私の恋人

 素晴らしい夢を見た。

 てんちゃんが出てきた。

 素晴らしい夢だった。



※※※※※※



「瑞樹。今日はとうとうこの日だね」

「うん」


 てんちゃんの部屋で、そういう会話をした。

 まさか私も。こんな日がくるだなんてって感じだ。

 未だに夢のようだと感じている。


「……結婚式だね。今日は」


 しみじみと、そう溢した。


 結婚式なのだ。

 だけれど、ここは日本。

 つまり、そういうことだった。


 階段を降りて、両親に顔を出す。

 父さんと母さんが、リビングでお茶を飲んでいた。


「おはよう。父さん、母さん」


 偉いから。私は挨拶をした。

 いや、普通だと思うけど。


「あぁ。おはよう、瑞樹。それに楓も」

「おはよう、お父さん」


 てんちゃんもぺこり。


 多分、私たちはいい家族になれたかな。



※※※※※※



 そういう夢だった。

 唯一、嫌だった点は、それ以降がなかったということ。

 バージンロードを歩くところまで、見たかったと。

 もう少し寝とけば見れたのかなと、ちょっとだけ後悔。


 覚醒した頭をくるくる回す。

 てんちゃんは、横で寝ていた。

 ぐーすかぐーすか。

 可愛い可愛い。


 そしてふと、昨日のことを思い出した。

 橋の上で告白をしてきた、てんちゃんのこと。

 と言うより、昨日の思い出というのは、それ以外にほとんどない。

 あんなに。必死に、顔を沸騰しそうなくらい紅潮させて。

 てんちゃんが、思いを爆発させた感じだった。

 とりあえず、昨日は全てが素晴らしかった。

 これ以上に、素晴らしい日は今後ないかもと思えるくらい。


 ……あ。寝る前の、キスもすごかった。

 恋人同士になった初日に、あんなにできていいものだろうか。

 実際、そんなことがあったから別にいいのかな。


 安らかな寝息を立てているてんちゃんに、目を落とす。

 ……こんな可愛い人が恋人になってくれただなんて。

 なんか信じられない。

 と、思っていたらもぞもぞと動き出す。

 ……目線で起こしてしまったようだ。


 寝ぼけ目をこすりながら、体を起こし、こっちを見た。


「あ。おはよう」

「んぁ。おはよう……お姉ちゃん」


 あれ?

 昨日はずっと、瑞樹と呼んでいたはずだけど。

 どうやら、そのことを忘れたようだ。

 というか、付き合ったことを覚えているのだろうか。

 寝起きで、まだ思考が追いついてないだけだろうけど。


 そんなことを思考していたら、てんちゃんが先の言葉を否定するように首をブルンブルンと振った。


「じゃなくて。瑞樹!」

「うんうん」


 それそれ。

 昨日その名前を聞きすぎて、『お姉ちゃん』より、こっちの方がしっくりきてしまった。


「あ。待って。まだ、これやってないよ」


 そういうことを、唐突に思い出す。

 私の頭は、朝からグルグルと動いていた。


「楓。これからもよろしくね」


 ただの挨拶だった。

 だけど、恋人同士になって、初めての挨拶だった。

 ここが、私たちの始まりでもあるのかもしれない。

 だから大事に、丁寧に、よろしくねと私は言う。


「うん。よろしくね! 瑞樹!」


 寝ぼけをすっ飛ばすように、はじけるように、快活に。

 楓は、頭を下げてそう返した。


 四月。

 楓が、家に来たあの日。

 その日のことを思い出す。

 この数ヶ月で、かなりの事が変わってしまった。

 楓と再会して、一緒に過ごすようになって。

 そして今、付き合って。

 私たちが再会したのは、運命だったのかもしれない。


 だから、運命って、素晴らしい。

 何も分からない。

 けれど、素晴らしいということは知っていた。


 楓が笑顔を私に向ける。

 その笑顔を見るだけで、頬がだらしなく緩んでしまう。

 私の恋人は、誰よりも可愛い。

 それを誰よりも、私は知っていた。


 私の中の、恋という花が満開に咲く。

 そういう音がした。



 〜了〜





【あとがき】

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

たくさんの読者様に恵まれて、幸せです!

それでは、またどこかでお会いしましょう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義姉妹百合恋愛 沢谷 暖日 @atataka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ