「やっぱり、先輩のクラスだったんですね」
よりにもよって……ヨーマのクラスかよ!
「こんにちわ葉山先輩」
「あらこんにちわ、片桐君と早瀬さん……と……」
いや、なに俺の方見てんですか? 隣の早瀬さんの名前すっと出たんだから、そのまま流れで言いなさいよ。
「月城君もいるのね? これは……ようやく楽しめそうだわ」
楽しめる? そう言えばヨーマって運動とかどうなんだ? 体育祭では……走ってなかったような。
「負けませんよ? 先輩!」
「その心意気だけは褒めてあげる。けど、3年生を倒してここまで来た私達を……」
なっ、なんだ? 後ろにいる奴らの気配? いやオーラがっ……!
「甘く見ないでね?」
ぎゃー、でっでけぇ。しかもなんだその佇まい! あんたら明らかにラスボスとその側近の四天王的立ち位置じゃねえか! だが、どうやら冗談でもなさそうだ。確か5組はブロック1位通過、全勝でここまで来てる。言いたくないが、いくら栄人と恋が上手くても、こりゃ……負けるかもな?
「負けませんよ?」
「もちろん負けません!」
おっ、おい、そこの熱血漢2人組! なに自信たっぷりに言ってんだよ!
「ほほう?」
「だって、まだツッキーは本気出してないですもん!」
「こいつの本気の動きは半端ないんですよ?」
なっ……
「そうなのね? せいぜい楽しませて頂戴? つ・き・し・ろ・く・ん」
はぁぁ!? なんで俺を出すんだよ! 俺そんな事一言も言ってねぇじゃねぇか! しかもおいおい、あのヨーマの顔見たか? 完全に狙われるよ。ターゲットにされたよ! 最悪だ最悪だ、あの顔は最悪だ!
「おっ、おい! なんで……」
「話は後だ。行くぞ蓮」
「やるよ?」
てっ、てめぇらなにヒーローっぽく言ってんだよ! おい待て、話はまだ終わってないぞ? 説教させろ? いいか?
「月城君ー、急いでー」
……後で絶対説教だ!!
ピー
「13対14」
やべぇなぁ。ヨーマ達口だけじゃないぞ?
「1点返された! ここ取らないと、勢いに乗れないよ?」
「あぁ、踏ん張り所だ!」
現在14対13。15点マッチの試合形式で、現在は2セット目。ちなみに1セット目は圧倒されて完敗だった。憎っくきヨーマのトスワークに、四天王達の容赦ないスパイク。あんな弾丸腕に当てるだけで精いっぱいだっての!
けど、徐々にそのスピードに慣れてきたのか、俺も含めて皆何とかレシーブする回数が増えてきた。おかげで2セット目は今の所互角……だがこのセット取られたら負けが確定する。試合に負けるのは別にいいが……ヨーマに負けるのだけは絶対に嫌だ!
見たか? あの顔? 佐藤さんがレシーブしたボールを拾えなかった時の、
『そんなもの? シロ』
スパイクミスった時の、
『ふふふ』
最初はさ、別に負けても良いと思ったよ? 負けて損する事はないよ? けどさ……さすがに腹が立ってきた訳ですよ? それでさ……ふと思ったんだよね?
ヨーマに一矢報いるとしたら今じゃね? って。
ヨーマはクラスの中心人物、おそらく部活と同じ様子なんだろう。そして自ら出場しているソフトバレー……そのプレッシャーは少なからずあるかもしれない。だとしたら、そこでヨーマに勝てば……精神的ダメージを与える事が出来る!
弱みを握られ、部活でも無理難題を押し付けられ、いたぶられる……そんな奴に天誅を!
「サーブ来るよ?」
誰に来る? 俺だったら……狙うなら佐藤さんか早瀬さんだけど、相手もマッチポイントなら無理に厳しいコースは狙ってこないだろう。安パイで入れてくる確率の方が高い。
どちらも後衛で俺の左右に居るから、どっちにでも行けるようにするか。そんで、セッターポジションには栄人……状況によってはツーアタックで返せる。やはりポイントは……
「来たよ!」
「早瀬さん!」
「大丈夫俺が取る!」
レシーブの……
トンッ
正確性でしょ!!
「おっけー蓮!」
「ナイス!」
第一関門突破! どうだ? 前衛には恋と柳、どっちもスパイクによる点は取ってる方だ。相手はどんな感じだ? ちっ、もうすでに恋に1枚、柳に2枚付いてやがる。なら、栄人のツーアタックに掛けるべきだが
……ん? 真ん中辺りに2人? そして後ろにヨーマ? 待てよ? もしかしてあの立ち位置はツーアタック対策? あの2人で拾うつもりなのかもしれない。そうなれば、点を取れる確率は一気にあっちに傾く!
やばい! どうするどうする? 他に手は……あれ? 待てよ? 確かソフトバレーって、普通のバレーと違って……
「いつでもいいぞ! 片桐!」
「任せて!」
フリーポジションじゃないっけ?
その瞬間、俺は無意識の内に走り出していた。もちろん、バックアタックなんて打った事もないし、自分がどこまで飛べるのかすら分からない。けど、いざとなったら栄人のトスには間に合う気がした。
全て対策されてるなら、別な手を作ればいい。ヨーマが考え付かないような……そんな手を!
身体に感じるスピードをそのまま地面に送り込んだ反動が、足から指先にまで伝わる。まるで飛び立つような感覚に包まれながら、俺の目線の先に見えたのは不敵に笑うヨーマ。
もちろん、こんな初めての動きに栄人が反応できる訳はない。俺の目的はただ1つ……可能性が低いとしても、ヨーマに感じさせる事だった……もう1つの可能性を!
見てろ? ヨーマ、その不敵な笑み消してやる! 頼んだぞ? 恋、柳、えい……と……?
その刹那だった、俺の目の前に現れたのは……ボール。
マジか? なんで俺の所にボールが? いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃねぇ! サンキュー栄人。お前はエスパーだ! あとで褒めてやる! ボールの高さも十分だし、だとしたら狙いは……
ヨーマの両端奥! 誰も居ないあそこ!
正直、スパイクなんて意識して打った事なんてなかった。ただ手に当ててコートに叩きつける。それ位の感覚だったから、コートの奥に狙うなんてやった事もない。
けど、今は何だか違う気がする……自分の体がまるで自分の体じゃないような気がして、今ならどんな所にでもスパイクを打てる気がした。
腰をしならせ、腕を振りかぶって……思いっきり振り抜く! ボールにミートした瞬間乾いた音が体を突き抜けて、俺はそのボールを……思いっきり……叩きつけた!
行け……行け……!
コートの左奥へと飛んでいくボールに、俺は必死に願った。頼む、頼むから……
俺達に勝利を!
バチン!
床にぶつかったボールの音が、体育館に響き渡る。コート左奥……狙い通り完璧だった……はず。
さぁ、コールしてくれ! 15点だと言ってくれ!
地面に降り立った俺は、すかさずラインズマンの方を見たけど、なかなか口は開かない。皆の視線もはやラインズマンに釘付けだった。
そしてその瞬間は訪れる。皆の注目する中、ついにラインズマンの口が動き出した……
「イン!」
この瞬間、俺はやってやったのだ! たった1回、たった1回だけど、俺は……
ようやくヨーマに一矢報いたのだ!
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