165:試食会!

 僕は今、バレンタインコラボの時に何を作るか、未だに迷い続けていた。


「うーん、チョコレートと一言で言っても種類は一杯あるし、どうしたものかなぁ」


 部屋の中でレシピサイトを見ながら僕はうーん、うーんと唸っていた。


「あぁぁぁぁ! 思いつかない!」


 ケーキに生チョコ、プリンやアイスにムースだってある。


 悩めば悩むほど、何が良いのか分からなくなってきてしまう。


「こういう時、誰かに意見を聞くのがいいんだろうけど、配信で聞くのはネタバレになるしつまらないよね⋯⋯」


 一瞬薫さんの顔が頭に浮かんだけど、今は凄く忙しそうな感じだし、流石に時間を取るのは申し訳ないから、それもNGかな⋯⋯?


 そんな事を考える事数日——


「なぁ優希、今週の週末って暇だったりするか?」


 学校で休み時間に裕翔が僕にそう聞いてきた。


「うーん、お昼からでいいなら暇、という訳でもないけど時間は取れるよ?」

「じゃあさ、久々に遊ばないか?

 久しぶりに部活が休みだから遊びたいなって思っててな!」


「⋯⋯そっか。

 そうだ、その手があった!」

「優希?」


 不思議そうな顔で僕を見る裕翔。

 でも、僕は裕翔が休みと聞いて、思い付いてしまったんだ。


「ねぇ裕翔、その日さ、バレンタインコラボの時に作るお菓子の試食してくれないかな!」

「え? いいのか?」

「良いも何も裕翔が良いならだけど」

「も、勿論良いぞ!」


 裕翔はテンションが上がって嬉しそうにOKを出してくれた。


 そして、その話をこっそりと聞いていたのか、後ろから突然声をかけられた。


「ねぇ優希くん」

「その話」

「詳しく」

「「「聞かせてもらえないかな?」」」

「ひぇっ!?」


 声をかけてきたのは、天音さん、花園さん、香月さんのいつもの三人だった。


「え、えっと、次の日曜日にうちでコラボの時に作るお菓子の試作品を試食してって話をしてたんだけど⋯⋯」


「私も行きたい!」

「わ、私も⋯⋯」

「優希くんの手料理、独り占めは許さないよ!」

「お、お前ら⋯⋯」


 天音さんと香月さんは勢いよく、花園さんは恥ずかしそうに僕にそう言った。

 裕翔はちょっと呆れたような顔をしていたのは何でだろう?


「僕は構わないけど、味は保証しないよ?」

「「「大丈夫!!!!」」」

「う、うん⋯⋯ならいいけど⋯⋯」


 そんな事があって、今週末は家でお菓子の試食会が開催される事に。



 そして、今日がそのお菓子の試食会の日。


 午前中のバイトが終わった僕は、交換していた皆の連絡先へ今から家に帰るよとメッセージを送り、家に着いた僕はバイト中にかいた汗をシャワーでぱぱっと流した。


 それからほどなくすると、家のチャイムが鳴った。


「やっほー優希くん、お邪魔しまーす!」

「優希くん⋯⋯こんにちは⋯⋯」

「優希くんバイトお疲れさま!それとお邪魔するね!」

「おいっす優希、バイトお疲れさん!」

「皆いらっしゃい、上がって上がって!」


 そして全員を部屋に上げると僕は皆をリビングに案内した。


 地味に今僕が住んでる部屋は広いから、四人くらいなら普通に座れちゃうんだよね。


 それに元々家具が置いてあった事もあって、椅子も四脚ちゃんと揃ってるんだ。


 こればかりは大家さんに感謝だよね。


「あ、あのさ、優希くんの部屋、広くない?」

「うん⋯⋯これはかなり広いと思うかな⋯⋯」

「い、いくらくらいするんだろ⋯⋯」

「遊ぶ時、優希の部屋って丁度いいんだよなー」

「あー、やっぱり皆もそう思う?

 ちなみに家賃は六万円くらいって言ってたような⋯⋯」


 皆部屋の広さに驚いている様子。

 僕も最初この部屋に住むと良いと言われた時は本当にびっくりしたよね。

 ただ自分だけの秘密基地みたいな感じで凄くワクワクしたけど。


「えっ!? 安くない!?」

「私も一人暮らし考えた時期に調べた事あるけどこの広さなら十万円クラス行ってもおかしくないよ?」

「うーん、お父さんの知り合いが大家さんらしいから身内価格にしてくれたのかも⋯⋯」

「いい大家さんだね⋯⋯」

「結構ちょこちょこと会うんだけど凄く優しい人だったよ」

「そう言えば優希のお父さんってシュバルツさんだった訳だろ? そっちの関係なのか?」


 皆、お菓子のことを忘れて僕の部屋の事について話してるんだけど、そろそろ作り出さないと時間が危なくなっちゃいそうだし、切り上げないとね。


「多分違うと思うよ?

 それとあんまり話すのに集中しちゃうと時間無くなっちゃうから、作りながらでもいいかな?」

「あっ、ごめんね! 大丈夫だよ!」

「問題ないよ⋯⋯」

「オッケーだよ!」

「俺は気にしないから大丈夫だぞ」

「じゃあ作りはじめちゃうね!」


 そして僕は買ってきていた材料を取り出して早速調理を始めた。


 今日作る予定なのは、チョコレートのプリン、生チョコレート、ガトーショコラの三つ。

 あんまり作りすぎちゃっても食べきれないし、皆少しずつ種類を食べる感じでいいかな?


 本当は洋酒も使いたいやつがあるんだけど、流石に洋酒は僕には買えないから当日に用意してもらうようにお願いしておかなきゃだね。

 あれがあるのとないのでは生チョコレートの風味が一気に変わるからね。


 最初は生チョコレート、これは結構作り方は簡単で、刻んで湯煎したチョコレートの中に生クリームを投入して混ぜて型に入れるだけ。


 どうせバレンタイン用だしって事で型はハート型を用意してみたよ。


 数を配る事を想定して小さめのやつを何個か一気に作れるやつにしたから、冷えるのも早いし丁度いいよね。


 次はチョコレートプリン。

 これはとろけるプリンのレシピを応用して、チョコレートを追加したものになるよ。

 温めた牛乳にチョコを溶かしてその中に溶いた卵を入れて良く混ぜて、漉し器で2回ほど濾したら容器に入れて湯煎したものを冷蔵庫で良く冷やしたら完成!


 冷えるまでに時間がかかっちゃうけどそれは仕方ないよね。


 多分夕方までには完成するはず⋯⋯!


 最後にガトーショコラ、これも割と簡単に作れるんだけど、材料をしっかり混ぜて生地をハートの型に入れて焼くだけ。


 あとは焦げないように慎重に焼いていけば完成だね。


 ⋯⋯と言うわけで気付けばもう夕方、焼き上がったり湯煎が終わった後は、皆と楽しくゲームやったりお喋りしていた事もあって時間はすぐに過ぎていった。


 冷蔵庫を確認してみると、どれも大分冷えてきた様子、これなら食べられそうだね。


「皆、お待たせ!」

「⋯⋯美味しそう」

「本当、優希くん女子力高いよね⋯⋯」

「マジで優希の作る料理って美味そうなんだよな⋯⋯」


 僕が完成したお菓子を用意すると、皆が目をキラキラさせてお菓子を見つめながらそう言った。


「それじゃあとりあえず、食べよっか!」

「「「「「いただきます!」」」」」


 皆が食べる様子を見ながら僕も食べるんだけど、皆目を細めながら口元を緩ませている。


 良かった、気に入ってもらえたみたい。


「美味しい!」

「美味しい⋯⋯ね」

「悔しいけど、美味しいよぉ⋯⋯」

「うめぇ」


 約一名語彙力が消えてるけど、裕翔だしいいや。


 それから皆は黙々とお菓子を食べ、気が付けばお皿の上のお菓子は全部無くなっていた。


「ちなみに、皆はどれが一番美味しかった?」

「私は⋯⋯ガトーショコラかな⋯⋯」

「私もガトーショコラかな?」

「私はプリンも好きかなー」

「ぜんぶおいしい」


 とりあえず裕翔は早く戻ってきてくれないかな。


「個人的にだけど、ガトーショコラに付いてる生クリームが少し苦めのガトーショコラと相性が良いと思うかな」

「私も同意見⋯⋯」


 花園さんと香月さんの二人がガトーショコラを推すみたいだから、ハート型のガトーショコラを本番で作る事にした。


「それにしてもどれも美味しかったから選べって言われても困っちゃうよね」

「本当⋯⋯それ」

「むしろ全部作ってもいいんじゃない?」

「うめぇ」

「流石に全部は厳しいかなぁ⋯⋯でも感想ありがとう! なかなかこういう機会が無いから助かるよ!」


「⋯⋯試食なら任せてくれていいよ!」

「いつでもばっちこいだね! ⋯⋯今は厳しいけど」

「私なんかでよかったらいつでもいいよ!」

「俺も時間ある時ならいつでもいいぜ!」

「あっ、裕翔ようやく語彙力戻ってきたんだね」


 そして、皆に褒められてちょっと嬉しくなっていた僕は、もう少し先のコラボの日を楽しみに待っていた。

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