第22章 希
ぶつかり合う激しい剣戟の音と、耳を抜けるような風切り音。
この青い、青い空は、一体俺たちにどんな結末を求めているのか。
激しく火花を散らしながらぶつかり合った剣で押し合いながら、撃滅剣に声をかける。
「これも防ぐか…」
「…」
「返事も無しか」
俺の剣を思い切り力を込めた大剣で弾き返した撃滅剣は無言で俺を睨みながらもう一度剣を振りかぶる。それを見た俺は瞬時に右手の剣を水平に振る。その牽制に反応して相手が大剣を引いた瞬間に、左手を開く。瞬時にそこへ現れたのは無骨な黒色の世界最強の劍。
電龍刀が手に収まった瞬間、俺は大きく前へと飛び出した。二刀が迸る赤色に光りだし、超高速の剣戟を放つ。
二刀流高速連撃技・カラミティグラデーション。
黒と紫の閃光が迸り剣身と俺を包み込む。右手と左手が閃き、その光が撃滅剣へと集中して向かっていく。
対する撃滅剣は大剣を縦に構える。赤く迸って煌めいた剣が動き始める。あの技は確か八連撃重攻撃・スカルブレイザーだ。それに対してこちらが出したカラミティグラデーションは七連撃。連撃数的には俺が圧倒的に不利だ。
俺の剣と撃滅剣の大剣が激しい音を出しながらぶつかり合い、それぞれの七撃目がぶつかった。大きな火花が弾け、お互いの顔を照らす。その瞬間に剣が弾き合った。撃滅剣のソードスキルが八撃目の突きを撃ちこむ。
しかし、その瞬間に俺の左手が神速の速さで動き、剣を水平に持って前に掲げる。
二刀流専用キャンセルスキル エッジ・ブレーキ。
この技によって、硬直もなくスキルが終了し、代わりに俺の右手から激しい光が漏れ出る。スカルブレイザーにも負けず劣らないほどの赤色の光が俺の肩までをも包み、神速で突き出される。細剣用ソードスキル、アルビレオがスカルブレイザーの最後の一撃を軽々と弾き返してその勢いのままに撃滅剣の身体を吹き飛ばす。
舞い上がった土煙の中から大剣を地面について立ち上がる撃滅剣が見える。ならもう一度重攻撃を当てるまでだ。そう考えた俺は両手の二本を前後に構える。右手を後ろ上段に構え、左手を前に構えた。両手の剣から発生し、全身に薄い赤色の光が纏う。
土煙から飛び出てきた撃滅剣が、大きく水平に振りかぶった大剣を、俺はギリギリにタイミングでバックステップによる回避をして、着地の瞬間の右足に全力の力を込めた。
超高速で前へと飛び込んだ俺は、そのまま左手の剣で大剣の攻撃を防ぎながら、左に受け流す。大剣が地面に轟音を放ちながら当たった直後に、俺の右手が高速でラッシュを開始する。すべての攻撃に恐ろしいまでの力と、ソレに見合わない速度がある。
スキルとは到底言い難いその連撃を無理やり撃滅剣の身体へと撃ちこんでいく。右腕に握られた神龍剣が、目まぐるしい勢いで動き続ける。それと対になるように、左手には電龍刀が時折光を跳ね返しながらぶら下がっている。攻撃に参加するような素振りは見せない。
神龍剣が赤色のラッシュが衝撃波を残しながら、空間に彗星の残光を引いていく。ワンテンポ遅れた右手が全力の水平斬りを放った瞬間に、滑り込んできた大剣と激突した。反動でお互いの身体が地面を滑りながら離れ、2人の間に風が吹きすさぶ。
「……この剣を叩き折るにはもう少し特訓が必要だと思うぜ?」
「そうか? 俺はそうとは思わないが」
グリップを短く持って。まるで格闘をするかのような構え。前に構えた右手の剣が視界に入る。天から降りかかる光が刃に弾かれて俺の顔が映る。結構ひどい顔をしている。右頬に傷があることに気付く。そこからごく少量ではあるが血も出ている。先ほどの剣戟の撃ち合いによって生まれた風が薙いだのだろう。
「やってくれるな……」
「こっちだっていつの間にか喰らってるんだ、おあいこだろ」
そう無表情で返すと、撃滅剣は気に入らないというような顔をしながら大剣を肩に担ぐ。
「どこへ行くつもりだ」
「お前の相手をする暇はもうない」
「逃がすとでも思うか?」
「…やってみろ」
そういいながら撃滅剣が大剣をきつく絞りながら肩上で構える。大剣用突進斬撃技・ブレイバー。
左手に握っていた電龍刀を地面に深く刺し、神龍剣を左腰の鞘に納刀し左足を下げて腰を落とす。
赤黒く輝いた大剣が滑るように前へと出てきた。その切っ先にぶつけるように、左腰ごと剣を当てに行く。
「抜刀…一閃――!」
半分ほど出した刀身で大剣を弾き、そのまま身体を捻る。その必殺の回転攻撃は、奴の剣を強く押し出したが、ブレイバーの勢いを完全に殺せなかったため、俺の右腕が悲鳴を上げる。
抜刀一閃を撃ち終わってすぐに振り返ると、そこには誰もいなかった。
「利用したつもりが、利用された…」
斬撃の威力を利用して加速し、この場を離脱したらしい。
『……最近逃げられてばかりだね』
「全くだ。厄年か…?」
『それどころじゃない気もするけど』
「まぁ、確かに」
そう言いながら俺は地面に刺さった電龍刀を抜く。そのままゲートを通じて格納する。
「レナ、飛ばしてくれ」
『どこにだよ』
「現実を忘れられる場所」
『どこだよ』
そうつぶやいたレナは、しばらくして『あっ』と声をだして俺をテレポートさせた。
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「お前が、撃滅剣か」
黒いタイルを歩いていくコートの背中に声をかける。その背中が歩みを止めて、ユラリと振り返る。とにかく不気味な動きで揺れるコートの裾が、少し逆立った気がする。
「なんの用だ? 」
黒のフードを目深くかぶったその内側、見えないはずの目に強い殺意を感じた。暗い路地の中でお互いの目線が激しくぶつかる。その中に様々な想い、欲望、思惑が込められているのがありありとわかった。
「君に、……いろいろお世話になったみたいでね」
そう言いながら、左腰の得物に左手を添える。
「そのお返しをさせてもらうよ」
その言葉に、返事は一つ。
全力の斬撃が一撃。刹那。
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目の前に広がった光景は、まったく予想していなかった。
南2区には、海がある。その海沿いにある住宅街。美しい海岸通りに一軒家が数多く並ぶ。
その一つ、決して派手だとも巨大だとも言えない、実に普通な家。
俺たちが立っているのは木造のタイルで出来た道。柵を後ろにして俺とレナが2人、並んで家を見ている。
「現実、忘れられるでしょ?」
「あぁ、バカみたいに忘れられる」
俺が決意をした場所。全てがあった場所。全てを失った場所。俺が挫折をした場所。その全てがここにあり、全てがここに無い。
希望も絶望もここにある。始まりも終わりもここにある。ただ、誰かと戦う為にではなく抗うために剣を握った最初の場所。
でも、だからこそ。現実を忘れられる。他人から見てなんかじゃなく、自分で振り返ってもまるで現実とは思えない人生だ。突飛な出来事ばかりで、どこか他人事。人生の主人公はいつだって自分だと、そう思え。と何かの本で書いてあったような気がするが、まったくもってそうとは思えない。
俺はいつでも自分を疑って生きてきた。最近は意識することが少なくなってきたが、それでも心のどこかに残っている。俺の中に、俺が後何人いるのか? そんな、自分に対しての疑念と懐疑心。
「おーい! 」
考え事していた俺の耳に少し高い声が響く。
「おわっ…なんだよ」
「お前のことを最も信じられるのはお前だ」
そんなセリフを浴びせられて、俺は思わず笑ってしまう。
「はは…確かにな」
「あのセリフは忘れられないよ…忘れちゃだめだ」
「そうだな」
俺達の間を風が吹く。目に見えない緑色の旋風は、青色の海の匂いを乗せて長い黒髪を揺らした。
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