第66話 レべリオン創世記(真)
話に一区切りついたところでしばらく呆然としていたステイシーが口を開いた。
「あ、あのー……ムジーナ様はニール様とどのように出会ったのでしょうか?」
ステイシーは興味津々といった様子でムジーナに初代国王ニールとの馴れ初めを尋ねた。
ステイシーは大の歴史好きである。
歴史に記されていないことを当時の人間から聞けるとなれば、好奇心を押さえることは不可能であった。
『最初に出会ったのはこの場所よ。当時あたしは世界樹ユグドラシルを祭る巫女の一人でね。荒くれ者の集団〝クリエニーラ族〟に浚われて、蛮族共のアジトに連れ去られた』
「それでその危機を救ってくださったのが、初代国王ニール様だったのでしょうか!」
『いいえ、その蛮族の頭領がニール――本名はクリエニール。男達の慰みものにされそうになっているあたしを気に入ってくれてね。パートナーになったの』
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
さすがにこれにはスタンフォードもステイシーと一緒に叫ばざるを得なかった。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうしてそこからレベリオン王国建国に繋がるんですか!」
『いろいろあったのよ』
「いやいやいや! いろいろで片付けちゃダメでしょ! 教えてくださいよ!」
重要な部分を全て端折ろうとするムジーナに、さすがのスタンフォードも詳しい説明を求めた。
『どこから話したものかしら……』
顎に手を当てて悩ましげな表情を浮かべる。
それから静かに建国までの経緯を話始めた。
『元々ニールは国から迫害されたりして居場所を失った人達をかき集めて集落を築いていたの。それで豊かな土地を求めて世界樹の根元の集落に目を付けた』
「えぇ……」
完全に侵略者じゃないか。
自分の先祖に抱いていた誇り高い戦士のイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのをスタンフォードは感じた。
『でも、世界樹を祭る巫女の一人は世界樹から実を与えられ、光魔法という超常の力を持っていた。だから何の力も持たない妹のあたしを人質として狙ったの』
「ストーップ! えっ、あなた初代世界樹の巫女の妹なんですか!?」
さすがに情報が渋滞してきたため、スタンフォードは一旦ムジーナの言葉を遮った。
ステイシーに至っては、混乱のあまり固まったままである。
『血が繋がってるってだけよ。はっ、あんな奴、もう姉だとは思ってないわ』
「一体何が……」
『そこはレベリオン王国建国に関して重要じゃないからいいのよ』
吐き捨てるようにそう告げると、ムジーナは再び語り出す。
『浚われたあたしは運が良くてね。世界樹の実の片割れを持っていた』
「片割れ?」
『ええ、世界樹の実はチェリーの実とよく似ていて一房に二つの実がついてるの。おね――ラクリアはその片方を食べて、もう片方は祭壇に祭っていた。それをチェリーの実とすり替えてくすねたのよ』
「言っちゃ悪いけどあんた本当に巫女かよ」
ニールも大概だが、ムジーナもなかなかに酷いことをしている事実に、スタンフォードは頭が痛くなった。
『集落の外でこっそり食べようと思ってたらクリエニーラの連中に浚われちゃって、下っ端連中に犯されそうになっているとこでニールが現れてね。必死に命乞いしたわ。集落の連中はどうなってもいい、あたしだけは助けてってね』
「うわぁ……」
前世で流行ったくっ殺せという有名なミームとは真逆の状況に、スタンフォードは引いていた。
『それで世界樹の実をニールに渡したの。実を食べたニールは雷魔法を発現させた。あたしは彼を腕の立つ流浪の戦士として集落に連れ帰って、世界樹の土地を狙う集団を落としてていったの。ニールの雷魔法のことはラクリアと同じように世界樹から恩恵を授かったってごまかしてね。集落の連中はバカばっかりだったからちょろかったわ』
「何だろう。知れて良かったような、知りたくなかったような……」
レベリオン王国の成り立ちが蛮族による乗っ取りだったことを知ったスタンフォードは複雑そうな表情を浮かべた。
『ちなみに、世界樹の実の種はアジトのすぐ近くに埋めて育てたわ。土地が良かったこともあって世界樹はすぐに実をつけたわ。あたしを含めて何人かが実を食べて、魔法を発現させて、原初の魔道士が生まれたの』
「おいおいおい、それじゃあ、ルドエ領の千年樹って……」
『第二の世界樹ってことになるわね。ルドエ領も元々はクリエニーラ族のアジトがあった土地ね』
世界的に重要な位置づけにあると予想していたとはいえ、まさかそこまで重要な土地だとは思っていなかったスタンフォードは息を呑んだ。
ステイシーに至っては、もはや頭から煙が出そうなくらいに混乱している始末である。
「それじゃこの木にも世界樹の実が?」
『残念だけど、実は初代守護者が食べた分しか稔らなかったし、それ以降は木の繁殖もできなかったわ』
もっと稔ってくれれば楽だったんだけどね、と残念そうに呟くとムジーナは続ける。
『この木に残っているのは根を張ったルドエ領を守る機能だけ。ま、それがあるおかげでこの土地にはミドガルズオルムも手を出せないんだけどね。あいつは元々世界樹を守るための存在だったし』
「だからさらっと重要な情報を出さないでくださいよ」
再び出てきた新事実にスタンフォードは完全に項垂れる。
そろそろ情報が渋滞するどころか、交通事故が起きそうな勢いである。
『事実なんだから仕方ないでしょ? ミドガルズオルムも元々は共にレベリオン王国を守っていた存在なのよ。あいつはあたし達を裏切ってミドガルズ王国を作り上げて攻撃してきたから返り討ちにした。それだけのことよ』
吐き捨てるようにそう言うと、ムジーナの体が薄れ始める。
『どうやら魔力の限界みたいね』
「そんな……もっと情報を……!」
まだ自分の知らない重要な情報がある。
そう感じたスタンフォードは、懇願するようにムジーナに縋り付いたが、彼女は寂しそうに首を振った。
『最後にこれだけは言っておくわ』
そして、スタンフォードを真っ直ぐに見据えて告げる。
『あのポンコツ娘をよろしくね……』
最後にそれだけ告げてムジーナの思念体は完全に消えてしまうのであった。
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