第48話 文化祭でリア充見かけると、全力で爆発して欲しい

 



「ねー、次どこ行く?」

「たこ焼きいかがっすかー」

「13時からお笑いライブだってよ?」


 はぁ……どこに行ってもこの賑わい。中学の文化祭とはレベルが違う。生徒は勿論だけど、一般のお客さんが段違いで多くて、さすが有名校たる所以だな……まぁ、この人数の多さだ、


「あっ、たっくん居たぁ」

「なぁ、あそこ行こうぜ?」

「お化け屋敷だってぇー、こわぁい」


 なんだよお前ら、わざわざこんな所まで来て見せつけたいのか? あ? ったく、全てのリア充は爆発してしまえ! 塵となって永遠に俺の前に現れるんじゃないよ!


 そんな呪いの言葉を心の中で呟きながら、廊下を歩いている訳だけど……正直さっき言ったみたいに文化祭ともなればこの人だかり。

 どこへ行ったって安らげる場所なんてない……そう、ある1カ所を除いては。


 さすがにここまで来れば人もまばらだなぁ。まぁ、こっちは鳳瞭の学生じゃないと立入禁止だから当たり前か。ワイワイやってる最中、こんな寂しい所に来る人もなかなか居ないだろうしね。

 よっと……到着。相変わらずファンキーな立て札だなぁ。けど、最近は見慣れたのか最初程の衝撃を受けない自分が恐ろしい。

 やっぱ他の人から見たらインパクトあるよなぁ……


 ガラガラ


 おぉ、流石に誰も居ないぞ。なんかこんな静かな部室初めてかもしんない。いつもヨーマがドンと居て手下の日城さんと一緒に騒いでるからなぁ。よっこいしょ。


 ふぅ。めちゃくちゃ疲れたぁ。なんか1年分位は働いた気がするよ。しかも良い感じの天気でなんだか……


「ふぁぁぁ」


 欠伸が止まらないなぁ。んー、なんだか眠くなってきたかも……ちょっとだけ目瞑ろうかな?


 それにしても……思いのほかメイド&執事カフェ大盛況で良かった。もしこれ失敗してたら少なからず俺に批判があったかもしれないしな。


 特に女子に……あっ、女子と言えば生のメイド服の威力は凄まじい。通常の2倍は補正が入るよね? おっと、さすがにこれは口が裂けても女子の目の前では言えない! 気を付けないと。でも佐藤さんとか紋別さんもだけど、早瀬さんはやっぱり光る物が……あったなぁ。

 うん。良い……目の保養になっ……た。あれ? なんだか……急に気持ちよくなって……きた。日差しが……気持ち……いい…………




 はっ! なんで俺廊下に立ってんだ? あれ……しかも今日文化祭のはずじゃ? なんで誰も居ないんだ? 周りを見渡りても、誰の気配も感じない。けど、不思議とそんな状況でも何も感じない自分が居る。

 んーまぁいいか? さてどうしようかなぁ……


「ツッキー?」


 ん? この声は……日城さんっ!!


 聞こえてきた日城さんの声に、周りを見渡した時だった。さっきまで誰も居なかったはずの目の前に突然現れたのは……


 うわっ、びっくりした。日城さん?

 メイド服を着て俺の方を見ている日城さんだった。


 いきなり現れるなって、驚くじゃんか! まったく……


「…………」


 あれ? なんだ? 口が開かない? 声も出ないし、何だこれ? 自分の身体じゃないみたいだ!


「ツッキー」


 日城さん? いやいや、なんで近付いてくるの!? はっ、なんで? 足動かないってか……足の感覚ない!


「ツッキー?」


 うわぁっ! 嘘だろ? 近い、近い、近い! どうしたんだよ日城さん!


「ツッキー!」


 あぁ、ダメだ! 体に触られる、顔が滅茶苦茶近くなってくる!

 マズい、マズい、あぁ……あぁ……


「ツッキー!!」




「はっ!」


 目を開けた先に広がるのは、まさしく見覚えのある部室の天井。気が付けば口で息をしてて、さっきみたいに開かないって状態じゃない事に安心する。


 はっ、はぁ……なんだ? あれって夢? そうだよ……な? 廊下にいるはずなかったし、新聞部の部室の椅子に座って……


「ツッキー!?」

「うわぁぁ!」


 突然横から聞こえてきた声を認識する間もなく、体が勝手に反応していた。ゆっくりと後ろへと落ちていく体に、何もできないまま流れに身を委ねるしかない。

 なんでだ? どうしてこうなった? そんな考えだけが頭の中を駆け巡る内に、視界のはじっこの方に誰かが居るのが見える。


 誰だ? 誰だ? 

 体が落ちていく内にその顔はハッキリと見えてくる。驚いた表情をしながら俺の方を見ていたのは……日城さんだった。

 けど、それが分かった瞬間、俺の腰には激痛が、部室の中にはパイプ椅子がぶつかる衝撃音が響き渡っていた。


 ガチャン!


「いてっ!」


 滅茶苦茶腰いてぇ! てか、毎度の事ながら脅かさないでくれよ全く。無意識に腰をさすりながら、視線を上に向けていく。そこに居るんだろ? 日城さん、さぁてどんな顔してるかな? たぶんニヤニヤしてんだろうなぁ。


「だっ、大丈夫? ツッキー」


 そんな俺の予想を裏切るように、そこに居たのは少し心配そうな表情の日城さんだった。

 あれ? 意外と心配してくれてるのか? なんか意外だ。


「だっ、大丈夫」

「本当? かなり派手に転げ落ちたけど?」


「受け身は取れたはず……」

「そっ、そう? なら良いんだけど……」


 というより、日城さんがデカイ声出したのが原因じゃね? まぁ、とりあえず起きますか……よっこいしょ。


「日城さん大きい声出すから……いってて」

「だって……なかなか起きないんだもん」


 これみよがしに口尖らせてもダメです。


「今度は優しく起こしてください」

「えぇ、てか一応文化祭! そんな時に寝てるなんて有り得ないよ?」


 ん? そうなのか? 今はいわば最高のフリータイムじゃ?


「そうなの?」

「当たり前でしょ? もう!」


 って、なんでそこで近付いてくるんだよ! ……あれ? この感じ、なんか見た事のあるような……あっ、さっき見てた夢? 場所と日城さんの表情は違うけど、なんかシチュエーションは似てるような……


「ん? どしたのツッキー?」


 うぉっ、だから近付くなって! でもこの距離感、やっぱりどこか夢と重なるような……って、心臓がなんか変な感じになる! 

 まるで……そう動悸みたいな! マジかよ? 今までは寒気が1番症状としては出やすかったのに心臓かよ。ますます体に悪いじゃねぇか。


「なぁに? なにか言いたそうだけど?」


 はぁ……止めてくれ。これ以上心臓に負担かけないでください。俺はまだ生きたいんだぁ!


「なっ、なんでもないよ!」

「怪しいなぁ……」

「怪しくないって!」


 いいから早く離れて!


「まっ、いっか。じゃぁ早速行こう?」


 ん? 行く?


「どこに?」

「お昼に言ったじゃん、休憩の時に一緒に文化祭回ってあげてもいいよって」


 文化祭を回る? でもあれはお断りしたはずじゃあ……


「えっ、それはおこと……」

「なに?」


 うおっ! だから近付くなって! てか、絶対わざとだ。わざと近付いてくるんだ!


「いいよね?」


 うぅ……嫌だなぁ……


「行くよね?」


 だぁ! だから近付かないでって!


「はっ、はいー」

「よろしい、じゃあ行こっか」


 はぁ……なぜこうなった? いや、心臓を守るためには仕方なかった。あのままもっと近付かれてたら、多分心臓が爆発してただろう。それだけは阻止せねばならなかった。


 それにしても最悪な事になったなぁ。よりによって日城さんと文化祭を回るだなんて。嫌な予感しかしないんですけど?


「ツッキー早く!」

「はいはい」


 くぅ……心臓が絞められる感覚がするぅ。はぁ、頼むからもってくれよ?


 俺の心臓ー!!



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