てんちゃんは少し不機嫌?

 あの後、先生のなんかの話とか、放送で校長のありがたいような気がする話を聞いて、現在は10時30分。

 もう下校の時間らしい。

 今さっき、さようならの挨拶が終わった。


 始業式だから今日は早めに終わったらしい。

 午後まであると思っていたので、こんな時間に終わるのは嬉しい。


 だけど。

 久しぶりに学校きてみて思ったけど、先生の話を聞くだけでもなんか辛い。というかしんどい。

 ずっとてんちゃんの後ろ姿を眺めてたから、なんとか気を紛らわせたけど。


「瑞樹さん。今からどうするの? 学校の中、案内しよっかー?」


 後ろから声が飛んでくる。

 その声に、私の前に静かに座っているてんちゃんの肩が、ピクっと揺れた気がした。

 首だけを声のする方へと向ける。


「えっと。私は楓がいるから、大丈夫です」

「あ。そっか。おっけー! じゃあ、私、部活いくね」

「あ。はい。さようなら」

「ばいばーい」


 教室から駆け足に去っていった。

 それを目で送って、私はずっと黙り込んでいるてんちゃんに話しかけてみる。


「か、楓。今日はどうしたの?」

「……人の心ってなんなんでしょうね」


 てんちゃんは前を向いたまま、ポツリとそう呟くように言い放つ。


「え、宗教?」

「違う! 今の女の子は誰ってこと!」


 と思いきや、今度は急にこっちをパッと振り向いて勢いよくそう言ってきた。

 あれ。「人の心」と今のなんか繋がりあったかな、とかなりの困惑を抱きつつ答える。


「いや、案内してくれた人だよ」

「ぜっったい、うそ! 仲良さそうだったもん!」


「ちょっと、つば飛んでる……。というか、やっぱり嫉妬だったんだ」

「嫉妬じゃない! だってお姉ちゃん、私と一緒に学校にいたいーみたいなこと言ってたじゃん。嘘つきだなーって思っただけですけど!」


 ……一緒にいれる時間、今まであったかな。

 てんちゃんは母さんについていってたし、関われる時間すら無かったような気がしなくもない。いや、無かった。断言できる。


 だけどてんちゃんも、私と一緒にいたいって思っているってことだよね。

 そんなに感情を表に出して。

 好きを隠す気が皆無なのかな。って思って少し微笑んでしまう。


「なに笑ってるの!」

「……安心したから、かな」

「なにが!」

「私のことが本当に好きって分かったから」


「……。……そう? んー。……両片想いでいようって言ったの私だしね。ちゃんと、好きだよ。……他の女と仲良さそうだったのはいただけないけど」


 少しもじもじしてる。

 今までの激昂てんちゃんは何処へ。

 切り替えが早すぎる。

 でも、可愛い。すっごく可愛い。


 そんな可愛いてんちゃんを見てると、私も理性が抑えられなくなる。

 これを言ってもいいのかなと心配する暇もなく、私は言葉に出していた。


「うん。……ねぇ。……ハグしたくなってきた。ハグしよ」

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