167:母、動く

 ここはとある場所にあるカフェ。

 そこには一人の女性と一人の男性が話し合いをしていた。


「それで先輩、何でいきなりあの話に乗ってきたんですか?」

「えっと、ここだけの話にして欲しいのだけど大丈夫?」


 男性は優希が良く見ている料理系Yotuberのタツヤこと、武本竜也たけもとたつやと言い、女性の方は優希の母親である姫村希美だった。


「勿論ですよ、俺が先輩にどれだけ感謝してると思ってるんですか」

「うふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。

 それでね、今回私が急にあんな事を言い出した訳なんだけど⋯⋯白姫ゆかって子、いるじゃない?」

「はい、いますね。

 最近話題になってる子らしいですね?」

「あれ、私の息子なの」

「へっ?」


 竜也は食べていたケーキを驚きのあまりポロっと落とすと慌ててテーブルの上を拭いた。


「えっ、いや、先輩、流石に騙されませんよ!?」

「嘘吐いても意味が無いと思うけど」

「えっ、だってどう見てもあれ女の子⋯⋯」

「可愛いわよねー? ちなみにうちの息子、こんな格好もしてるの」


 そう言って、ネットにあげられていた優希のコスプレ写真を見せる希美。


「??????

 先輩、息子さんですよね?」

「自慢の息子よ?」

「いや、どう見ても娘さん⋯⋯」

「息子よ?」

「世の中って広いっすね⋯⋯」


 遠い目をしながら竜也はそう言った。


「つまり、あれですか。

 息子さんの頑張ってる所を近くで見たい、そういう事ですか」

「そう、そういう事」

「はぁ、一応Meljiさんには聞いておきますけど、期待はしないで下さいよ?」

「あれだったら私の存在を出しても大丈夫よ」

「えっ? あんなに表舞台に立ちたがらなかった先輩が!?」

「優希ちゃんの頑張ってる所を観れるなら、私は頑張れるのよ?」

「母は強し、ってやつですか」

「ちょっと違う気もするけど、そういう事にしておきましょうか」


 そして二人はその後は今後出す予定のレシピについて話をしていると、希美のスマホに電話がかかってきた。


「もしもし、優斗さんもう着いたんですか?

 じゃあ今から出るので少しだけ待っててくださいね」

「おっと、もうこんな時間ですか」

「それじゃあ、後はよろしく頼むわね!」

「任せて下さい」


 そうして二人は、お会計を済ませてカフェを出た。



「お待たせしました、優斗さん」

「いや、大丈夫だ。

 それで打ち合わせ途中みたいだったけど良かったのか?」

「今日は私がお願いして来てもらったので、切り上げる分には問題無いですよ?

 それに殆ど終わってましたし」

「それにしても竜也君、有名になったもんだなぁ」

「なんたって私のレシピを提供してるんですから、有名になって貰わないと困りますよ」

「それもそうか、母さんのご飯は世界一だからな」


 車に乗り込んだ希美は優斗と共にそのまま出かけて行った。



「ふぅ、それじゃ、ちょっと不安だけど電話するとしますかね」

 竜也はそう一人呟きながら、Meljiの担当の人へと電話をかけた。


「もしもし、Meljiの山口です」

「どうもお世話になっております。

 Youtuberのタツヤです」

「あっどうも、タツヤさん。

 どうかされましたか?」

「実はですね、お願いがあるのですが⋯⋯」


 竜也はMeljiの担当者である山口に事情を説明した。


「なるほど、それでレシピを担当してくださっている方がわざわざお越し頂けると言うことですね?」

「そうなんです、ただ自分も調理師の資格を持っているなどは本当です」

「良くある話ですし、問題はありませんよ?

 それにタツヤさんの場合はビジュアル面で女性への人気も高いですし、何の問題もありません」

「そう言って頂けて光栄です」


 竜也は少し気恥ずかしさを覚えながらもそれを表に出さずにお礼を言った。


「それとレシピ担当者の姫村さんでしたか、その方の参加も現状問題は無いと思われます。

 もしも急にNGが出るようであればまたご連絡いたしますし、出来る限り見学でもいけるように配慮はさせて頂こうと思います。

 ただ参加するにあたって、レシピ担当である事を公表する事になってしまいますが、姫村さんの方はよろしかったのでしょうか?」

「はい、その覚悟はもう出来ていると言っていました」


「余程参加者の誰かがお好きなんですね」

「その様ですね⋯⋯私も初めて知りましたよ、ははは⋯⋯(息子が参加するから表に出る覚悟が決まったなんて、俺の口が裂けても言えないな)」

「場所の方は以前お伝えしたスタジオにて予定通り行いますので当日はどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそご無理を言って申し訳ありません」

「いえいえ、普段から当社の製品の販促をして頂いているタツヤさん、そしてそのレシピ担当の方の頼みですし、それに何だか面白くなる予感がしますので⋯⋯」

「そ、そうでしたか⋯⋯(勘が良いな、この人⋯⋯)」


 そうして優希の知らない所で話は進んで行き、コラボの日はもうすぐ目の前に迫って来ていた。

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