嫉妬と思われようと

 知りたくもないのに、有名人の豪邸や、年収を教えてくれる時代である。これに対して、すごいな、とは思うが、羨ましいな、と思うのは少し違うのではないだろうか。こういうことを言うと、そういう奴に限って一番嫉妬しているんだ、と笑われてしまうが、本当にそうか。


 他人を羨む時、大抵は自分の生活にプラスして考えてしまう。

 それが豪邸なら、今の生活、仕事、人間関係、何一つ変えずに、ただ豪邸がポンと自分の物になった想像をするのだ。そんなに虫のいい話はないだろう。持ち主の生活もまるっきりトレースする必要がある。


 投資家であるなら、まず節制して、種銭を集め、下降するチャートに胃を痛めながら、布団の中でも明日の相場に怯えながら、時には退場し、さらには人生から退場するものもあり、ホンの一握りの人間だけが辿り着いたものであるだろう。


 芸能人であるなら、人間関係であろう。

 ただ芸を磨けばいいというものでない。どういう人間関係があるか知らないが、まあ先輩や同期、局内外の人、視聴者に向けて、特に最近は気が抜けない。仕事の外、プライベートでも無数のカメラに追われているようなもので、問題発言や、酔って暴れたところが捉えられたなら……。しかも、どんなに優れた芸があって、私生活も気を使ったとしても、やはり売れるとは限らないのだ。


 他人が持っている物を見て、ただ羨むばかりというのは、私にはできない。その背後に流した汗や涙も、想像してしまう。そしてやっぱり、ああ、私には無理だ。すごいなぁ、と思うものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る