第52話 俺が望んだ

 



「いやーすっかり寒くなったなぁ」

「あぁ、そうだな」


 少し気温が寒くなった今日この頃。秋も過ぎ去りそうで、もはや冬が近づいて来る。


「風がなきゃいいんだけど」

「この時期の風は一気に冷たく感じるからな」


 大盛況に終わった文化祭からどの位経っただろう。


 ガラガラ


「おはよう」


 俺達のメイド&執事カフェはそれなりに盛り上がりを見せて、


「おはよー」

「おはよう」


 さすがにヨーマのクラスの忍者体験には負けたけど、特別模擬店賞を戴いたり……学園の中でも注目を浴びたのは間違いなかった。てか、烏山忍者村全面協力は卑怯だっての。


「おはようー栄人君、月城君」

「おう」

「おはよう早瀬さん」


 そんな文化祭の熱も、季節と共にすっかり冷え切って……まぁある意味、いつも通りの日常が戻って来た。


 よっこいしょっと。


 ガラガラ


「おっはよー」

「おはよう、恋ちゃん」

「おはよーこっちゃん」


 まぁ……1つを除いてはね。




「って事で、球技大会はこんなメンバーで行こうと思うんだけどどうかな?」

「いいんじゃないかな?」

「無難だと思うよ?」


「蓮、いいか?」

「あぁ、バランスも取れてるし良いと思うぜ?」


「じゃあ、ホームルームの時これで提案って事で……」

「了解。あっ、こっちゃん今日部活休みなんでしょ? 駅前の新しく出来たパンケーキのお店行ってみない?」

「えっ、良いけど? 恋ちゃん部活は?」


「今日は取材とかもないし、休みもらったから大丈夫。行こ行こっ、じゃあお疲れー」

「えっ、ちょっと恋ちゃん? ……じゃっ、じゃあまた明日ね」


「いやぁパンケーキねぇ。女子ってどうして甘いもの好きなんだろう」

「それが女子ってもんだろ?」


「まぁなぁ。それにしても、日城さんと琴……結構仲良くなったよなぁ」

「まぁそうだな」

「琴のやつ、最初友達出来るかって不安がってたけど、日城さんのおかげでクラスにも溶け込む事出来てるし……良かったよ」


 そうだ、いつも通り……


「まぁ、性格的にも合ってるかもな。それに引き合わせたのはある意味お前だし……って事は間接的にお前のおかげでもあるんじゃね?」

「そうか? なんか照れるなぁ」


「気持ち悪いからその顔止めな」

「いいじゃねぇか。そうだ蓮、俺達もパンケーキ……」

「行かねぇよ」


 これが普通の日常なんだ。




「シロ? じゃあこの取材お願いできる?」

「分かりました」


 いつも通りの取材依頼。

 そういえばなんか最近ヨーマも無理難題言ってこなくなったなぁ。まぁ、それは大いに大歓迎だけどね。


「あとさ……恋は今日休み?」

「はい、そうですけど……」


 あれ? さっき休みもらったって言ってなかったか?


「先輩に連絡来てないですか? 休みもらったって言ってましたけど」

「来てないわね……」


 ん? 連絡し忘れ? それとも嘘? だけど何の為に?


「まっ、いいわ。そんな日もあるでしょ」


 ヨーマは日城さんに結構甘いよなぁ……ずりぃ。


「まぁ、たまに遊びたい時もあるよね。月城君もたまには部活休んでも全然良いからね」


 桐生院先輩……あなたは本当に素晴らしい。是非変わらずこのままの優しい先輩で居てください。


「ちょっと采、失礼よ? シロにそんな仲の良い子は居ないわ」


 おい、なにさらっと酷い事言ってんだよ。あんたが1番失礼だよ! ったく、依頼は普通でも相変わらず毒だけは定期的に吐くんだよなぁ。


「それと、シロ……」




 はぁ……やっぱこの時期の風呂はまた最高だな。

 寮の中にある大浴場、そこで1日の疲れを癒すのが俺の日課になっていた。部屋にシャワーはあるけど、俺的には足を伸ばして湯船に浸からないと疲れが取れた気がしない。


 今日のご飯は何かな……

 もっぱら学校から帰って来て早々に風呂でゆっくりくつろぎ、そのまま晩御飯。決まったルーティーンが出来た辺り、俺もようやく鳳瞭学園に慣れてきたのかもって感じる部分はある。


 学校へ行って、授業受けて、皆と話して、部活行って……



『それと、シロ……あんた恋となんかあったの?』



 ……あったかと言われれば、あったけどさ。あれだよね……文化祭。


 思えばあの時、俺は相当参ってたかもしれない。日城さんに凜の事言われて……でもその時ハッキリしたんだよね? 高梨凜と日城恋は別人なんだって。だから日城さんに、俺が女性恐怖症になった理由をなんで隠す必要があるんだ? って思って……全部ぶっちゃけたんだ。


 別にいいだろ? 日城さんだって気になってたんじゃないのかな? 原因。わざわざ症状治すの手伝ってあげるって言ってくれた位だし。

 でも、日城さんが俺に見せたのは興味じゃなくて悲しい表情だった。


 その原因はすぐに分かった。日城さんは高梨凜の写メ見てた。似てないって俺の嘘もバレてたし、それもぶっちゃける要因だったかもしれない……もう逃げれないってね。


 それで俺はスッキリして……日城さんからあいつの影が消えたんだ。でもそれは俺だけ。多分その瞬間に日城さんは感じたと思う。俺がなんと言おうと、自分には高梨凜の影あるんだって。


 まぁこれは俺の勘でしかないし、本当かどうかさえ分からない。けどそれからだった。日城さんがあからさまに俺と距離を取り始めたのは。

 多分さ、それは日城さんなりの優しさだと思う。まさか、俺が女性恐怖症になった原因の人物と瓜二つだったなんて、最初は驚いたと思うし……あの日見せた偽物の笑顔がその答えだったんだ。


 ……要は、女性恐怖症治そうと頑張ったけど、実はその原因になった人にそっくりだった。だから、驚いて後悔して……なるべく近付かないようにしてるって事。


 最初は俺も戸惑ったよ。朝に必ず挨拶しに来てたのもなくなったし、明らかに近付かなくなった。

 そりゃ、学級委員で集まったり、部活言ったら話しはするよ? そう、必要最低限だけ。そんな感じだった訳で、まぁ……変な感覚だったよね。でもそんな感覚もすぐになくなったよ。だって……


 これこそが俺の望んだ高校生活なんだから。


 男子とは普通に、女子には話し掛けない。もちろん話し掛けられたらちゃんと返事もするし、嫌な顔だってしない。適度な距離を保ちつつ、平和な学園生活。完璧じゃないか。だから、


 学校が終わったら、


 寮に戻って、


 お風呂に入って、


 晩ご飯食べて、


 宿題やったり自由に過ごして、


 ゆっくり寝て、


 目覚ましで起きて、


 朝ご飯食べて、


 身支度して、


 栄人と一緒に学校行って、


 授業を受ける。


 そう、それが俺の……俺が望んだ……



 平和で楽しい高校生活なんだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る