第88話 賑やかな人間関係
滅竜魔闘女子の部の予選も進み、ついに最終ブロックが始まった。
「こちらにいらしたのですね、スタンフォード殿下」
「予選お疲れ様、セタリア。本戦出場おめでとう」
「ありがとうございます」
アロエラに続き、服装を整えたセタリアも観客席へとやってくる。
「あら、もしかしてそちらのお嬢さんはフォルニア様ですか」
「はじめましてセタリア様! レベリオン王国第一王女フォルニア・シンバ・レベリオンと申します!」
今まで面識のなかったセタリアに対して、フォルニアは立ち上がって丁寧に挨拶をする。
そのやり取りを不思議がったブレイブが口を挟む。
「ニアとセタリアって面識なかったのか?」
「バカね。あるわけないでしょ。兄妹ですら隔離されてたってのに、婚約者とまともに会えるわけないじゃない」
ブレイブの疑問に対してアロエラは呆れたようにため息をついた。
いくら血が繋がっていないとはいえ、ブレイブはドラゴニル辺境伯の元で育ったのに貴族に疎すぎる。
スタンフォードも妹のミモザを少しは見習ってほしいと呆れていた。
「あなたがセタリア様ですね!」
「えっと、あなたは?」
「ミモザ・ドラゴニルです! 兄がいつもお世話になっています!」
「なあ、ボーア。さっきの破壊魔法すごかったな!」
「いやぁ、それほどでも……そっちだって火炎魔法の名門ボーギャック家の嫡男じゃない。噂は聞いてるわよ。今度手合わせしたいくらい」
「おっ、そいつはいいな!」
観客席に集まった者達はそれぞれ今まであまり話したことのない相手と話し始める。
「何だか賑やかになってきたな」
そんな周囲の様子を見たフォルニアはスタンフォードに楽し気に笑いかけた。
「スタン兄様の周りにはすごい方がたくさんおられるのですね」
フォルニアの何気なく零した一言に、スタンフォードはつい自分の周りを見渡した。
ブレイブ、セタリア、ジャッチ、ガーデル、アロエラ、ミモザ、この場にはいないコメリナ、ステイシー、マーガレット、ルーファス、そしてポンデローザ。
「そうだな……本当に僕は恵まれている」
気がつけばスタンフォードの周りには多くの人間が集まるようになっていた。
前世でも優しく接してくれる人は大勢いた。
それを勝手な被害妄想で拒絶していたのは他ならぬ自分自身だった。
いかに自分が自己中心的で周りを見ようともしていなかったか。
それをスタンフォードは改めて痛感し、これからこの友人達を大切にしていこうと心に決めた。
「さて、次はステイシーの番か……」
個人的には一番気になっている試合を目の前にして、スタンフォードは張り詰めた表情を浮かべていた。
「ステイシーなら余裕だろ! 休暇中だって竜人を撃破したって聞いたぜ」
「いや、彼女が竜人を撃破したのはいろいろな偶然に助けられた結果ですぞ。そうですな、スタンフォード殿下?」
「ああ、それは否定しないよ」
ジャッチの言葉を否定したガーデルの意見をスタンフォードも肯定する。
「リオネス――いや、毒竜ヒュドラを倒せたのはステイシーが千年樹の加護で攻撃を受け付けない状態にあったこととヒュドラの弱体化があったからだ。ポンデローザ様の補助もあった。いくらあのルーファス様に鍛えてもらったからといって、彼女の魔導士としての適性が低いことに変わりはないからね」
スタンフォードから見たステイシーの評価は、魔導士としての才能に恵まれなかったが、本人の努力と工夫でそれを補ってよくやっているというものだった。
才能に胡坐をかいている者にはまず負けないだろうが、勤勉な天才には敵わないだろう。
「んだよ。友達なんだから応援してやれよ」
「してるさ。評価と友情は別だろ。それに、信じる心もね」
それでもスタンフォードは信じていた。
ステイシーがイレギュラーを起こして盤面をひっくり返す力を持っている、と。
「ま、予選くらいなら突破してくれるよ。セタリアとアロエラがおかしいだけで、本来予選は大勢の魔導士による大乱闘だからね」
「スタン兄様。何故、大乱闘だとステイシー様が勝ち上れるのですか?」
「簡単なことだよ」
スタンフォードは久しぶりに自信満々の笑顔を浮かべて答えた。
「僕の知る限り、ステイシー・ルドエほど〝耐える〟ことに長けた魔導士はいないからね」
その笑顔はかつて自分の力に自惚れていたときよりも自信に満ち溢れていた。
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