【53幕】会話は気づきを与える手段
ゼオンは捕まえた野盗を連れ、マーロの冒険者ギルドに戻っていた。オントリア湖の調査もしなければならないが、野盗達を連れ歩くのも邪魔である。それに、野盗と失踪事件に何らかの関係があるかもしれないと考えていた。
マーロの冒険者ギルドの受付けで、ゼオンは野盗を突きだす。あわよくば、野盗捕縛に関する依頼などがあって、報酬がでるのではないかと考えていた。依頼こそないが、未然防止という形になるので謝礼が渡された。受付けにいる猫の女性獣人族が笑顔で話しかけてきた。
「ありがとうございます。これで被害も起こらないですみますね」
「そいつは良かった。奴らを捕まえた場所……オントリア湖とは少し離れているが、あの廃墟は見たことあるか?」
「あの古城跡ですか? あまり人が寄り付かない場所ですけどね。特に調査で何も分からなかった場所なんですよね」
「そうか……ありがとう」
ゼオンは受付けの獣人族と当たり障りのない会話をした後、謝礼を受取り受付けを後にした。その足でギルドマスターのアイオニックの部屋に向かう。応接室に通され、待っているとアイオニックがやってきた。
「何か分かったか?」
「調査の前に、野盗を捕まえたんで戻ったんだが」
「ほぉ……。珍しいな。」
「あのあたりで野盗はよく出るのか?」
「いいや、聞いたことがないな。ここ最近のはなしじゃないか」
野盗のことはギルドに尋問など対応を任せればいいだろう。ゼオンは、廃墟のことが気になりアイオニックに訪ねることにした。
「野盗に襲われた場所なんだが、何か知らないか?」
「ああ、あそこか? 特に何も見つからなかったはずだ。遺跡なのか、家屋なのかもよく分からない場所で、今は調査もしていないな」
「そうか……」
「そういえば、地下室はあったんじゃないか? 野盗が住み着いた可能性はあるな」
ゼオンはアイオニックが何か情報を持っていないかと期待したが、特に何も得ることができなかった。ただほんの少し、ゼオンは違和感を感じてはいた。
「アイオニックさん!!」
応接室にギルドの職員が走り込んで来た。慌ただしさに何か事件でも起きたかと感じ、ゼオンはアイオニックとの会話を止めていた。どうやら捕まえた野盗から、カドレニア王国との内通を匂わせる発言があったようだ。
「カドレニア王国の中で、何かが起きているのか?」
「いや、聞いたことがないな」
獣人族を誘拐して何か意味があるのか疑問でもあるが、ゼオンには検討がつかない。ノアとロイドも首を振っている。
「あ! マーキングしていた逃げた野盗を追えば分かるかも!」
ゼオンの横で、ノアが思い出した様に声を上げた。マーキングした野盗の大まかな位置を確認している。ゼオンはノアに、逃げた野盗の居場所を早く教えろと聞いていた。
「ドドリーマ州にいるわね……」
「たしかドドリーマ州には、
「
「どうしたのゼオン?」
「頼む。ノア……」
「……分かったわ。無茶はしないと約束してね……」
ゼオンはノアとロイドを説得させ、感じた違和感の正体を探るべくマーロに残った。ゼオンの直感が、一人で動くことを選択していた。
◇◇◇◇◇◇◇
夕暮れ時。騒がしい日常の幕が降りようとする。暗闇が少しずつ顔を現し始めた頃、ゼオンはマーロの郊外にいた。違和感の正体。アイオニックとの会話の中で気がついた点があった。それを確かめるべく、ゼオンはその相手を呼び出していた。
暫く待っていると、こちらに向かってくる人影が見える。悪魔がでるか蛇がでるか。何が飛び出すか分からないが、ゼオンは確かめずにはいられなかった。
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