放課後

 放課後の教室。

 オレンジ色の太陽が部屋に差し込む。

 私は机にダラーっと突っ伏していた。


 昨日は普通に寝て、今日は普通に起きて。

 普通に学校に行って。

 普通に授業を受けていたのだけど。


 疲れた。

 疲れすぎた。

 というよりも退屈だった。

 50分間ずっと座っとくっていうのは、体がどうにかなりそうだ。


 一番嫌だったのは英語の時間。

 隣の席の人と、英語で会話させられたやつ。

 あれはすごく緊張した。

 てんちゃんも緊張していたっぽいし。

 なぜ学校というものは人と関わらせたがるのだろう。

 それに関しては理解に苦しむ。

 超苦しむ。


 あと給食で机をくっつけなければいけない謎の文化。

 だけど、小声でてんちゃんが話しかけてくれたから、そこまで嫌ではなかった。


 そしてそのてんちゃんは今。

 ……私と同じように、机に身を倒している。


「てんちゃん? 大丈夫?」


 私はむくりと体を起こし、呼びかける。


「生きてますー」


 てんちゃんは突っ伏したまま、曇った声でそう答える。


「体勢が死んだままでそう言われても……。それで、どうしたの?」


 問うと、てんちゃんはバッと顔を上げてこちらを振り向いた。

 その表情はどこか悲痛を浮かべていた。


「誰も話しかけてこない! 転校生なのに!」


 あーなるほど。

 もっと大したこと言ってくると思ったら、可愛い悩みだった。


「いいじゃん。私がいるし。というか、私が女子と話したら嫉妬するのに、てんちゃんはは話しかけられたいんだ。へーそうですか」


「違う! というか今日、お姉ちゃんが藤崎って人に話しかけられた時、見逃してあげたじゃん!」

「見てたの? たしか、その時トイレじゃなかった?」

「覗いてたんですぅー!」


 てんちゃんはなにをやっているのだろうか。

 そして謎に威張り気味なのが気になる。

 と思えば急に落ち着きを取り戻した顔で、


「……まぁ、いいけどさ。話しても。恋心とか抱かなければ」


 悲しげにそう言う。


 やっぱり。

 てんちゃんは、どこか私と藤崎さんについて誤解している節がある。

 何も無いのに。

 というか、会って二日目だ。

 そんなことあるわけない。

 私は話しかけられているからであって、てんちゃんと話したい気持ちの方が大きいのだ。

 というか、そっちの気持ちしかない。


「本当にそういうのは無いよ。私も藤崎さんも」


 てんちゃんが「ふーん」と返事した。

 その直後だった。


「私のこと呼んだ?」


 突然、教室の後ろの方から声が飛んできた。

 その声に釣られるように顔を向ければ、そこには教室の入口に立っている藤崎さんがいた。

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