17:大変身!

「んー私としては絶対に似合うと思うんだよね、ここなら色々な会社から貰った試供品の化粧品があるから色々試せるんだけど、だからどう?やってみない?」

 スタッフのお姉さんが絶対似合うからと念押ししながら僕を説得してくる。


「えー、えっと流石にお化粧は⋯⋯」

 僕は流石にそこまではと思い断ろうとすると⋯⋯


「キミの着てみたい衣装とかも着せてあげるから!ねっ!可愛い服着て一緒に来てた女の人喜ばせてあげよっ!」

「僕なんかがそんな服着ても喜ばないと思うんですけど⋯⋯?」


「何を言ってるの!喜ばないならこんなところまで来て服のデザイン出して採寸までやってなんて面倒な事やらないよ!」

「そうですかね?」


「じゃあわかった!もしお化粧と衣装用意したの着てくれてそれの評判が悪かったら私が無理矢理着せたって言うから!キミみたいな可愛い子がそんな格好なんて私が許せないの!」

「そ、そこまでですか!?」

 何が一体この人をここまで駆り立てるのか僕には分からないけれど、一度くらいならいいかな? コスプレの予行演習とでも思っておこうかな?


「うー、分かりました!!

 やりますよ!やってやりますよ!!

 その代わり滅茶苦茶可愛くしてくださいね!!」

「その言葉が聞きたかった! お任せあれ!!」


 そして今、スタッフさんの手により化粧が施されようとしていたのだけどその直前になってスタッフさんに一つ質問された。


「そう言えば、何かこの子みたいになりたいっていう希望とかは無いかな?」

「それだったらえーっと、あった、この画像の 

子みたいにしてもらえませんか?」

 僕は白姫ゆかの全体像をスタッフさんに見せた。


「ふむふむ、ちょっと待っててねー今必要そうなもの取ってくるから!」

「はい!」

 するとものの三分ほどで戻ってきた。


「よし、それじゃあ始めるよ」



「んーおかしいわねぇ、あの子の採寸まだ終わらないのかしら」

「先輩、妙に長くないですか?」


「んーこんな事滅多に無いんだけどねぇ。

 アタシ少し様子見てくるから、そっちの書類とかの確認頼むわね?」

「分かりました」


 アタシが隣の部屋に入ろうとすると中から声が聴こえてきた。

 何やってるのかしら、と思ったアタシはドアをゆっくりと開け隙間から中の様子を伺う事にした。


「(あら、お化粧してるじゃない、まさか服を着せる気なのかしら)」

 これは面白い事になりそうだと思ったアタシはもう一度部屋に戻り終わるのを待つ事にした。


「戻ったわー」

「早かったですね先輩」

「時間はかかりそうだったけど問題は無さそうだったわ」

「ほっ、ならよかったです」

「それにしても薫ちゃん、あんな子と何処で知り合ったのよ?」

「実は直接会うのは私も初めてで⋯⋯」


「あの子は私にVtuberとしての姿のデザインをお願いしてきたんです。

 五十万ぽんと出してくれて驚きましたよ」

「それでなんであの子の衣装を作ることになったのよ?」


「配信やってる時にコミケに出展はしないのか?って視聴者に言われて、今回は間に合わなかったから、と言っていてこれはリアルで会うチャンスじゃ無いか!?ってなった訳なんですよ」

「ちょっと待って薫ちゃん、あなたあの子狙ってるの?流石にショタっ子はだめよ法律的にNGよ?」


「あの子今十七歳ですよ?来年には完全に合法ですよ?」

「嘘でしょ?あれで十七歳!?」

「まぁ驚きますよね、私もそうでした。

 あと知ってましたか先輩、健全なお付き合いなら年齢の壁って無いんですよ?」

「薫ちゃん、倫理的にはNGよ!?」

「まぁそれは置いておいて、あの逸材欲しいわね⋯⋯」



「よし出来た!」

 スタッフのお姉さんがそう言うと次に衣装を渡してきた。


「さぁさぁ!これに着替えてね!私一回部屋出てるから着れたら教えてね!」

「は、はい!」

 僕は渡された衣装を持ちながら、お姉さんが部屋を出るのを眺めていた。


「これを、着るんだよね⋯⋯」

 渡されたのは黒い光沢のある靴に白いニーソックス、黒をベースにした不思議の国のアリスのアリスのような服に黒い大きめなリボン。


「僕に着れるかな⋯⋯?」

 とりあえず着てみると思ったよりも着やすい設計になっていたおかげでささっと着ることが出来た。


「これで良し、とリボンだけは分からないからお願いしなきゃだめかな?」

外にいるお姉さんに声をかけてみてもお姉さんからの返事がなく、いない事に気が付いた。


「どうしよう、待ってた方がいいのかな」

 と考えていると


「ごめんね、お待たせ!最後に必要な物があったから取りに行ってたのよ!」

 そう言うともう一度僕と部屋の中へと戻り、今度はウィッグを僕に着け始めた。

 ウィッグが着けば次はリボン。

 どうやらこれで本当に終わりらしい。


「よーし終わった終わった!

 まだ自分の姿見てないでしょ?

 見てみたくない?」

「えっと、ちょっと気になります⋯⋯」

「だよね、だよねー!よしじゃあこれでどう!」

 彼女が部屋にあった姿見を僕の前に持ってくるとそこには美少女がいた。


「いやー我ながらいい仕事をしてしまった⋯⋯」

 スタッフさんは満足気な顔をしながらそう呟いた。


「これが、僕?」

 僕は姿見に映る姿に困惑を隠しきれなかった。 身体を少し動かしてみたり、表情を変えてみたりしても目の前の美少女の動きは僕と同じ。 つまりはこれが僕なんだ。


「んー、そうだ!」

 スタッフさんが何かを思いついたようで部屋に置いてある少し大きめなテディベアを持ってくる。


「これ抱いてみてもらえる?」

「はい!」

 言われた通りテディベアを抱いてみるとそこにはテディベアを持つ白姫ゆかとしか思えない美少女が存在していた。


「僕、かわいい⋯⋯?」

「えぇそうよ!キミの持ち味の可愛さを前面に持ってきた衣装よ!似合わない訳がないの!

 さぁ行くわよ!二人の度肝を抜いてあげましょ!」

「はい!」


 それでもいざ薫さん達が待つ部屋の前に行くと緊張で頭が一杯になる。


「大丈夫?流石に緊張する?」

「緊張で足が震えてきました⋯⋯」


「それならその女の子になりきっちゃうといいよ、演技をするの」

「なりきる、僕が白姫ゆかに⋯⋯」


 僕は目を瞑り、思考を切り替える。


 僕は白姫ゆか、僕はボクに、優希から白姫ゆかに。


 ボクは、白姫ゆか。

 ボクなら出来る、だから行こう。


『うん、大丈夫』

「えっ?」


『今のボクは白姫ゆか、もう大丈夫だよお姉ちゃん。』

「くっ!(ガリッ

 ふぅ⋯⋯よし行こっか?」

『うん!』



『お姉ちゃん、お待たせ♪』

「ふぇ!?」

「あら?」

 二人は声を上げながらこちらへ振り向く。


『どう、かな?似合ってる?変じゃないかな?』


「ふゎぁぁぁっっぁぁぁ!!」

「あらぁぁぁっぁぁ!!!??」


 二人とも悶絶してしまった。


♢(遊佐薫視点)


「はぁ、はぁ、えっと、先輩これは、どういう、事、ですか?」

 息も切れ切れになりながら私は先輩に問いかける。


「化ける化けるとは思っていたけどこれは想定外よぉ⋯⋯」

「なんでこんなに可愛いんですか!!」


『えへへ、可愛いなんて薫お姉ちゃんありがとう!』

「えへへへへ、どういたしましてぇー」

「薫ちゃん戻ってきて!?」

「ぁぅ、危なかった⋯⋯先輩ありがとうございます」


「それにしても、いやー元が男とは思えないほどに完璧ね、もはや生まれる性別を間違えたとしか思えないわ」

「これが天使かぁ⋯⋯」


「薫ちゃん?本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫ですよ!」


『えっと、そんなに見つめられると流石のボクも恥ずかしい、な』

 ずっと見られていた優希くんは恥ずかしそうにしながらテディベアで顔を隠し始めた。


「なんでいちいち挙動がこんなに可愛いのぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「もはや狙ってやってないかしらこの子ォ!?」


「へへへ、マネージャー、どうです?破壊力抜群でしょう?」

 粗方反応を見終わったスタッフさんが先輩に話しかける。


「アナタ、なんてものを生み出したのよ!

モデルになってもらいたくてアタシのうずうずが収まらないのよ!?」

「いやー絶対化けると思って全力出しちゃいました⋯⋯」

 実際化けに化けたので彼女の狙いは大成功だったのだけど。


「ねぇちょっと優希ちゃん!話があるんだけどいいかしら!?」


『お姉ちゃん、今のボクは白姫ゆか、だからゆかって呼んで欲しいな』

「くっ、ゆかちゃんね分かったわ!」


『それで話って何かな?お姉ちゃん』

「モデル、本気で受けてもらえないかしら」


『うーん、これって企業案件って事でいいのかな?』

「そうね!企業案件って事でいいわ!」


『でもボク、まだそういう経験ないけどいいのかな?』

「服を着て写真撮らせて貰えたらそれでいいのよアタシは!」


『でもボクはVtuberでもあるからやるのなら動画とかも作らないとダメじゃないかな?』

「だったらIVイメージビデオの撮影もやりましょう!それをゆかちゃんのチャンネル限定で公開してもいいって事にしましょう!」


『そ、そこまで言うならいいよ、ボクがどれくらい力になれるかわからないけど、やってみるね!』

「やったわあああああああ!」


「今日は時間もいい時間になってしまった事だし、もうすぐゆかちゃんは夏休みよね?撮影は夏休みに入ってからでどうかしら?」

『それで大丈夫だよ!』


「なら決定ね!報酬として今回の衣装に関するお金は全てこちらで受け持つわ!」

「えっ先輩、いいんですか?」

「問題は無いわ!むしろ着てウチを宣伝して頂戴!」


「ゆかちゃんにもそうね、一ヶ月の動画の再生回数の二倍の金額を支払うって事でどうかしら?」

『えっ?そんなにいいの?大丈夫?』


「モデルは高くても数万円っていうのが現状だからね、広告もしてくれてって事ならそこそこは出せるわ、もちろん会社のSNSでもその動画のURLは拡散するからそこそこの金額にはなるはずよ。」


「それに待ってる間にゆかちゃんのYotubeのチャンネル見てきたけど既に一万人行ってるじゃない?凄いお宝発掘した気分よアタシは」

「えっ?」

『えっ?』

 一万人突破?

 どういう事?

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