224:ヤバいやつが二人!?
新学期も始まりしばらくすると、僕は用事があって部室に来ていた。
新規部員が来るわけでもない状況で僕がここに来たのは、前に先輩と一緒に本を読んでいた時に持って来ていた本の回収を忘れていたからなんだけど。
「ふぅ、ちょっと重いけど一回で持って帰れそうかな?」
僕は一人そう呟くと、本を鞄に入れて帰ろうとした。
「やっと来てくれたんですね、先輩」
「へっ?」
どこかで聞いた事のあるような声が部室の入り口から聴こえてきた。
「あ、あ⋯⋯」
前に言っていたけど、いるはずが無いと思っていた僕は驚きを隠せなかった。
「結野すみれちゃん⋯⋯?」
「ん? 呼んだ?」
「「えっ?」」
するとすみれちゃんの後ろから一人の女の子が現れた。
「結野すみれは私。
何で先輩が私の名前を知ってるの?」
「え? だってその子が前、自分の名前は結野すみれだって⋯⋯」
僕は正直にそう言うと自分が結野すみれだと言う女の子の表情が一気に変わった。
「⋯⋯恵ちゃん、そこまで私の事を」
「な、何か勘違いしているみたいですね!?
と言うか先に帰ってってボクは言ったよね!?」
恵ちゃんと呼ばれた自称結野すみれちゃんは突然現れた女の子にツッコミを入れまくっていた。
「それで、僕は何て呼べば⋯⋯?」
「はぁ、このまま名前を隠していたかったんだけど⋯⋯仕方ないか。
ボクの名前は月野恵、です」
「月野⋯⋯?」
その名前には僕でも聞き覚えがある。
「⋯⋯多分想像してるので間違い無いですよ優希先輩」
「やっぱり⋯⋯?」
月野テック、地元と言うか東海では有名なVR機器の超大手メーカー。
「月野の名前を出すと皆が目の色を変えるからあんまり名乗りたく無かったんですよ⋯⋯」
「目の色?」
「腐っても一つのジャンルの大企業ですよ?
そう言う目的で近付こうとする人が凄く多いんですよ」
「有名なのも大変なんだね⋯⋯」
僕としては大企業の社長の娘だとしてもそんなに無理にでも近付きたいとは思わないけど、他の人はそうでも無いって事なのかな?
「優希先輩は、そんな人間じゃないと思っていますけど、やっぱり心配になってしまうんですよ⋯⋯」
「大変なんだね⋯⋯でも、僕はそんな事ないから大丈夫、って自分で言うのもなんか変だね⋯⋯あはは⋯⋯」
誰かとお付き合いするなら、その人の事を好きになった上でお付き合いしたいからお金があるから、無いからなんて理由でお付き合いなんてしたく無いんだ。
⋯⋯綺麗事だと言われたとしても、ね。
「ふふっ、信用してますよ。
だって優希先輩はピュアピュアですもんね」
「えっ?」
「今時、あんな綺麗な人に好意を寄せられたら大抵の男はホイホイ付き合っちゃいますよ」
「うぐっ」
「自覚はあるんですかね?
ふふっ、ライバルが多くて大変ですね」
そう言って恵ちゃんはやれやれと言った仕草で笑いながらそう言った。
「⋯⋯恵ちゃんは、渡さない」
「取るつもりも無いんだけど⋯⋯」
「ボクは優希先輩を愛でたいと思っているんですけどね?」
「⋯⋯男にしては確かにかなり可愛い。
でも恵ちゃんには勝てない⋯⋯」
「可愛さで女の子に普通勝てないからね!?」
「でも優希先輩は普通じゃないからきっと大丈夫ですよ」
「何で皆、僕の事をそんな風に言うの⋯⋯?」
「でも満更でも無いですよね?」
そんな事を恵ちゃんに言われた。
「いやいや、そんな事は⋯⋯」
「じゃなかったら女装しながらカフェなんて行かないですよ? 普通」
「⋯⋯⋯⋯え?」
な、何でその事を⋯⋯?
「ふふふっ、ボクは優希先輩の事なら何でも知ってます!」
「⋯⋯また、探偵雇ったんだね」
「へっ?」
探偵? 探偵って言った!?
「あーもう! 何でバラしちゃうかなすみれちゃんは!」
「幻滅させれば、恵ちゃんは私のものだから⋯⋯」
「すみれちゃんはそんな事するんだ。
それならボクはすみれちゃんの事嫌いになっちゃうかも」
「いや、ごめん⋯⋯なさい⋯⋯謝るから⋯⋯捨てないで⋯⋯」
目の前で突然ボロボロと泣き出したすみれちゃん。
そ、そこまで恵ちゃんの事が好きなんだね⋯⋯行きすぎな気がするけど⋯⋯
「泣きすぎだよ!?
あーもう! ボクがすみれちゃんを捨てる訳ないでしょ!冗談だよ冗談!」
「本当に冗談⋯⋯?」
「本当だよ!」
「責任取って結婚してくれる?」
「する⋯⋯訳ないでしょ!?
突然何を言い出すの!?」
僕は悟った。
ヤバいのは恵ちゃんだけじゃないって。
「ぼ、僕はこれで失礼するね⋯⋯」
僕はひっそりと言い合いしているうちに二人から距離を取る事にした。
「してくれないなら私、ここで死ぬ!」
「あああああああ! カッターなんて危ないでしょおおお!!!!!」
「じゃあ結婚して!!!!」
「だから女の子同士は無理なの!!!!
諦めて!!!!」
「大丈夫! 認めてくれる県もある!!」
「そう言う問題じゃないの!!!」
二人はなんだかとんでもないことで言い合いをしていた。
「恵ちゃんもすみれちゃんも怖い⋯⋯距離を取らないと危ないかも⋯⋯」
でも学校に通う以上距離なんて取れるのかな?
「⋯⋯あれ? もしかして僕、今の状況結構詰んでない?」
僕はそんな考えが脳裏によぎった。
「⋯⋯大丈夫だよね、うん。
悪く考えるとフラグになるから考えないでおこう」
僕はそう決めて家に帰る事にした⋯⋯だけどそんな考え自体がフラグだったと気付くのはもう少し後だった。
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