【54幕】ため息は開始の合図
現れたのは、ギルドの受付にいた獣人。艶のある声と妖艶な瞳を持った猫の獣人族。名前は、エトナと言っていた事をゼオンは思い出していた。ゼオンが声をかけた時とは、雰囲気が違うようにも感じる。
「わざわざすまんな……」
「こんなところに呼び出して、何の御用でしょうか?」
「ギルドで報告したときのことなんだが……」
ゼオンは確認したいことがあった。なぜあの廃墟の状態から、あの場所を古城と言えたのか。廃墟として見つけた場所は、セレモニーやパーティを開くために作られた離れの建屋。アイオニックか言っていた地下室は、その建屋の地下にある備蓄倉庫。あの規模では、古城とは分からないはずだ。
「あの廃墟だが……なぜ、古城跡だと言ったんだ? 見た限りでは、大きめな家屋の跡地程度のはずだ」
「そんなこと言いましたか?」
「ああ……言っていた……」
「ただの勘違いですよ。遠い昔の記憶なので……」
辺りの空気が変わる。静かでありながら、禍々しい圧をゼオンは感じていた。背筋に冷たい汗が走る。ゼオンは、エトナの眼が一瞬笑っているのを見逃さなかった。
「お前は、何者だ? 何を知っているんだっ!!」
ゼオンは語気を荒らげ、問いかけていた。知らないうちに、エトナに対して苛立ちを感じていた。警戒を緩めない。何時でも対応できるように、四肢に意識を向けておく。
「何者かと言われましても……。どうお伝えしたら良いでしょうか? ゼファー・グラシオンさん」
「なっっ!!?」
ゼオンの警戒心は閾値を遥かに越えている。ゼオンは静かに構え、いつでも攻撃できる間合いを取る。ゼオンがエレナを見ると、手でこちらを制しながら立っている。
「貴方と拳を交える気は、今はありません」
「今はだと……?」
ゼオンは、対峙するエトナの魔力の底が感じ取れずにいた。闘ったとしても、五分と五分。ゼオンの方が分が悪いとさえ感じてしまう何かがある。それが何かわからなければ、ゼオンもタダでは済まないだろうと感じていた。
「
ゼオンは、以前対峙した相手の呼び名を口にしていた。異形の形。人の道から外れた相手だったことを思い出す。
「よくご存知で。
「闇を導く……。世界を破壊する連中だと思っているが……」
「正解とは言えませんが、間違えてはいません。私がやらなければならない仕事でして」
ゼオンは警戒は解かず、構えをやめ自然体になった。ゼオンは今までの疑問を、知りたい答えを引き出すことを優先していた。
「この世界の違和感は何だ?」
「私の仕事の結果ですね」
「答えになっていないが……」
「答える必要がありますか?」
ゼオンは苛ついていた。誂われているのは明白だ。ただ、『今は闘う気がない』と言っている。力尽くで聞き出すことは、無理だとゼオンは考えていた。
「あははは。まあ、そんなに怒らないでくださいよ。特別に教えてあげますから」
「全てではないだろ?」
「全てではないですが、知りたくはありませんか?」
ヒントでも、何でも構わない。ゼオンは、藁にもすがる思いで、聞くこと選んでいた。
「
「ああ、ここからも見えている。以前、あの中にいたが」
「ええ、その
「魔素か何かだろ」
「それも、間違えではありませんね。
「世界だと?」
「
ゼオンは記憶を辿っていた。
「世界は繋がっている……」
「ええ、そうです。世界が産み出され、繋がっていくんです。では、世界が増え過ぎたらどうなると思いますか?」
「崩壊でもするのか?」
「いえ、私の仕事が増えるだけです」
崩壊。仕事。世界が繋がる。ゼオンは、頭の中でキーワードを並べていた。気がつく一つの仮説。
「お前は、増え過ぎた世界を消す……。闇に導くモノとは、そういうことか?」
「半分正解と言ったところでしょうか」
「半分……だと?」
「世界を消しているのではなく、融合。バランスをとっているだけです。樹木の葉も剪定しなければ、光が届かない部分が出てくるのと同じです」
世界が混ざる。ゼオンがかつて居た世界と、ゼオンが今居る世界は、融合して出来た世界とでもいうのか。ゼオンは、俄に信じられなかった。であれば、魔人族はどこへ消えたのか。どの世界と融合しているというのか。
「魔人族は、俺の同胞はどこへいった?」
「どこへも行ってませんよ……ふふふ」
「見かけたことが……ま、まさか?」
「ええ、気がつきましたか?」
「この世界の人間族か?」
エトナを見ると静かに頷いている。ゼオンは、何が何だかさっぱり分からない状態であった。
「お話はここまで、ですね。また、お会いすることがあれば良いですが」
「まてっ!」
ゼオンが声を出した瞬間、エトナは消えていた。静寂が、ゼオンを包んでいた。ゼオンは、
一歩前進したかと思うが、また一つ謎が増えた気もする。ゼオンは静かにため息をついた。まだ、始まったばかりかもしれないと。
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