第59話 前言撤回致しますっ!

 



「さぁてあんた達、この時期に直近の行事……何が言いたいか分かるわよね?」


 とある放課後、部室に響き渡るヨーマの声。そしていつもよりも甲高い声。と言う事は……知ってます。どうせとんでもない取材を俺に押し付けるんですよね? それに直近の行事と言ったら……


「先輩! ちょっと待ってください!」


 おっ! 恋が割って入ったぞ? 珍しいなぁ。


「なにかしら?」

「前に取材に行った白浜マリンパークは記事にしないんですか?」


 はは、恋も少し感づいてるかもなぁ。まぁ、栄人達にあんな事言われたら疑いたくもなるけどね。




「いやぁ、昨日は楽しかったなぁ」


 楽しかった? いやいや、お前が仕組んだんだろ? それをよくもしゃあしゃあと……ムカつくからイジメてやろうか?


「そうか? それにしてもお前達いつから付き合ってたんだ?」

「えっ!? あぁ……まぁ、ぶっ文化祭の辺りかな?」


 やっぱりめちゃくちゃ動揺してますね? 可能性としては十分あり得るが、あの4人でこっち見てた事を考えると……もしかしたら付き合ってるって嘘なんじゃないの?


「ほう、んでどっちから告ったの?」

「はっ、はぁ? おっ、俺に決まってるじゃん」


 なるほどなるほど。こいつのこんな姿見るのは結構レアだな。


「それで? 何回ぐらいデート行ったんだ?」

「えっと……そう、5回位!」


「5回? 少なくねぇか?」

「そっ、そうなのか?」


「手は繋いでたみたいだけど、一体どこまでいったんだ?」

「どっ、どこまでって?」


「部屋行ったのか?」

「何言ってんだ! 寮だぞ? 行ける訳……」


「そうか、じゃあ抱擁は?」

「抱擁?」


「キスは?」

「きっ、キス!?」


「それとももうあ……」

「わっ、分かった!」


 ふふふ、勝ったな。


「ん? 何がだ?」

「俺が悪かった! ……嘘なんだ!」


「ほう……じゃあ付き合ってないと?」

「はい……」

「じゃあなんでマリンパークに誘ったのかなな?」


 くくくっ、なかなかいい気分にさせてくれるじゃないかぁ。


「いや……その……」

「言えないのかね?」


「うーん、実は琴に頼まれたんだ」

「早瀬さんに?」


 その話本当か? 早瀬さんがそんな事するようには思えないんだけど……もしかして、あの屋上に来たのはそれなりの考えがあっての事か?


「あぁ……相談されてさ、最近日城さんの様子が変だって。なんか無理してる感じがして……それと最近月城君と全然話してないし、もしかしたら2人の間で何かあったのかなってさ」

「それでマリンパークに誘ったと?」

「そうです」


 なるほどねぇ。いつもならこいつが早瀬さんの名前を語って嘘付いてるって疑う所だけど、あの早瀬さんらしからぬ行動があったからなぁ……ここは信じてやるか。


「俺は良いけど、恋にも言っといた方が良いぞ? 恋と早瀬さん仲良いんだから、嘘だってすぐバレるぞ? それでギクシャクしたら元もこうもないからな」

「そうだよなぁ……」


 日城さんの事だし、根掘り葉掘り聞くのは間違いないだろ? もしかしたらもうすでに聞いてるかもしれん。教室行ったらすぐに話した方が良い。


「まぁ、ドッキリだったって言えば許してくれるだろ?」

「わかった! それにしても、お前日城さんの事いつから名前で呼んでんだ?」


「お前らのせいだろう! あの後なぁ今まで通りに呼んだら、すげぇ顔されたんだぞ? そりゃ恐ろしい顔だったんだぞ? つまり全部お前らが悪いんだ!」

「えっ、なんだが分からんけど……すまん」


 分かればいいんだよ全く。



「えぇ! 付き合ってない?」

「本当にごめん、恋ちゃん」

「ごめん、実はドッキリ仕掛けようと思って……」

「だそうだ」

「なぁんだ……ウキウキして損しちゃったぁ」


 えっ? なんか想像してた反応と違うんですが? なんかこう……怒ったりとかは?


「怒ってない……?」

「別に? 怒るってよりガッカリの方が大きいよぉ」

「ごめんね?」


 なにそれ? なんか早瀬さんにだと甘くね? ずるくね?


「いいよぉ。それにしても……なんでドッキリなんて?」

「いや……その……」


 そこは聞いちゃダメ! 日城さんの為なんだから、本人には言いにくいでしょうよ。おい栄人、お前なんとかしろよ!


 日城さんにバレない様に脇腹をつつくと、それに気付いた栄人が俺の方を見る。すかさず目で合図を送ると、その辺りはさすが栄人だ、


「あぁ、実はさぁなんか最近蓮の様子変でさ? それで琴と話してドッキリしようかって……つまり日城さんは……」

「えっ? 何? ドッキリの対象はツッキーだったわけ? じゃあ私は、巻き込まれたの?」

「そっ、そうなんだ」


 素晴らしい対応力だ、そこだけは褒めてやろう。


「なんだぁ……て事は間接的にツッキーのせいじゃんか!」


 はっ!?


「おかげで私まで巻き込まれたんだからー、これは1つ貸しだよ?」


 いやいや、どうしてそうなる? 言わせてもらえば元々は日城さんが……


「今度は仕掛ける側にしてよ? 皆でツッキーをね」


 はぁ……もう何も言うまい。


「あれ? じゃあもしかして先輩達も?」


 一件落着って事にはならないみたいだ。




 とまぁ、こうなるとヨーマ達を疑いたくはなるよな? まさにその通りなんですけどね。


「マリンパーク? あぁ、なんか普通の記事にしか出来なそうだったから、やめたのよ。ねぇ? 采?」

「あぁ、目新し所もなかったしね」


 おぉ、なんと素晴らしい対処の仕方。さすがに栄人達とは年季が違うわ。


「本当ですかぁ?」

「あらやだ、どういう意味かしら?」


 さすがに恋もそう簡単には引き下がらないか。


「怪しいんですよね……」

「怪しい? 何がかしら?」

「2人は……付き合ってるんですか?」


 はぃ?


「はっ? なんの事かしら?」

「いやー、こっちゃん達に付き合ってるってドッキリ仕掛けられたんですけど……もしかしてそれに乗じて2人は優雅にデートしてたんじゃないかと!」


 そっちの怪しいかよ!


「その日は元々2人のデートの日で、偶然私達も行く事を知った! 故に私達に知られない様にデートをする為に、わざとこっちゃん達のドッキリに乗った! 違いますか!?」


 うおっ、めちゃドヤ顔してるぅ。まぁ、考えとしては悪くはないよな。むしろあり得る話ではある。はっ! 待てよ? まさか本当に2人付き合ってるとかって可能性はないか? いやいや……


「有り得ないわ」

「それはないね」


 はっや! 秒殺じゃねぇか!


「なっ、逆にその素早い反応が怪しいです!」

「逆に聞くけど私がこんないつもヘラヘラしてる優男、好きになると思う?」

「こんなワガママ自分優先お化けと、付き合いたいと思う?」


 おいっ! 2人共なに平然とお互いの悪口言ってんだよ! しかもあたかも普通に話してるのが余計に怖いんですけど?


「そっ、それは……」

「あり得ないのよ? だから、恋のは想像、憶測。残念だけどね。ねぇ? 采」

「まったくその通りだよ、日城さん」

「うぅ……そんなぁ」


 これはヨーマ達が一枚上手かな? 証拠もないから、なんとでも逃れられる。そうなったらこの2人には勝てないだろう。


「ツッキー、助けてよ!」


 いきなり俺に振るんじゃないよ!


「へぇー」


 なっ、なんですかね? その全てお見通しみたいな顔は! あぁ、あれですか? 言ったらどうなるか分かるわよね? って言いたいんですよね? なんかすごく伝わりますもん。


「あぁ、でも証拠もないしその通りなんじゃないかな?」

「でしょ?」

「今の所は」


 すっ、すまん恋。ヨーマには女恐怖症より凄まじいネタを握られてるんだ……だから、ごめんよ。


「そっかぁ……」

「あらシロ、随分物分かりがいいじゃない?」


 ははは、ソウデスネ。


「そんなあんたにご褒美よ」

「はっ、はぁ……」


 ご褒美? いやいや、嫌な予感しかしないんですけど?


「取材という名のね?」


 ですよねー。


「そろそろ球技大会が始まるわ」


 あぁ、時期的にそうですね。もしかして体育祭みたいに各クラスの戦力の調査と優勝予想か? あれ地味に疲れるんだよね。


「また各クラスの戦力調査とかですか?」

「いえ、今回は楽よ? うちの球技大会って各球技毎にMVPが選ばれるのよ。その人達にインタビュー」


 あれ? それだけ? なんか楽じゃ……


「だけど、シロ? あんたは女子のMVP。恋? あんたは男子のMVPの取材よ?」


 えっ……今なんて? 女子の?


「あの……もう1度聞きますけど、俺が……」

「女子! なに? 文句あるの? ないわよね?」


 ははっ、マジっすか? マジで女子なんですか? なんで俺? 恋じゃないのかよ?


「文句……ないわよね?」


 あぁ、昨日まで俺はなんて事を考えていたんだろう……


「ナイデス、ナイデス」


 この理不尽さ……直面して思い出すつらさ。

 あぁ……昨日の事、前言撤回致します!!



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