169:何故かいるお母さん

 今日の配信のメンバーが揃ったと思いきや、その中にまさかすぎるお母さんの姿が。


 僕もお父さんも信じられないような物を見るようにお母さんを見つめていた。


「やっぱり優希ちゃんは可愛いですね⋯⋯」

「か、母さん⋯⋯まさかその為だけに⋯⋯」

「大事な息子が頑張っているなんて聞いたら親なら飛び出さずにはいられないですよね?」

「いや、流石に⋯⋯」


 お父さんは苦笑いせずにはいられないようで、なんとも言えない表情をしている。

 それに反してお母さんはとても満ち足りたような表情を浮かべている。


 そしてそんなカオスな状況でスタジオの中に山口さんが入ってきた。


「えー、メンバーも揃ったようですし、予定通り、十二時から配信を開始したいと思うのですが、大丈夫でしょうか?」

「え、えっと、大丈夫です!」

「も、問題ないですよ」

「問題なしでーす!」

「大丈夫だと思います」

「私も大丈夫ですー」

「大丈夫です」


 全員が準備も出来たようで、さぁ配信!

 ⋯⋯とはならず地味にまだ二十分ほど時間が残っている。


 その間華さんとエミリーさんはお母さんのところへ行き何やら話している様子。


 僕はお父さんに何故お母さんがいるのか聞いてみる事にした。


「ねぇお父さん、なんでお母さんがいるの!?」

「知らねぇよ!? 俺も聞きたいんだが!?」

「いやー、なんかすいません⋯⋯」

「あっ、た、タツヤさん!?」

「初めまして、優斗さんとは何度もお会いしたことはあったんですけど、優希君とは初めてでしたね。

 僕が希美さんのレシピを使ってYoutubeに動画投稿させてもらってるタツヤです」

「わ、わざわざありがとうございます!

 白姫ゆかの中の人やらせてもらってる姫村優希です! お母さんがレシピの提供やってるのは知ってましたけど、まさかタツヤさんにだったなんて驚きです⋯⋯」


 僕は普段動画で見ていた人が目の前にいるって言うだけで緊張するのに状況が酷すぎて緊張も吹っ飛んでしまった。


「それで、なんでお母さんがここにいるんですか?」

「えーと、まず僕が審査員って時点で初の試みで不安で希美さん、先輩って言わせて貰いますけど先輩に相談をしたんですよ」

「それは俺も聞いたな」

「それで出演者がこんな人達と言ったら急に声を荒げて私もって言い出したんです。

 MeljiさんからもOKが出ちゃったので今回参戦したって感じですね」


 タツヤさんが事情を話すと僕とお父さんは顔を見合わせてため息を吐いた。


「絶対優希が料理する所見たかっただけだなこれ⋯⋯」

「僕も、そう思う⋯⋯」

「あ、あはは⋯⋯なんか申し訳無い⋯⋯」

「とりあえずタツヤ君、君に一つ頼みたい事があるんだが、いいか?」

「なんでしょう?」

「母さんが暴走しないように見張っててくれ⋯⋯」

「ぜ、善処します⋯⋯」

「頼むぞ!? 本当に頼むぞ!?」


 お父さんは必死そうにタツヤさんにそう頼んだ。



「ゆ、優希くんのお母さんですか!?

 凄くお綺麗ですね!」

「ゆかちゃんママ! きれーです!」

「あらあら、ありがとう。

 二人も綺麗ですよ?」

「「光栄です!」」

「それで、貴女が噂のふわりちゃん?」

「噂、ですか?」

「うちの優斗さんがふわりちゃんはやべーやつやべーやつってずっと言ってるものだからどれほどかと思ってたけど、言うほどじゃないなって思ったんですよ」

「えっ、シュバルツさんそんな事を!?」

「よほど会った時のイメージが悪かったみたいですね」

「うぅ⋯⋯優希くんの事になると周りが見えなくなる癖どうにかしないと⋯⋯」

「自覚はあったんですね⋯⋯?」

「私も聞きたい事あります!

 ゆかちゃんは昔からあんなに可愛かったです?」

「私も気になります」

「天使よ」

「「天使?」」

「優希ちゃんは昔から⋯⋯まぁ今もなんですけど、天使なの、もうてぇてぇってもんじゃないんですよ!」


 優希くんのお母さんはポケットを漁ると中からスマホを取り出した。


「「⋯⋯ごくり」」

「この写真、昔の優希ちゃんなんだけど⋯⋯」

「なんですか、この可愛い生き物」

「か、かわ⋯⋯きゅーと⋯⋯でーす⋯⋯」


 優希くんのお母さんは昔の優希くんの写真を見せてくれた。

 なにこれ本当に天使なんですけど??


「この子が、ママ、ママって甘えてくれるのよ?」

「ぐふっ」

「あぅっ」


 想像しただけで鼻血が出そうなくらい尊い⋯⋯尊みの過剰摂取になっちゃう⋯⋯


「ただ、高校生になってから一人暮らし始めちゃって、私も優希ちゃん成分が不足しちゃって⋯⋯だからふわりちゃんの気持ちはわかるの。

 一度優希ちゃんキメちゃったらもうだめよね」

「そうなんです⋯⋯配信無かったら襲ってる自信あります⋯⋯」

「私は眺めてるだけで満足でーす」

「流石に襲わないでね? 優希ちゃんが悲しむのは流石に嫌ですよ?」

「私にも理性は流石にあるので大丈夫ですよ?」

「ほんとーです?」

「本当です!」

「皆心配してるですよ?」

「本当、私清純派のはずなんですけどねぇ⋯⋯」

「「えっ?」」

「何で疑問系なんですか」

「だってー、そのー」

「私も話聞いてる限りだと清純派は無理が⋯⋯」

「酷くないですか!?」

「だってふわりさんです」

「その定型文Vライブでも流行ってるんですか!?」

「⋯⋯」

「何か言ってくださいよ!?」

 

 そんな話をしていたら気付けばもう時間になっていた。


「それではそろそろ配信開始するので配置についてくださーい!」


「「「「「はーい!」」」」」


「それじゃ配信スタートまで、5、4、3、2、1⋯⋯スタート!」



 私は今日の優希くんの配信を見るためにデスマーチを終わらせた。


 終わらせたまでは良かった⋯⋯


「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」

「らいじょぶ⋯⋯ゆらも気をつけて⋯⋯」


 完全に体調を崩してしまった、今日は優希くんのバレンタインコラボの日なのに。


 しかもそんな日に限って由良は仕事の打ち合わせの為に名古屋を離れて東京へ移動する事になっているらしい。


 戻ってくるのは明日の夕方くらいなんだとか。


「一応、飲み物とか食べ物は買ってきたけど、無理はしちゃだめだよお姉ちゃん」

「わかってる⋯⋯」


 分かってはいるけど、今日の為に頑張って来ただけに配信を見ない訳にはいかない。


 配信の時間は確か十二時だから、まだ多少は時間があるはず。

 今のうちに風邪薬とか飲んでおこうかな?



 家を出たわたしはお姉ちゃんの事が気になって仕方がなかった。


「絶対優希くんの配信見る気だよね⋯⋯わたしなら見るもん」


 かといって今日は打ち合わせの関係で出かけなきゃいけないから看病するわけにもいかないしでなかなか難しい。


 どうしようかなーと考えているとふと、わたしは思いついてしまった。


「そっか! お姉ちゃん前優希くんの看病に行ったって言ってたし⋯⋯ふふふ」


 一か八かだけど、成功したらお姉ちゃんの為にもなるし、いいよね?

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