313:薫さんとデート(中編)
イルカショーのパフォーマンスが行われるエリアへ入ると、中にはたくさんのカップル達がいた。ちらほらと家族連れもいるようだけど、目につくのはやはりカップルだね。
「「⋯⋯」」
僕達はそのカップルだらけの幸せそうな空気感の場所に手を繋いで入っていった。
空席を見つけ、そこに座る。すると、薫さんが恥ずかしそうに小さな声で僕に話しかける。
「⋯⋯想像以上にカップルだらけで、なんか緊張しちゃうね」
「そ、そうですね!」
耳にかかる薫さんの吐息が少しくすぐったくて、声が裏返りそうになる。ば、バレてないよね?
「ねぇ優希くん」
「どうかしましたか?」
「今の私達、周りからどう見られてるかな?
カップルっぽく見られてるかな?」
「ど、どうなんでしょう⋯⋯?」
「私はね、優希くんとカップルって思われたい。
優希くんは⋯⋯どう思う?」
「そ、それは⋯⋯」
今日の薫さんは積極的だ。本当に、今までと違って凄くガツガツ来るというか。でも、僕が嫌な気分にならないレベルで。
「薫さんとなら⋯⋯そう思われても嫌ではないです」
僕は本心を言おうと思ったけど、少し恥ずかしくて照れ隠しで、遠回しに言ってしまった。でも、薫さんは割と好意的に受け止めてくれていたみたいで、ちょっぴり安心。
「そ、そっか⋯⋯」
その後はなんともいえない空気が流れる。
でも、僕の手を握る力が強くなって。
その手の熱が直接手を通じて伝わってくる。
すると、このやきもきとした状況を変えるかのようにショーが始まった。
中央にある巨大なプール、その周りをぐるっと囲むようにある観覧席の後ろにある壁にはプロジェクションマッピングにより、花火が映し出される。
しかもそれだけではなく、イルカショー自体をやっているプールには上から綺麗に光る水が流れている。
ショーの動きに合わせて落ちてくる水はとても幻想的で、薫さんがおすすめしてくるのも納得のパフォーマンスだった。
綺麗なだけではなく、イルカも可愛い。可愛くて、綺麗で、言葉にするのが難しい。
僕と薫さんが見入っていると、時間が過ぎるのはあっと言う間。
元々時間が短めなのもあるけれど、その幻想的な光景に心を奪われている間にもう気が付けばクライマックスだ。
壁を彩る花火、ステージを彩る水と光、イルカの目を惹くパフォーマンス、全てが僕達を楽しませてくれる。
盛り上がりも最高潮で、思わず声が出てしまう。
「わぁ⋯⋯すごい⋯⋯」
「本当に、凄いね⋯⋯」
最新技術は伊達じゃない。
そして、スクリーンにクライマックスの最後を思わせる大きな花火が映し出された瞬間——
「ねぇ優希くん」
そう声をかけられ薫さんの方を向くと⋯⋯
ふにゅっと柔らかいものが僕の唇に触れた。
「えっ⋯⋯?」
それは薫さんの唇で。
「⋯⋯優希くん、ごめんね」
顔を真っ赤にして、謝る薫さんがいた。
「こ、こんなつもりはなかったの!で、でもどうしても優希くんの顔見てたら、したくなっちゃって⋯⋯」
「⋯⋯良い、ですよ」
本当は怒るべきなのかもしれない。
でも、薫さんの気持ちは痛いほど伝わってきて。
ずっと、気付かないフリをしていたわけじゃない。
気付いていたけど、応えるのが怖かったんだ。
「えっ、それって⋯⋯」
「い、今のは無しです!!」
今、僕が感じているこの気持ちはきっと、本物で。
でも、同じくらい先輩とも気持ちが揺らいでいて。
でも、一番の決め手は⋯⋯
薫さんの、僕を想う気持ちの大きさ。
でも、まだ今はダメ。
「“今は”まだダメです!」
♢
勢い余って優希くんにキスをしてしまった。
周りのカップル達がイチャイチャしているのを見て、我慢が出来なくなってしまった。
嫌われたかななんて不安に思っていると、優希くんは顔を真っ赤に染めながら「⋯⋯良い、ですよ」なんて言った。
良いの?本当に?
「えっ、それって?」
私が今の真意を聞こうと聞き返す。
「い、今のは無しです!」
優希くんは慌てて訂正してしまった。少し残念。
「“今は”まだダメです!」
優希くんはそう言った。
今は?
えっ、それって⋯⋯?
もしかして?
神様、これは、大チャンスって事で⋯⋯良いんですか?
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こちらに失礼、作者の二兎凛です。
コミカライズ4巻の発売日まで残り3日になりました!
書店特典ではワンダーグーさんでシュバルツさんのイラストカードが、メロブでは優希くんと先輩のカラーイラストカードが貰えちゃうみたいです!!
それと、応援していただける方は是非★やレビュー頂けると作品の宣伝になるのでよければご協力頂けると嬉しいですっ!
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