273:収録完了!

「それでは、早速ボーカルの収録を行っていきますが、曲の方は覚えていただけましたか?」


 ハジマタPさんはそう僕に聞いてくる。


「もちろんです!毎日寝る時なんかに聞き続けてました!」

「それは良かった。では、今回の収録ですが、バラ撮りと呼ばれる方法で収録していきます」

「バラ撮り⋯⋯了解です!」


 バラ撮りは自分でもやったことがあるから一発撮りに比べたら少し気持ち的にも安心。


「自分で歌ってみたを撮る際にバラ撮りでやっていたと言っていましたし、慣れている方が良いでしょうからね」


 僕の事をちゃんと考えた上で提案してくれる辺り、ハジマタPさんは本当に良い人だね。


「ありがとうございます!」

「では、私はコントロールルームでチェックなどをしながら指示を出しますので、それに合わせて歌ってくださいね」

「はい!」


 本格的な機材に囲まれての収録、緊張するけど頑張ろう!



「それじゃあ、まずはAメロの部分から収録していきますよ」

「はい!」


 そして歌ってみると、ハジマタPさんが唸り始めた。


「うーん⋯⋯悪くは無いんですけれど⋯⋯何かが足りませんね」

「何か⋯⋯ですか?」

「あの、配信でやっている時のように歌ってみてもらっても良いでしょうか?」

「配信でやる時⋯⋯?」

「はい、あの白姫ゆかちゃんとして歌っていると意識してみて欲しいんです」

「や、やってみます!」


 ハジマタPさんの言う通りにする為に、僕は意識を集中させる。


「すぅー⋯⋯はぁー⋯⋯」


 深呼吸をして、心を落ち着かせる。


「僕は白姫ゆか⋯⋯」


 小さな、小さな声で自分に暗示をかけるように呟く。


『ボクは⋯⋯白姫ゆか』


 一瞬、曇りがかった意識が急にクリアになる。


『これで、やってみるね!』

「急に雰囲気が⋯⋯これならいけそうですね」

 喋り方が変わって驚くハジマタPの姿がそこにはあった。


 それから数時間に及ぶ収録の末、とうとうデータが出来上がった。


「お疲れ様でした。思っていたよりも良い物が撮れましたよ」


 ホクホク顔で僕にそう言うハジマタPさん。


「お疲れ様でした⋯⋯明日は喉が枯れそうです⋯⋯」

「ケアしながらやっていたので余程大丈夫だと思いますよ?」

「だと良いんですけど⋯⋯」


 感情をできる限り込めていたのもあり、喉だけじゃなく、表情筋などにも疲労が溜まっているのがわかる。


「結構ハードで疲れちゃいました⋯⋯」

「ははっ、確かに初めての収録にしたらハードかもしれませんね。私はこの後すぐにMIX作業に入ろうかと思いますので、音源が完成次第送らせて頂きますね」

「はい!」

「あっ、そうでした。音源は急いで完成させますので、完成したらその直後の配信で曲の方流して頂いて構いませんよ」

「本当ですか!?」

「はい。それと、PVも同時に作っていますので、そちらは配信後に投稿して頂ければと思います」


 至れり尽くせりで本当に良いのか不安になるくらいサポートが手厚い⋯⋯


「そ、そこまでしてもらって良いんですか?」

「もちろんですとも!推しの為に曲を作ってPVまで作れる⋯⋯最強の推し活ですよ!」


 興奮した様子でハジマタPさんは僕にそう語る。


「た、確かに⋯⋯」


 昔、ふわちゃんや他のVの人などを推していた時に、絵の練習とかをしてファンアートを描こうと頑張ろうとしてたっけ⋯⋯下手だから諦めちゃったけど。


「と言うわけでゆかちゃん、お疲れ様でした!」

「はい!お疲れ様でした!」


 ハジマタPさんは良い笑顔でスタジオを後にする。


「僕も⋯⋯帰ろうっと」


 そして帰ったら少しだけ配信をしようと思った。



『リス兄、リス姉こんばんは!白姫ゆかだよ♪』


:ゆかちゃんきちゃ!

:こんばんはー

:久々のリアタイ最高だぜ

:きゃわわ

浮雲ふわり:ゆかちゃんこんばんはー

:い つ も の

:相変わらずゆかちゃんの配信に来るの早いな


『えへへ、皆ありがとう!

 最近忙しくて、配信回数減っちゃってごめんね?』


:大丈夫、無理はしないでね

:無理はダメだよ!

:俺はどれだけでも待つさ!

浮雲ふわり:寂しいですけど、体調には気を付けてくださいねー?辛かったり寂しかったりしたらすぐに抱きしめに向かうので電話してくださいね?

:とんでもないこと言ってたんだけどこのショタコン

:草

柿崎ゆる:ゆかちゃんこんばんは

:正妻来た

:正妻扱いは草

柿崎ゆる:ふぇっ!?な、なんのこと!?

浮雲ふわり:ゆるしません

:ヒエ

:ひえっ

:こわE


『あっ、ふわりお姉ちゃんにゆるお姉ちゃんこんばんは!今日も来てくれてありがとね!

 それで、最近忙しくて配信が減っちゃったけど、今日は少し皆に良いお知らせがあるんだ!』


:良いお知らせ?

:なんだろ

:わくわく

浮雲ふわり:なんでしょうかー?

柿崎ゆる:多分あれのことかな?

:またしても何も知らないふわちゃんで草

浮雲ふわり:ゆるママさんずるくないですか?

柿崎ゆる:ふふふ、絵師ですから

:勝者の余裕で草

:マウントが強くて草


『ふふっ、ゆるお姉ちゃんはもう気付いてるみたいだけど、実は今日歌ってみたの収録をしてきたんだ!

 だから、音源を貰ったらその時に配信で発表をしていこうと思うから皆その時はよろしくね!』


:お任せあれ

:承知

:オッケー

:了解!


 そしてその次の日の夜、例のブツがやってきた。

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いつも応援ありがとうございます!


今回、2巻がBook Walkerさんの日間ラブコメランキングで1位に入ったりと嬉しいことがたくさんありました!


まだどっちも持ってないよって方はこの機会にコミカライズを是非ご購入頂けると嬉しいです!

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