第二章
第9話
まもなく私はリリアの故郷を離れた。両親には周囲の人がほら、あそこのお嬢さんが婚約者に浮気されてた上に殺されかけたんですって。まぁ可哀想に、なんてことを遠巻きに話し、腫れ物を扱うようにされるのがつらい。そんな私を嫁にもらおうなんて人もここにはいないから、いっそ都市に行って自分の力で生きてみたいと話すと納得してくれた。
父は負い目があるのだろう、何も言い返さなかった。お父様は何も悪くないから気にしないでと抱きしめると泣いていたから、私も思わず泣いてしまう。
母は旅立つ前の日の晩、一緒のベッドに入った。あんなに甘えん坊で幼かったリリアが、自分の力で生きていきたいなんて。本当に子どもの成長は早いわね……と優しく赤子をあやすように背中を撫でてくれて、たまらずに泣いてしまった。
いやぁ、泣いてばかりだ。都市へ向かう船の中でも慣れない船旅で吐きまくっていた時にも泣き、
自分の居場所じゃないと分かっていても、どうしようもなく優しかったあの場所から離れてしまう寂しさにも泣き、
自分が思っていたよりもずっと、エディ先生を好きになってしまっていたことに気付いてしまった胸の苦しみにも泣いて、ぐちゃぐちゃになっていた。
そんなこんなで吐いたり泣いたりを繰り返していたわけだが、そのおかげでさすがに気持ちの整理もついたし、良い出会いもあった。
途中、船で一緒になったガーネットという女の子だ。リリアと同じ歳で吐いたり泣いたりしている見ず知らずの私を助けてくれた彼女とは、長い船旅の中で話すうちにすっかり仲良くなった。
私と同じく都市へと向かっており、裕福ではない実家の幼い弟や妹のために、自ら稼ぎに出てきたと言っていた。頼るあてもないので、都市に着いてから働き口を探すらしい。自分の稼いだお金で弟たちが好きな事ができれば嬉しいから、仕事はなんだっていいと。そう笑って話す健気な彼女に何か恩返しができないだろうか。
そんな思いを抱えて都市マディーナラに着くと彼女を連れて、父に口を聞いてもらった働き先までやってきた。
街の大通りにある歴史ある上品な服飾店で、オーナーの夫婦が快く迎えてくれた。店を案内してもらうと、何人かがにこやかに接客に勤しんでいて、そのまま店内の奥に進むとひらけた工房になっていた。ベテラン感溢れるご婦人たちに混ざって若い子たちも生地を裁断したり、縫い合わせていた。
その活気ある工房の様子にガーネットは目をキラキラさせていた。
住み込みで働くための部屋に通された後、オーナーから説明を受けた給与や待遇の良さに横で聞いていたガーネットが自分のことのように喜んでくれる。
「すごい良いところで働かせてもらえるんやね、リリアちゃん。船でヨロヨロしてた時はほんまに心配したけど、ここやったら安心やわぁ」
ガーネットの様子を見たオーナー夫婦と私は目配せして頷く。
「そう言ってもらえて嬉しいわ、ガーネットさん。あなたさえ良かったらここで働いて頂けないかしら?」
突然の夫人の提案にガーネットは事態を飲み込めず、わ、私?と裏返った声で自分を指差す。
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