いざゲーム

「てんちゃん。ご飯食べたよ」

「おぉ。お姉ちゃん食べるの早い。十分も経ってないけど」

「……ん。早く遊びたかったし」

「んぁ。そ、そうっすか」

「そうっす」


 お姉ちゃんは、こんなにも私と遊びたかったのか。

 それはいいことですね、そうですね。


「じゃあ。何する? 何のゲームがある?」

「……えっと。格闘とか色々、この棚にある」


 そう言って指したのは、テレビ横にある棚。

 てくてくと近づいて、棚の中を確認する。


 中には大量のゲームソフトがあった。

 プレスタのソフトだけでは無く、その他諸々。

 ……お姉ちゃんはかなりのゲーマーのようだ。

 かなり金がかかってそうだけど。


「いっぱいだね。お父さんが買ってくれるの?」

「自分で買いに行ってる」

「へ〜、お小遣い結構もらってるんだね」

「いや、私の金」


 ん?

 あ、じゃあお年玉をかなり貰っているのだろう。

 と勝手に心の中で納得する。


「それで、気になったゲームはある?」


 「じゃあ」と呟きながら、私は目をつけた一つのソフトを取り出す。


「これ! レースゲーム!」

「なかなかなチョイス」

「このプレスタの画質でレースゲームをしてみたいのです!」



※※※※※※



「おぉ! 起動した! 起動したよお姉ちゃん! なんだこのコントローラーの振動! 起動しただけなのに、謎の振動をしている! しかも、めっちゃ画質いい!」


 すごい! すごい!

 これは、なんか感動がある!

 あまりにも感動しすぎて、語彙力が欠損してしまう。


「てんちゃん騒ぎすぎ。それはそうと、ほら車選択して」

「いや、車もめっちゃリアルやん! リアルよりリアルやん!」


 と自分でもよくわかんない方言的な何かを挟み、車を選択しようとコントローラーを操作する。


 それで私は、速そうな赤い車を選ぶ。

 なんだっけこれ。ふぇらーり? らんぼるぎーに?

 赤いから多分ふぇらーりか。


「あ。てんちゃんはポルシェにするんですね」


 どっちでも無かったようだ。


「てんちゃんはレースゲーム初心者?」

「え、うん。まぁそうだけど」

「じゃあ、私はこれで」

「……? それ私のに比べて遅そうじゃない?」

「これでいいよ」


 お姉ちゃんが選んだ白い車は、そこら辺の家に止まっている様な、そんな車だった。

 もしや、甘く見られすぎている?


「よし。じゃあ、始めよう!」


 私たちの車がスタート位置に立つ。

 テレビ画面に左右に分割されており、左がお姉ちゃん、右が私だ。

 意味もなくアクセルをふかし、エンジン音が激しく鳴る。

 お姉ちゃんもアクセルをふかしているが、私の車のエンジン音にかき消されている。

 本当に、かなりのマシン差があるようだけど大丈夫なのだろうか。


 3、2、1と合図がなり、私は車を発進させた。

 お姉ちゃんの画面をチラ見してみる、が、私の車はどんどん距離を離していく。

 これは余裕だろうと思っていると、一つ目のコーナーが現れる。


「うおぉー! 曲がれ曲がれ〜!」


 無意識に体も右方向に曲げながら、コントローラーのスティックを右に傾ける。

 しかし、車は止まることを知らず、というかアクセルを外すのを忘れていたため、ダートへと突っ込みバリケードにゴンッと車体をぶつける。


「うぎゃっ!」


 コントローラーが恐ろしいほどに振動する。

 ここでお姉ちゃんの画面を見れば、今ほど曲がれなかったコーナーを華麗にドリフトした。


「くっ! お姉ちゃんやるな!」

「てんちゃんガチの初心者だね」

「うるさい! うるさいぞー! ここから追い返す!」


 で、結論から言うと負けました。

 いや、だってコーナー多すぎだから!

 お姉ちゃんが遅そうな車にしたのも頷ける。

 というか、この赤い車、なんだっけ? ぽるしぇ?

 このコースに不向き過ぎるでしょ!


「お、お姉ちゃん! 別のコース! 別のコースで!」

「いいよ」


 よし!

 これでコースに合った車を選択すればきっと勝てるはず!


 それで、約一時間後。


「ぜ、ゼロ勝、13敗だと……!」

「てんちゃん。弱いね」


 お姉ちゃんはあざ笑うかの様にそう言う。


「いや、経験者と、非経験者だから! 私、後者だから! もう一回!」

「それ言うの何回め? もう10回は聞いたけど」

「う、うるさい! ……ふふふ。だが、今回の私には策略があるのだ!」


 私はそう言って、お姉ちゃんの背後に回り込んだ。

 首だけを回し、不思議そうな顔でこちらを覗く。

 「いいから。気にしないで。始めるよ!」と言って、レースの開始を促す。


「じゃあ、気にしないでおく」

「うんうん。……よし。3、2、1。スタートだー!」


 まずは直線。

 ここでは私の策略は活きない。


 だが、コーナーにさしかかった今がチャンスだ!

 私はブレーキを踏み、コントローラーを少しの間だけ離す。

 その離した手を即座に、お姉ちゃんの脇腹に差し込み、高速でコチョコチョをする。


「なっ。て、てんちゃん。なんという卑怯技! ちょ。やめて! ねぇ! こしょばゆいから!」

「いや、いやいや卑怯技じゃないから! 策略だから!」


 そう言ってるうちに、お姉ちゃんの車はコース外へと突っ込んだ。


「よし! 今だ!」


 私はコントローラーを手に取り、車を動かす。

 安全運転をしながら、私は一着でゴールした。


「やったー!」

「……負けたけど、全然悔しくない」

「ま、まぁ。卑怯技で勝っただけだしね」


 苦笑いをする。


「いや、違う」

「え、違うの?」


「うん。ボディタッチの嬉しさの方が上」


 お姉ちゃんの顔を見てみると、その頬はほんのり赤に染まっていた。


 私の心は今、ゲームにあって、お姉ちゃんの心は今、私にある。

 そんな感じがした。

 なんか一人で喜んでいる私が馬鹿みたいだ。


「そ、そうですか。お姉ちゃんはそんなに──」

「……もっと。触って」


 私の台詞に割り込んで、そんな恥ずかしいセリフを彼女は呟いた。

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