駅へ向かう

 家を出て、駅に向かう道中。

 お姉ちゃんは、当然かのように私と手を繋ぐ。


「お姉ちゃん? 今日は前みたいに暗く無いよ?」

「まぁまぁてんちゃん。今日は交流会なんでしょ? 仲良くしないと」

「そういうもん?」

「うんうん。そういうもん」


 そう言って指と指の間に、お姉ちゃんの指が絡まる。

 この繋ぎ方、どうも仲よすぎな人がやるイメージがあるんだけどな。

 手汗もかくし、お姉ちゃんに迷惑がかかってないのか、少し心配。

 まぁ、お姉ちゃんの頰、だらしなく緩んでいるから、大丈夫かなと安心する。


「ねね。お姉ちゃん。水族館って魚以外になんかあるっけ? 私、昔そこの水族館行ったことあるけど、完全に記憶が無くて」


 少しくらいは覚えていてもいいかもしれないけど、行ったという事実以外は本当に覚えていない。

 私って忘れっぽいのかもしれない。

 お姉ちゃんのことを、あんだけ覚えてた私は多分すごい。

 と勝手に自分を褒めていたら、お姉ちゃんが答える。


「どうだろう。あまり行ったことないから分からないけど、田舎の水族館だし、大したものは無さそう」

「ふーん。あ! イルカショーとかあるかな? あったらいいな〜」

「ふふ。てんちゃん、子どもっぽくて可愛い」


 ……。

 お姉ちゃん、何かあったらとりあえず可愛いって言ってないか。

 最初は恥ずかしかったのに、だんだんなんとも思わなくなっているような。

 いや、嬉しくはあるけど。


 確かに、イルカショーを望むのは小学生っぽいかもしれないけど、私って小学生と約2歳差だぞ。

 大して差があるわけでもないし、ショーを望んでも自然だろう。


「私は子どもだけど」

「そ、そうだね。でも、可愛い」

「……お姉ちゃん。お姉ちゃんっていつの間にか、私に可愛いって言いたいだけの生物と化してない?」

「……! そんなに。可愛いって言ってる?」


 あれ。無自覚なの。

 なんか、もじもじしてるし、本当に自覚なしだったっぽい。

 お姉ちゃんの手汗で、どんどん手がベタベタになっていくのを感じる。


「……言ってるよ。それはもうたくさん」

「き、気づかなかった。ま、まぁしょうがないよね、てんちゃん可愛いし」

「しょうがあるよ! ちょっと恥ずかしいの!」

「照れ臭いってこと?」


 お姉ちゃんが、私の顔を覗いてくる。


「んー、まぁ。そういうことかな」

「じゃあ、もっと言う。可愛い可愛い可愛い可愛い」


 お姉ちゃんは、別に思ってなさそうな顔で可愛いを連呼した。


「うわぁ。可愛いのゲシュタルト崩壊だよ」

「ごめんごめん。本当に可愛いよ。……あ。もう、駅だね」

「おぉ。20分くらいで着いた、早い早い。じゃあ。いこー」


 少し駆け足で、駅の中へと入る。

 そこそこ田舎の駅なので、人はあまりいない。

 というか、ほとんどいなかった。

 

 切符を買う時、手を離してしまったので、お姉ちゃんは少し膨れ顔だった。


 ……お姉ちゃんも、子どもっぽくて可愛いな。

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