第96話
十夜と万里の二人は人の気配が無いか、そして本日の寝床になりそうな家屋を探している時だった。
「いやいやいや永城さんや、やっぱり女性に求めるのはボンキュッボンの効果音が似合う方がいいんですよ!?」
「カカッ! 笑止ですな十夜殿!
と、割りとどうでもいい討論を繰り広げていた。
折角の男同士の話題から始まった好みのタイプについての討論はどこまでも平行線だ。
因みにだが、この会話は蓮花達と別れてから十分以上も続いている。
「むぅ、困りましたな」
「あぁ、ここは
二人が拳を鳴らす。
互いに睨み合い距離を取る。
もう一度だけ言うが、本当にくだらない討論だ。
だが、
「行くぞ!」
「いつでも!」
二人が近付き互いに拳を振り上げ―――――。
「じゃん!」
「けん!!」
「「ポンッッッ!!!」」
グーとグーを突き出しあいこになる。
「あい!」
「こで!!」
もう一度互いに拳を振り上げる。
そして二回目のじゃんけんを始めようとし、
ピュィィィィィィィッッッッッ!!
アリスが飛ばした〝
警笛は何か異変があれば鳴るようになっている。
十夜と万里の二人はすぐさま臨戦態勢を取った。
「―――――」
一気に緊張感が増す。
アリスの使い魔が知らせてくれたのは生存者なのか、または敵なのか、もしくはあちらで何かあったのだろうか?
そう、考えていると――――――――――。
「こんばんは。今日は
声が、した。
二人が振り返る。
そこには一人の青年がいた。
ファンタジーらしく白を基調とした
だが、その笑みは何処か寄り添う優しい笑みではなく人を見下した卑下た笑みにしか見えなかった。
こちらの事情などお構いなしの自己中心的な狂った笑い。
凡そ聖職者とは思えない気持ち悪い男、それが十夜の正直な感想だった。
「誰だ、アンタ?」
敵対心を剥き出しにした十夜が静かに構える。
そんな十夜の様子を不思議そうに見る男は軽く首を傾げる。
「あれ? 俺の事、知らないのかな?」
「不思議な事を言いますな。拙僧らはお主のような御仁とはお会いした事はありませんぞ?」
万里も突然の来訪者に油断なく構えを解く事はない。
それほど目の前にいる〝異物〟に肩が強張っているのが自分でも分かった。
そんな緊張している二人に対し目の前の〝
「ははっ、そう言った意味じゃないんだけどね。―――――そうだな、じゃあ簡単に説明しようかな」
男は二つの月が浮かぶ夜空を背景に優雅に深々と頭を下げる。
「初めまして。俺は『
『聖光教会』―――――この『グランセフィーロ』において謎に包まれていた四大勢力の一つ。
そして、
「―――――その『聖光教会』が俺らに何か用か?」
その態度にハインベルクは訝しげに眉を顰める。
「おかしいな、大体のヤツは『聖光教会』の名前を出せば頭を下げて地面に這いつくばるのに」
ハインベルクは自分のこめかみを指でトントンと叩き十夜達を見据え、
「ま、とりあえず頭が高いから地面に這いつくばって」
一瞬だった。
男の声を聴いた瞬間に十夜、万里の二人は膝をつき額を地面に擦り付けるように地面に頭を叩き付けていた。
「がッ!?」
「ぬッ!?」
まるで上から重力がかかり押し潰されそうになる。
指一本すら動かす事も出来なかった。
「全く、俺の手を煩わせないでくれよ」
ハインベルクは前髪をかき上げながらため息をつく。
そしてうんざりとした様子でもう一度地面に這いつくばる二人を見下ろし口を開いた。
「まぁ俺も暇じゃないんで今のは不問にするけど、我ら『聖光教会』は二つの任務でこんな辺境の地へ来てやったんだ。君達は質問にだけ答えろ」
どこまでもその冷徹な目を向けられている十夜は歯を食い縛る。
この妙な力が『
「(何なんだこりゃ―――――マジで動かねぇッ!)」
まるで上から何者かが抑えに掛かっているようなそんな感覚に十夜は陥っていた。
『悪食の洞』や『黒縄操腕』を呼び出そうにも段階を踏まなければこれらは呼び出しに応じない。
今まさに手も足も出ないのだ。
「(十夜殿ッ―――――上を見てみなされ!)」
万里が小声で何か言っている。
上? そう思い唯一動かせる視線を自分の背後を集中して見てみる。
そこには――――――。
「な、んだ―――――コイツら」
目に入ったのは純白。
ただし目の前の
そして、
十夜と万里を取り抑えるかのように十体ほどの純白の鎧達が飛び交っていたのだ。
「(さっきまでこんなヤツらなんて居なかった。でも現にこうして見えてるって事は――――――)」
恐らく視える人間は限定されるのだろうが、この純白の鎧達は十夜風に言えば〝あっち側の存在〟と言う事なのだろう。
その証拠に目の前の鎧達からは生きている者の気配は一切ない。
「さて、君達に質問だ―――――新生宗教団体『ファウスト教団』なるものを知っているかい?」
「ファウスト、教団?」
聞き慣れない単語に十夜は首を捻ろうとし動かない事を思い出す。
だがこの世界に来てから色々な人物や種族、魔物や勢力などと戦い続けてきたが『聖光教会』や『ファウスト教団』などと言った単語は聞き覚えが無い。
なので十夜の答えは一つしかない。
「知らがッッッ!?」
純白の鎧に抑えられ最後まで言えず口の中に砂利が入り込んだ。
「今喋っているのは俺なんだ。勝手な発言は神への冒涜と捉えるが?」
「い、
理不尽極まりないが今不思議な力で押さえられている十夜には今の動けないこの状況は屈辱以外の何物でもない。
「ではもう一度聞くぞ? 君達は『ファウスト教団』と言う名に心当たりは?」
ハインベルクは静かに訊ねる。
今度は無言で万里が首を横に振る。
その対応にため息をつき腕を組みもう一度、今度は違う質問を万里に向ける。
「そうか、では次の質問だ―――――最近この辺りに『迷い人』がいるような報告を受けているんだが? 君達に心当たりはあるのか?」
『迷い人』を探している?
それが自分達の事、自然とそう二人は思っていた。
しかし、
「何、この辺りには
テスカトリポカ―――――それがつい先ほど戦ったあの魔物の名前とは分からなかったが、それでもハインベルクの様子からそれが伝わった。
しかし、ここにきて初めて聞く事実もあった。
「(二体? あんなのがもう一体いるのかよ!?)」
ここに来て余計な問題が浮上したが、その心配は杞憂に終わった。
「まぁ昨日とつい数刻ほど前の二度に渡ってその魔物が二体とも討伐されたのは確認が出来たが」
どうやらあの黒い霧の魔物は蓮花と万里の強力な技で斃していたらしく一安心した。
安心したのだが、一体が自分達が斃したと仮定し、もう一体は誰が斃したのだろうか?
「もう一度聞くぞ?」
ハインベルクは冷徹な眼を二人へと向ける。
その眼には殺気が含まれており二人を突き刺すように向けられる。
「この『ラムド平原』に数日前からいると噂されている『迷い人』―――――この近辺の者達は〝剣聖〟と呼んでいるらしいが、そいつは何処にいる? 答えなければ神の鉄槌が降ると知れ」
ハインベルク・ツァッカーノの声には本気で二人を殺すつもりだというのが十分に伝わった。
割りと冗談ではない状況に十夜と万里の二人の額には一筋の汗が流れ落ちた。
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