96:文化祭初日!②

 文化祭の模擬店で出す料理の仕込みが終わった僕達は、まず教室に集まり、模擬店の最終準備を始めた。


 今日は出席確認だけを先生がして、それからすぐに各々の役割に応じた仕事にとりかかった。


 僕達早朝組はこの間に少し休憩していいとの事だったので、机の上で少しだけ仮眠を取らせてもらった。


 流石にこのまま文化祭スタートは体力が保たないから助かった⋯⋯


 そこから三十分ほどして目が覚めると少しばかり体力が復活した気がする。


 目が覚めた僕はピヨッターで今から文化祭があるので浮上出来ないと呟いた。


 すると一瞬でツイートが拡散されていき、更には薫さんや華さんまでもが今から向かうねなんて言ってくる始末。


 流石に、学校は教えてないから分からない⋯⋯よね?


 そして僕は午前中は模擬店のお手伝いをメインでやって、午後は自由時間の予定になっているんだけど、午後に僕の体力は残っているのか少し不安。


 でもどうせだからクタクタになってもいいから文化祭目一杯楽しみたいね!


 そんな風に一人心の中で意気込んでいたら、後ろから何か嫌な気配を感じた。


「ゆーきーくーんー」

 その声の正体は香月さんだった。


「あっ」

 忘れてた、コスプレの存在。


「はい!これが優希くんの衣装ね!

 更衣室で着替えて来てね! あと、念の為にこれウィッグ!衣装決めるときに止められなかったからせめてものお詫びに⋯⋯」

「止められなかった?お詫び?なんのこと!?」


「い、衣装見たら分かるよ⋯⋯」

「う、うん」

 僕はよくわからずに相槌を打った。

 そんなに変な衣装じゃないだろうし大丈夫だよね?


「とりあえず僕は着替えてくるね」

「い、いってらっしゃーい⋯⋯」

 最初の頃の勢いはどこへやら、テンションの下がり気味な香月さんを横目に見ながら僕は更衣室へと向かった。


そして、更衣室の中で僕は衣装を広げ絶句した。


「これ、ダークアリスの衣装だ⋯⋯」

 そう、まんまではないけれど、とても良く似た衣装だった。

 というかよく売ってたねこれ⋯⋯


「あっ、だからウィッグなんだ!」

 僕はそこで納得した。


 そのウィッグは金髪でまさにアリスと言うべき色だった。


「金髪なら⋯⋯バレないかな?」

 というか、バレちゃダメって訳でも無い気がするんだけど、今更かな。

 それに僕ウィッグ無しで撮影した事あるから、問題無い気もするんだよね。


 とりあえず着替えてみると微妙にあの時の衣装とは違う事に気が付いた。

 そしてウィッグを着けてみると案外しっくりとくる。

 ただ、お化粧をしてないのが凄く違和感を感じるけど、逆に言えばお化粧しない方が僕が白姫ゆかだってバレないだろうし、丁度いいのかな?


 そして、着替えが終わった僕は再び教室へと戻っていった。


 教室に入ると一瞬皆が僕の方を向いた。

 それまでざわざわしていた教室がシーン、と静かになる。

 僕何か変だったかな?


「「「「「か」」」」」

「「「「「「「「「「かわいいいいいいい!!!!!!!」」」」」」」」」」


「ふぇっぷゅ!」

 いきなりクラスの女子達が僕に向かってくる。

 待って、痛い、痛いよ!?

 押さないで!!!???


「あぁ⋯⋯なにこれかわいい⋯⋯」

「やばい、やばいよ⋯⋯」

「ねぇ、一緒にあっちいかない?」

「もみくちゃになってる女装ショタ⋯⋯ぐへへ⋯⋯」

「なんかやばいのいたよ!?」

「ねぇねぇ、化粧してみない?」

「待って、私がするの!!」

「待って待って!今日僕はお化粧しないからね!?」

「「ちぇっ⋯⋯」」


「待って、今俺男にときめいたのか⋯⋯?」

「奇遇だな、俺もだ」

「やばいわアレ、ミスコン出てもいい線いけるんじゃね?」

「こっそり応募しとこうぜ」

「「「それ名案だな!」」」

 優希の聞こえていないところで優希はミスコンに応募させられていたが、本人がそれを知るのはもう少し後の事だった。


「はいはい、それじゃもうすぐ開始の時間だから優希くんに構うのはおしまい!」

 クラス代表のようになっている香月さんが皆に告げる。


「それじゃ、教室の端っこにいる女装男子達、こっちに来て!」


「いやだあああああああ!!!!」

「もえもえきゅん⋯⋯もえもえきゅん⋯⋯ははは⋯⋯俺なにやってんだろ⋯⋯

「案外動きやすいんだなこれ」

「不幸だああああああ!!!!」

「お前ら、諦めて行こうぜ、戦場ホールへよ」


 クラスの男子達の悲痛な叫びが聞こえる中、僕の視界には裕翔の姿もあった。


「ちゃ、チャイナドレス⋯⋯

「笑いたけりゃ笑えよ⋯⋯」

「案外似合ってるよ?」

「まじで?優希の方が似合ってるんだが?」

「というか裕翔元々顔がいいからガタイの良さだけどうにか出来たら見える見た目してるよ?」

「つまり今の俺はガタイのいい漢女ってところかだめじゃねぇか!!!」


「ははっ、頑張ろっか!」

「クソォ⋯⋯」

 そして悲痛な叫びの聞こえる文化祭の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。


♢(遊佐薫視点)


「!?」

 私はピヨッターで優希くんのツイートを見て驚愕していた。


「今日から三日間配信が無いのってこれが原因だったの!?」

 そう、なんと優希くんは今日から三日間文化祭があるために作業に追われているらしかった。


「何やってるのか凄く気になる⋯⋯仕事の残りは⋯⋯うん、問題無い。 何だったら帰ってからやっても十分余裕ある」

 私は優希くんの学校を知らないけど、この辺りで大きな文化祭をやるのはあの高校かな?

 でも、間違っていたら嫌だし、どうしよう。


 そんな事を思っていたら、ふと私は思い出した。


 そうだ、先輩のところのモデルの子と優希くんは同じ学校だったんだ。

 ⋯⋯それに優希くんの初恋の相手でもある。


 ここは一つ正直に優希くんに聞いてみようかな。

 下手に周りから聞くよりも本人に聞く方がイメージも良くなりそうだし。


 私はダメ元で優希くんにメールを送る事にした。


 もし教えてくれたら華さんにも教えてあげよう。

 独り占めするのはなんか悪い気がするし。

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