【55幕】料理は故郷を思い出すきっかけ

 ――ゼオン殿!


 バハムートが語りかけてくる。ゼオン同様に、世界蛇ミドガルズオルムと浅からぬ縁がある。何か感じることがあるのだろう。


「ああ。分かっている……。間違いなく、あいつが何かしら関わっている。まずは、戻るとするか……」


 ゼオンはバハムートに語りかけるというよりは、自分自身に言い聞かせるようにつぶやいていた。



◇◇◇◇◇◇◇


 ゼオンはマーロの冒険者ギルドに立ち寄ることにした。受付けを見るとエトナがいる。


「あ! ゼオンさーん! お帰りなさぁい!」


 声をかけられて、ゼオンは少し困惑した。。見た目の話ではなく、中身。世界蛇ミドガルズオルムの実態ではないのかもしれない。


「アイオニックに通してくれ」

「わっかりましたぁー!!」


 拍子抜けしてしまう口調。本来のエトナなのであろう。ゼオンは軽く礼を述べ、アイオニックの部屋に向かった。


「色々とすまなかったな。僅かだが進展もあった。カドレニア王国に戻るのか?」

「ああ。一度、王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣に戻る。何か分かれば、直ぐに知らせる」

「それは助かる。頼んだぞ、ゼオン。こちらは死獣王達に調査させておく」


 ゼオンはしばらくアイオニックと話をし、王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣への帰路についた。


――『転移』


◇◇◇◇◇◇◇



「ゼオンさん、大丈夫ですかね?」

「……多分、平気よ!」

「そうですよね! あんな頑丈な人、そうはいませんし! 頭まで筋肉ですし! そのうち『転移』とか叫びながら帰ってきそうですね! ははは……は?」


「誰が頑丈な筋肉だと?」


 ゼオンは、ロイドの、肩に手を置いて、話かけていた。ロイドの足が地面に沈んでいる。王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣に戻ると、ロイドにノア、研究室の面々が揃っていた。


「ゼオンさん……。お、お帰りなさい……」

「ゼオン! 遅かったじゃない! 心配したわよ!」


 ゼオンは、皆にエトナとの一件を説明した。にわかに信じ難いという雰囲気ではあったが、ゼオンとレオンの家名の一致などもあり、信じている様子であった。



◇◇◇◇◇◇◇



「獅子の牙っすね……。交流はあるには、あるんすけど……。面倒くさいんすよね」

「どういうことだ、カリフ?」

「何かと、交流試合をしたがるんすよ? 面倒じゃないっすか? ただ、訪問するのは無理っすね……」

「あ〜、確かに! 『拳を交えてこそ、真の交流』とか意味わからないですよ」


 カリフとトラジェの会話に、ゼオンは面白みを感じていた。皆の視線が、ゼオンに集まる。


「楽しみにしてますよね、絶対」

「ゼオン君が迷惑なんすよね……」

「問題を起こすのは、いつもゼオン君よね……」

「いや〜、危険な香りがしますね」


「安心しろ! 何も問題を起こすつもりはない!」


 ゼオンは自信満々に叫び、嫌な視線を振り払おうとした。気になるのは頬の痛み。ノアにつねられているようだ。


「だ・か・ら! それが心配なのよ!」


 毎度のことではあるが、ここまで信じてもらえないことがゼオンには理解ができない。もう、流れる涙すら無かった。


「とりあえず、食事にしませんか!」

「確かに! 腹が減ってきたところだ!」


 ゼオンはロイドの提案に賛同していた。マーロでの食事も悪くはなかったが、慣れ親しんだ味を身体が欲している。


 つねられて感じる痛み。ここが現実であり、事実である。ならば答えも目の前にあるはずだ。ゼオンは、兆しが見えた今を楽しんでいた。

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