第59話 大きな実力差

 牧歌的な風景の中。

 のどかな雰囲気に似つかわしくない激しい剣戟の音が響き渡る。


「オラオラァ! ライザルクやった実力はそんなもんか!?」


「かはっ……!?」

「ぐっ……!」

「けほっ……!」


 ルーファスは高速で動き回るスタンフォードとブレイブの攻撃を二振りの剣でいとも容易く防ぎ、ステイシーの硬化すらも剣を一振りしただけで破る。

 魔法を一切使用していないのにこの実力差である。

 ボロボロになって地に伏せる三人に対し、ルーファスは汗一つかいていない。もしも、ルーファスがライザルクと対峙していたらルーファスは無傷とまではいかなくとも、単独撃破していたことは間違いないだろう。


「俺様相手によく善戦した方だな。個々の能力は高ぇが、連携がまるでなっちゃいねぇ。バラバラな動きするお前らにスタ坊が合わせて動いてるせいで、全員の尖った部分が活かせてねぇんだよ」


 一通り言いたいことを言うと、ルーファスは剣を鞘に納めた。


「ま、長期休暇が終わる前に俺様から一本取るくらいにはなってくれよ」


 去り際に告げられた言葉にスタンフォード達は歯噛みする。

 見せつけられた圧倒的な実力差。

 これを埋められなければ、今後発生するであろう戦いに着いていくことはできない。


「もっと強くならなきゃ……!」

「ああ、そうだな!」

「わ、私も頑張ります!」


 決意を新たに三人が体を起こすと、マーガレットがすぐさま治癒魔法をかけてくる。


「みんなお疲れ様。治癒魔法かけるね」

「ありがとうございます、ラクーナ先輩」

「私はこれくらいしかできないから。ああ、そうだ。体力や魔力とかは回復できないから、そこは注意してね」


 眩い光が三人を包み込み、体中の傷を癒していく。

 三人の治療が終わるのと同時に、ポンデローザがやってきた。


「さて、次はわたくしの番ですわね」


 体中から冷気を発しているポンデローザは、既に扇子を開いて臨戦態勢に入っていた。


「わたくし、ライザルクに敗北してから腕を磨いていましたの」

「お、お手柔らかに……」


 スタンフォードは顔を引き攣らせると、ブレイブ、ステイシーと共にポンデローザへと挑む。

 ポンデローザの魔法は氷。電熱や光ならば有利に戦えるはずだ。

 そう考えてスタンフォードとブレイブは最初から全力で魔法を放出させる。


「弱点をそのままにしておくとでも?」


 ニヤリと笑うと、ポンデローザは扇子を閉じて狙いを定めて氷魔法を発動させた。


「なっ」

「えっ」


 スタンフォードとブレイブは剣が腕ごと凍り付いたことに目を見開く。


「範囲を絞り、魔力を集中させればわたくしは炎をも凍らせることができますわ」


 ポンデローザは自由に氷の彫像を作り出して攻撃することを基本としてきた。

 しかし、ライザルク戦での敗北から自分の魔法運用が感覚に基づいた雑なものだと痛感することになった。

 そこで基礎に立ち返ることにして、少ない魔力を効率よく運用しているステイシーに目を付けたのだ。


「いい見本をありがとうございます、ルドエさん」

「へ? ……きゃあ!?」


 隙が出来てしまったスタンフォードとブレイブを庇うように前に出たステイシーは一瞬にして凍らされ身動きが取れなくなってしまう。

 そのまま大量に氷の彫像を作られてしまい、ポンデローザに攻撃が届くことはなく鍛錬は終了した。


 結果、全員まとめて首から下を氷漬けにされて身動きが取れなくなるという惨敗に終わるのであった。

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