319:誘いたかったから
「ゆかちゃん、もし、良かったらこの後一緒にご飯でもどうですか?」
華お姉ちゃんにそう誘われたボクは返事に困っていた。
だって、今日はボクからゆるお姉ちゃんを誘おうと思っていたから。
でも、こうして誘われたら断り辛い。
それに、もう時間的にもお昼ご飯って時間じゃなくなってしまった。
つまり、今日一緒に行ってしまえばゆるお姉ちゃんを誘うタイミングが無くなっちゃう。
だから、ボクは⋯⋯
『ごめんね!実はこの後用事があるんだ⋯⋯』
そう言ってしまった。断るのは本当に辛かったけれど、ボクは今日、ゆるお姉ちゃんを誘うって決めてたから。
「えっ!?」
「えっ!?」
華お姉ちゃんと一緒にゆるお姉ちゃんもびっくりしていた。言ってなかったから、仕方ないよね。
『だからごめんね!』
「⋯⋯用事があるなら仕方ないですね。
それじゃあ周りの邪魔になってもいけないですし、写真だけ撮らせてもらっても良いですか?」
『うん!写真ならいくらでも良いよ!』
「ゆかちゃん、ありがとうございます!」
そして、ゆるお姉ちゃんにカメラをお願いして写真撮影を始め、華お姉ちゃんと一緒に2ショットを撮る。
「⋯⋯この写真、大事にしますね」
『うん、大事にしてね!』
「⋯⋯大事に、しますね」
心なしか、声が震えているような気がしたけれど、すぐに声が元に戻ったようだった。大丈夫かな?
「それじゃ、暑いので気を付けてくださいね」
『うん、ありがとう!』
「それじゃあ、また!」
『またね!』
そう言うと華お姉ちゃんはささっと人混みを抜けて帰って行った。
そこからは会場で色々な人とお話しをしたり、写真撮影をしたりして過ごすと、気が付けば夕方になっていた。
着替えをして薫さんと由良さんに合流すると、薫さんがなんだかうずうずとしている様子だった。
「優希くん、お疲れさま」
「優希くんお疲れー!」
「二人ともお疲れ様です!」
「優希くん、この後用事あるってさっき言ってたけど⋯⋯もう分かれた方がいいのかな?」
薫さんはそれを早く聞きたかったからうずうずしてたのかな?
「えっと⋯⋯そのことなんですけど⋯⋯」
「えっ?違ったの?」
「あの⋯⋯薫さん、この後時間はありますか?」
「時間は大丈夫だけど⋯⋯」
「あの、この後一緒に食事でも⋯⋯どうですか?」
「えっ」
僕がそう言うと、薫さんは一瞬フリーズした。
「えっ、用事って、えっ、待ってどういう」
「⋯⋯そ、その、僕が薫さんとお出かけしたかったんです!今日は僕から誘おうと思ってて⋯⋯」
「優希くん⋯⋯」
すると、薫さんが急に僕に抱きついてきた。
「行く!絶対行く!」
「か、薫さっ!?」
「可愛いすぎるよ優希くん!
やばい、嬉しくて泣きそう⋯⋯」
「よ、喜んでもらえて嬉しいです」
これだけ喜んでもらえるなら、勇気を出して正解だった⋯⋯かな?
「それなら、どこに行こっか?」
「じ、実はお店も僕、調べてて⋯⋯」
「⋯⋯へっ?」
「薫さんと行きたいお店、探しておいたんです⋯⋯」
「うぐぅ⋯⋯」
「か、薫さん!?!?」
「優希くんが、かわいすぎる⋯⋯がくっ」
薫さんはそう言うと、勢いよく倒れてしまった。
「薫さああああああああん!?!?」
「ねぇねぇ二人ともいつくっつくの???」
♢
ただ、断られただけ。
そうわかっていても、心の中では不安でいっぱいだった。
あの時、一瞬優希くんの目がゆるママさんを見ていた。
だから優希くんはゆるママさんに何かをしようとしていたんじゃないかって。
でもゆるママさんもびっくりしていたと言うことはゆるママさんは知らない可能性が高い。
だからなんとなく察してしまった。
「私、気付くのが遅すぎたんですかね⋯⋯」
もっと早くにアピールしてたら、あの立場は私のものだったかもしれません。
ただ、優希くんのことですし、誰かとお付き合いしても関係はそのままでいてくれるでしょう。
でも、優希くんの特別にはなれません。
「絶望的にしか思えませんけど、私だって諦めが悪いんですよ⋯⋯」
スマホに映っている写真を見ながら、私は考えます。
優希くんと急接近する方法を。
「絶対にゆるママさんには負けません!」
だから必死に考えます。
そこで一つ思い出しました。
「Vpex、大会⋯⋯」
私には、チームメンバー指名権があったことを。
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