てんちゃんの挨拶
私が教室に入ると、少しざわついた。
ちらちらと見られているのをなんとなく分かる。
……見ないで欲しい。なぜだか胃がきゅーって引き締まってしまう。
私の長すぎる髪のせいで、見られているのだと思うけど。
多分、私くらい髪の毛が長い人ってこの学校にいないんじゃないかな。
散髪屋には怖くて行けないので、自分で前髪と横髪を切っていたら、もうこんな長さである。
てんちゃんに切ってもらおうかな。なんて思いつつ、私は自分の席へと向かった。
……左から二番目の前から二番目。
前の席はてんちゃんで、後ろの席は藤崎さんだ。
その場所に、私は周りの視線を気にしつつもちょこんと座った。
「ねぇねぇ。さっき、瑞樹さんの妹、ちょっとご機嫌斜めじゃなかった?」
私が座ってから束の間。
肩をトントンと叩いて、藤崎さんは問うてくる。
「……緊張しているんじゃないですか?」
適当な返事をする。
……おそらくだけど。
あれは、てんちゃんは嫉妬していたんだと思う。
違ったらあの態度は本当に何なんだって感じ。
嫉妬だとしたら、ちょっと嬉しいけど、ちょっと不安だ。
てんちゃんは本当に私のことが好きって認識できたのと同時に、てんちゃんに嫌われたかもしれないからだ。
……嫉妬するも何も、私は藤崎さんに学校案内を頼んでいただけなのに。
「よかったー。嫌われたのかもしれないと思ったー」
「あ。はい。そうですね」
鵜呑みにしたっぽい。
なんか単純な人かも。
なんて思っていたら、教室のドアがガラガラと少し大きめの音を立て、目をやると、さっきのおばさん先生が教室に入ってきていた。
このクラスの担任なのだろう。
途端に散り散りになっていたクラスの人たちが、慌てるように席に着く。
「では、朝礼を始めたいと思います」
そう切り出して。
「まずは、転校生の紹介ですね!」
いや、いきなりかよ。
……なぜか何人かの生徒が、私のことを見ているのが気になる。
私、転校生じゃないんですけど。
「じゃあ。入ってきてください」
その言葉に、「はい」と廊下で声が聞こえて、てんちゃんが教室に入ってきた。
どこか体はカチコチしていて、やっぱり緊張しているようだった。
先生の横に立ち、ピシッと背筋を伸ばす。
「じゃあ。自己紹介、お願いできる?」
「は、はい!」
「て、てんかわ──あ! 姫川楓です!」
間違えてる。
可愛い。
あたふたしてる。
さらに可愛い。
恥ずかしそうに下を向いてる。
さらにさらに可愛い。
「え、えっと。親のいろいろな都合で、このあたりに引っ越してきました! これからよろしくお願いします!」
拍手がぱちぱちと巻き起こる。
だが、それと同時に、
どこからか「可愛い」と聞こえてくる。
それは女子の声だった。
拍手に混じったその声は聞こえにくかったけど、たしかにそう聞こえた。
んー……不安だ。
てんちゃん、色んな人にに狙われそう。
やっぱり可愛いもん。
てんちゃんは顔を紅潮させながら、てくてくと私の前の席に座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます