第37話 穏やかな日々よ、カムバック
「うぅ……なんか頭痛ぁい」
静かな空間で豪華な朝ご飯を頬張る。そんな最高の時間に響く唸るような声。
昨日の状態を見る限り、それが誰なのかは容易に察する事ができるだろう。
「そりゃそうでしょ。あんな状態でお風呂入って……しかも寝てたら風邪も引くわよ。それとも二日酔いかしら?」
「うぅ……」
日城さんマジで昨日の事覚えてないのか? それはそれでヤバいけどな。
あれから俺はやっぱり日城さんの事が心配で、一月さんを探したけど、なかなか見つからなくて、そんな時偶然ヨーマと会った。
『あっ、シロ。あんた恋見なかった?』
『葉山先輩! あぁ、お風呂入りに行っちゃったんですよ』
『えっ!? あんな状態で?』
『あんな状態って、先輩知ってたんですか?』
『えぇ、もしかして変にテンション高くなかった? まるでお酒に酔っているような』
『まさにそんな感じでした! でも、別にお酒の匂いとかはしなかったんですけど、なんかあったんですか?』
『確証はないけどね。あの子、宴会に出てた烏山名物の粕漬けが美味しい美味しいって結構食べてたのよ。そしたら段々テンション高くなってきて……それでトイレ行くって部屋出てから戻って来なかったのよ』
かっ、粕漬け? いくら食べすぎたからって、それだけで酔ったりするもんなの? でも、目とか据わってたし……酔っぱらってる感じだったよなぁ。
『そうなんですか? もしかしてその粕漬け食べすぎたせいで酔ったとか? とっ、とりあえず先輩! お風呂場に行って様子見て来て下さい!』
『わっ、分かった! 場所分かるかしら?』
てな具合でヨーマがお風呂場に向かうと、脱衣所で裸のまんま寝ている日城さんを発見。一月さんらの協力もあって、なんとか部屋まで辿り着いて今に至る。
「まさか裸で寝てるとはね……」
「先輩……それを言わないで下さいよぉ」
マジで記憶ないみたいだな。そもそも粕漬けに含まれるアルコールであんなになるって一体どんだけ食べたんだよ。相当の枚数必要じゃないか?
「とりあえずシロにお礼言っときなさいよ? 一応見つけたのはシロのおかげなんだから」
おっ、ヨーマのくせに俺を立ててくれてんの?
「まぁ、あんな状況で何してたかは分からないけどね」
「えっ! それってどういう意味ですか!? 何かしたの? 月城君!」
前言撤回、やはりヨーマはヨーマだったわ。
「何もしてないよ」
「ほっ、ホントに!?」
なに疑いの目で見てんだよ。昨日一方的に話してた事言ったら、腰抜かすよあんた。風呂誘ってたんだぞ?
「ホントデスヨ」
「むむ……怪しい」
はいはい。
「お世話になりました」
「ありがとうございました」
「すいません、何から何まで甘えてしまって」
って、なんで一緒に帰るんだよ。俺は別々で帰りたいんだけど? なぜ俺の時間に合わせてる。
「いえいえ。私達もとても楽しかったです。皆お仕事だから、お見送りできないの残念がってましたし」
「彩花さん、恋さん、また遊びに来てくださいね? 大歓迎ですから! あと……月城さんも是非っ!」
えっ、なにその間の開け方! 妙によそよそしくない? なに? 昨日のあれがやっぱりまずかったの? そりゃないよー、もとは六月ちゃんから来たんだぞ?
「あんた六月ちゃんに何かしたの?」
「えっ、私だけじゃなくて六月ちゃんにまで何かしたの!? サイテー」
あんたらもう黙ってくれよ。話がややこしくなるじゃねぇか!
「してません!」
「嘘ね。何されたの? 六月ちゃん?」
「そうだよ? 脅迫でもされた?」
「えっ、そんな事は……」
あんたら俺をなんだと思ってんだよ! やっぱりこの2人といるとろくな事がない!
「やっぱり皆仲が良いのねぇ」
一月さん、あなたにはこの光景が仲良さそうに見えるんですか? 一方的にいじめられてるんですよ? 俺。
「違います」
「シロ? 何いの一番に答えてんのよ!」
「そうだそうだー」
あぁ、早く帰りたい。この2人から解放されたい。
「ふふ、本当にまた来てくださいね。六月も言ってましたけど、皆さんなら大歓迎ですからね」
「絶対また来てね?」
「いいんですか? むしろこちらこそ来たいです!」
「えぇ。今度はもちろん事前にご連絡致しますので、その時は宜しくお願いします」
なにこの雰囲気。あのー、もとは俺のおかげだからね? 俺が忍さんと来たから泊まれたんだぞ? 分かってるー? そんなの覚えてる訳ないか。はぁ、そういえば忍さんどこ行ったんだ? 昨日会って以来姿見てないぞ? まぁ、その内会えるか……
そんなこんなで、さよなら烏山忍者村。
「すーすー」
いい気なもんだね……2人して寝てやがる。このまま起きなきゃいいのに。
「月城君……」
ん? 何だ? 夢の中でも俺をいじめてんのか!?
「月城君のおかげ……ありがとう……」
はっ! なんだよ……てか寝言で言われても嬉しくねぇよ。面と向かって言われたら言われたで嫌だけどさ。てか、おまえは正常な時にお礼とか言えないの? 昨日だって……
『あんたにはそんな魅力があるんだから、人には無いような魅力があるんだからぁ、もっと自信持ちなさいよぉ!』
酔っぱらってる時に言われても、冗談にしか聞こえないっての。
「なに逃げてんのよ……にしし」
……これは寝言か? もしかして起きてんのか? どっちにしろオデコ当たり1発ペチンってやっていいか? いいよね?
「蓮」
「ひぃ」
いきなり聞こえたその声に、症状とは違った寒気が体を突き抜ける。変な声が漏れ、体は反射的に後ろを振り向いていた。
はっ! だっ、誰だよ!
「すまん、俺だ」
しっ、忍さん? なんで? バスとか密閉された所は嫌だって言ってましたよね?
「だっ、大丈夫なんですか? バス乗って」
「だっ、大丈夫だ。修行の内だからな」
いやいや、顔は全然違いますよ? 冷や汗かいてるじゃん。しかも修行って……。ん? もしかしてお父さんとの話し合いが関係してる?
「忍さん、一月さんから今後の事聞きました。とりあえず忍さんが次期頭領って事も、忍さんが居ない間は一月さんが頭領代理を務めるって事も」
「そうか。なら話は早い。一月姉さんからその他の事も聞いただろ?」
その他……忍さんが女性恐怖症になった原因の話か?
「忍さんに対するお姉さん達の対応の事ですか?」
「あぁ、あの時一月姉さんから初めてじっくり話を聞いた。ただ、納得は出来るが信用しきれない自分もいる。頭では分かるつもりでも体が言う事聞かなくてな……参った」
まぁ、そうだよね……気持ちはよく分かる。でも、こんな苦行みたいな事してるって事は、
「それでも忍さんは何とかしたいって思ってるんですよね」
「ふっ、全くお前は全部お見通しか」
そりゃわかるよ。同じ女性恐怖症持ちだもの。
「はい」
「まぁな、六月にも言われたし……甘えて許される歳でもないからな」
「なるほど……」
「とにかく、お前に付いて来てもらってよかった。ありがとう」
いや、俺は何もしてないよ。
「何にもしてないですよ?」
「お前はそう思ってるかもしれないが、とにかくありがとう」
「……どういたしまして」
「暇な時でいいから、修行にも付き合ってくれ」
別にいいけどさぁ……
「人間がやれる修行にしてくださいね?」
「ふっ、もちろんだ」
忍さんはすごいなぁ。逃げるのを辞めて、立ち向かってるよ。俺がそんな風になれるのに、何年かかるかなぁ。
あっと言う間の週末だったなぁ。そしてあっと言う間に、いつもの教室にいつもの光景だよ。
はぁ……空はいいなぁ、いつも明るくて静かで……
「はい、皆おはよう。今日は皆にご報告があります」
ん? 何でしょう? 高倉先生。
「皆さんの副担任をする予定だった西ノ口先生が、このまま育休を取ることになりました。それでその後任として、あっ入ってくださいー」
あぁ、名簿上は副担任だった西ノ口先生ね。顔全然わからんしなぁ。まぁ、代わりの先生を充てるのが当たり前だろうな。誰が来ても良いけどねぇ。あぁ、あの雲旨そう。
「じゃぁ自己紹介どうぞ」
ザワザワ、ザワザワ
おいおい、なんだぁその分かりやすいザワつきは……変なやつでも来たか?
「おはよう!」
ん!? 気のせいかな? なんか聞いたことあるような声がした気が?
「今日からこの3組の副担任になりました……」
あぁ、待って? 嫌な予感するんですけど?
「烏真三月です! 年は23歳、好きな物はご飯! 皆よろしくね!」
ははっ……まじですか?
まじですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます