240:ダンスレッスン!

 先輩と分かれ、家に戻って来た僕は次の日の顔合わせがどうなるのかを考えながら過ごした。


 緊張とワクワクが入り乱れて少し寝付きが悪かったけれど、なんだかんだで眠りにつく事が出来た。


 朝目が覚めると、まずはバイトへ向かい、お昼までバイトを頑張った。


 今日は日曜日と言うのもあり、少し忙しかったけれど、シフトが終わると僕はすぐ家へ帰った。


 それから家に着くとすぐに準備をして、先輩が来る前に準備を終わらせた。


 準備が終わってから10分ほど経つと、もうすぐ到着すると連絡が入ったので、僕は少し家で待機すると、タイミングを見計らって家を出た。


「あっ、ナイスタイミングだ!」

 僕が外に出た瞬間に車が到着したのを見て思わずそう言ってしまった。


 車へ駆け寄るとささっと車に乗り、目的地へと出発した。


 もちろん、運転手さんと先輩への挨拶は忘れないよ。



 目的地へ到着すると、そこには誰かが既にいて、僕達を待っていた。


「初めまして、キミ達が橋本先輩が言っていた子達かな?」

 フレンドリーに話しかけてくれたそのお姉さんは、とても綺麗でまるでアイドルのようだった。


「はい、一ノ瀬遥です。

 今日はよろしくお願いします」

「ぼ、僕は姫村優希です、よろしくお願いします!」

「ありがとう、私が今日からのダンスのレッスンを担当させてもらう伊吹リサです。 二人ともよろしくね」

「「こちらこそよろしくお願いします!」」

 伊吹リサさんは自己紹介をすると僕達を中へと案内してくれた。


「とりあえずここでダンスの練習をしてもらう事になるんだけど、どんなダンスをしたいかっていうのはもう決まっているのかな?」

「あっ、わたしこれをやりたいなと思っていて⋯⋯優希くんも一緒にチェックしてもらえるかな?」

「はい!」

 そして先輩は自分のスマホを取り出すと僕とリサさんに踊りたいと思っているダンスを見せてくれた。


「あー懐かしいね、百合ダンスだったっけ」

「そうなんです! これをやってみたくて!」

「百合ダンス?」

「そう、ちょっと前に流行ったアニメのEDテーマのダンスで、有名アイドル達も踊った事もあって凄くインスタ辺りで有名になってたんだよ」

「女の子同士の距離が近いから百合ダンスって呼ばれるようになったんだよね、私も良く踊ったっけ」

「「そうなんですか??」」

「そうなんだよねー、結構うちのメンバーと踊ったやつがバズってね、結構嬉しかった覚えがあるんだ」

「メンバー⋯⋯?」

「⋯⋯あれ? 聞いてなかった?」

「何が⋯⋯ですか?」

「私、イブニング娘。の元メンバーなんだけど⋯⋯」

「「イブ娘の!?」」

 イブニング娘。 昔からあるアイドルグループで、あのA○Bや坂○グループには及ばないながらも有名な楽曲プロデューサーがいる事で有名なんだ。


 流石に僕達はアイドルは普段から見ないけれど、名前くらいは知っている。


「あっ、良かったグループ名は知っててくれたかぁ⋯⋯」

「名前は有名ですからね!」

「ただ、わたし達どちらかと言えばV系オタクで⋯⋯」

「Vtuberも結構人気凄いからねー、前に一度コラボさせてもらった事あるけど、中の人達が濃くてびっくりしたよ」

「もしかして、いまなんじですか⋯⋯?」

「そうそう、そんな名前だった!

 初めはジュニアとかに入る子かと思ったら成人しててびっくりしたっけ。

 あんな見た目で年上とかわからないって突っ込んだ記憶があるよ」

 そんな風に笑いながら話してくれるリサさん。

 でもそんな特徴的な人、絶対なのさんだよね⋯⋯


「⋯⋯その人、語尾になのってついてませんでした?」

「そうそうそう! 詳しいね!」

「良くコラボするので⋯⋯あはは」

「案外世間って狭いんだね、とりあえず方針も決まったみたいだし、このダンスについてやっていこうか」

「「はい!!」」

「その前に、動きやすい服に着替えてきてもらえるかな」

「「はい!」」

「更衣室はあっちにあるからねー」


 更衣室で着替えて来た僕達は、それから振り付けや動き方をレクチャーしてもらい、短い時間ながらも濃い練習が出来た。


 思い切り身体を動かしたのもあってか、終わる頃にはもう全身汗だくで、身体に服がピッタリとくっつくくらいだった。


「それじゃシャワー浴びて終わりにしよっか」

「⋯⋯はい」

「つ、つかれたぁ⋯⋯」

「あはは、二人とも疲労困憊だね。

 初日だから多少軽めだけど、大丈夫?」

「これで⋯⋯軽めなんですか⋯⋯?」

「信じられない⋯⋯」

 シャワーへ向かう途中そんな話をしていると僕の前にシャワー室の入り口が現れた。


 僕が男性用の方に入ろうとしたら⋯⋯


「ちょちょちょ⋯⋯そっちは男性用だよ?」

「えっ、僕、男ですけど⋯⋯」

「えっ」

「気付いて無かったんですか?」

「いやっ、どう見ても女の子⋯⋯」

「僕、生物学的には男なんですけど⋯⋯」

「嘘⋯⋯」

「という訳で、僕はこっちなので⋯⋯」

「う、うん⋯⋯」

 それからシャワーを浴び終わり、着替えた僕は二人に合流した。


「お待たせしました⋯⋯ってどうしたんですか?」

「やっぱり女の子でしょ?」

「だから違いますって!」

「嘘だぁ⋯⋯」

 リサさんは僕達が帰るその時まで僕のことを疑い続けていた。


 ⋯⋯ずっと女の子に思われていて少しショックだったのはここだけの話。



「あの、橋本先輩」

 あの子達が帰った後、私は先輩へ電話した。


『リサちゃん、一体どうしたのかしら?』

「あの優希って子、絶対女の子ですよね?」

『男の子なのよねぇ、それが』

「いやいやいや、あんなに可愛い男の子がいてたまるかって話ですよ!

 下手なアイドルも顔負けですよあれは!」

『実際いるのだから仕方ないでしょう⋯⋯それに身分証でもちゃんと男の子だったのよ』

「身分証まで⋯⋯そうか、先輩が嘘吐く必要もないですもんね⋯⋯」

『そう言うコト。

 それで、あの子達はどうだったかしら?』

「最低限の基礎は習っていたからって言うのと、才能も悪くないからか振り付けを覚えるだけで良さげなのでそこまで時間はかからないと思いますよ。

 他にも色々手を出すなら話は変わりますけど」

『それなら良かったわぁ、また何かあったら連絡して頂戴ね』

「はい、先輩も無理しちゃダメですよ?」

『ウフフ、ありがと。

 それじゃおやすみなさい』

「はい、先輩こそおやすみなさい」

 そう言うと、私は電話を切った。


「はぁ⋯⋯あれで男の子なんて、凄い事もあるもんだなぁ」

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