みなと

また憂鬱な月曜日が始まったな。

「おはようございます。皆さん。まずは先週の進捗から共有しましょう。では梶岡さんからお願いします」


俺は主査として会議を進行し、タスクの再振りをしている。単純な作業だが、この再振りを間違えたら最後、仕事が期間内に終わるのはとても難しくなる。個々の能力、アサインの状況、先方の資料の提出具合を考慮して、アロケーションをする。

どうやら俺が残業して巻き取らないといけない作業はいまのところないらしい。

朝の会議はスムーズに進み、雑談を含めて40分程度で解散となった。


「主査。あたらしいペンとノートですか?」


「ああ。梶岡さん。そうなんですよ。いいでしょう?」


会議の後、それぞれの分担をノートに試し書きしていたものをTeamsにまとめていたら、2年目の梶岡みなとに話をかけられた。この子は新入社員の時から俺のチームに入って来てくれており、最初はどこかぎこちなく不安な子だったが、今では立派なOLをやってくれている次期エースとも言えるスタッフだった。

今日は白を基調にしたカジュアルな装いをしている。デートでもあるのだろうか。

それにしてもこの子はたまにこうやって話かけてくるが、他の男性社員はどう対処しているのだろうか。俺みたいに経験値のない雑魚はいつもどこか緊張してしまう。


「梶岡さんは週末は休めましたか?」

「はい。主査はオンライン飲み会で大分飲んでいましたけど、大丈夫でしたか?それが気になっちゃって」

「全然大丈夫ですよ」


嘘だ。めちゃくちゃ気分は悪く起きたのが午後遅くだったが、わざわざ不格好なところを部下に見せる必要はない。


「そうなんですね。途中からお静かだったから気になっちゃって。…今日ってお昼どうされます?」

「あー…まだあまり考えてないですが、いつもの中華にしようかな?」

「あ、それなら主査がお好きなチャーハンの美味しいお店を見つけたのでご一緒させてくれませんか?」

「…いいですよ」


なるほど給料日まであと2週間ある。どうやら梶岡さんは先輩におごってもらいたいのかも知れない。

そうであってもやっぱり人からランチを誘われるのは、素直に嬉しいんだなと思った。


11時半になって、チームは早めのランチを取ることになった。霞が関が近いこともあり、このあたりのランチはとても混む。そのために、どうやらみんな時間をずらして早めにランチを取るか、それともコンビニ済ませる人も多いようだ。

チームは10名。まとまって全員でランチを取ることは難しく、また愛妻弁当を持っているものも3名いる。それぞれなんとなくバラバラにランチを取ることになった。チームの仲が良くないわけではなく、お互いに好きなようにご飯を食べるのは、もはや社会人として当たり前なのかも知れない。


「主査。お昼行きましょう?」

「…うん。他のメンバーも誘おうか? 小田くんとかどう?」

「小田くんは中華行きたい?行きたくないよね?カロリー制限してたもんね」

「…あ、はい。僕は今回パスさせてください」


小田くんは俺の顔をちらっとみた後、梶岡さんの顔をそれとなく伺い、ランチの誘いを断った。小田くんは今は少しふっくらしている様に見えるが、フィジークというボディビルの大会の一種にでるような筋トレ好きだ。この間までは増量期だったが、どうやら減量期に入ったらしい。


「…そうか。じゃあ、梶岡さん行こうか」

「はい!行きましょう!そこのお店、蟹のあんかけチャーハンが有名らしいんです。私すっごい楽しみで!」

「へー。それはすごいね」


2人で3000円くらいは覚悟した方が良さそうだ。小田くんには悪いけど、断ってくれて結果オーライだなと、そんなことを考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る