【36幕】戦闘スタイルは性格を映す鏡

「ちょっっっと!! タイム! タイム! 聞いてないんだけど! 」


 漆黒の竜王バハムートの視覚と聴覚を介し、ゼオンは、マーキーの叫び声を聞いていた。尻もちをついてアワアワしているスービーが、視界にはいる。戦意という言葉は、二人の辞書から消えたのかもしれない。だがこれでは、つまらない。ゼオンは、漆黒の竜王バハムートに、一発かますように伝える。


「絶息に導く、竜王の咆哮!! 」


 空に向かって、漆黒の竜王バハムートが咆哮をあげる。大気が消し飛び、一瞬、闇が顔を出すが、また元の空が広がっていく。会場は静まり返り、マーキーとスービーはひっくり返っている。気絶した様だ。


「マーキーとスービーの気絶により、勝者はゼオン、ロイドチーム! 」


 静まり返った会場が、拍手と歓声で一気に沸き立った。



◇◇◇◇◇◇◇



 『準決勝第二試合』は、レイニア研究室のラインとラックス、オルト研究室のメータとパーラ。この試合の勝者が、決勝の相手になる。まだ、カリフもマルスも帰ってこない。


 ラインはショートソードを用いた双剣使い、ラックスは片刃のブレードを柄にはめ込んだ、グレイブ使い。彼等は二人ともゼオンと同じ背丈くらいで、鍛え方に無駄が無い体躯からだを作り上げている。


 メータとパーラは、対称的に小柄。魔銃ゲヴェーアは、二人とも狙撃銃タイプ。遠距離の敵に、照準を会わせ易くするため、照準装置を備えている。会場の応援が独特だ。彼女達の、ファンクラブなのだろうか。手元で、名前の書かれた旗を振りながら踊っている。


 近距離と遠距離の闘い。相性が悪そうにも見えるが、どうだろうか。ゼオンは、どんな闘いになるのかと、楽しみで仕方がない。それに、肩入れする訳ではないが、ゼオンはラインという人物に期待を寄せていた。


 王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣の中でも、十指には入る天才。白金衣級の最年少記録を、塗り替えたという。ゼオンがトラジェから聞いた話だ。トラジェとラインは同期で、仲が良いらしい。


 闘いは、不思議な光景であった。ラックスが観客席に、今、ゼオンの隣に座っている。会場ではラインが一人、仁王立ちしているだけで、動こうとすらしない。


「おい、闘わなくていいのか? 」


「我がいても、奴の邪魔になるだけだ。それに……奴は、一人で闘いたいと言うもんでな」


 ゼオンは、ラインに同じ匂いを感じてしまう。一人で、自由に闘う。時と場合によるが、許されるならば、ゼオンは一人で闘いたい。不思議とではあるが、親近感が湧いてくる。


 メータとパーラは、それぞれ別方向に移動していた。ラインを挟む形で、対極の位置に付いている。狙撃する為なのか、ラインからだいぶ距離を取っていた。


 これから、試合が盛り上がるとゼオン期待したが、勝負は一瞬で決まった。ゼオンも、何が起きたのかよく分からない。メータとパーラが放った魔術。ラインをすり抜け、通過して行く様に見えた。ただ、威力が違う。


「あれは、奴の得意とする反撃カウンターだ。相手の力と魔力の流れを瞬時に見定め、相手にはね返す。一歩間違えれば、失敗して自身にダメージが及ぶがな」


 ゼオンが『先の先』であるならば、ラインは『後の先』といったところか。魔術、攻撃を分析しはね返すという緻密で繊細な力の使い方。待つことが苦手なゼオンにとって、真似できない闘い方だなと感じていた。


 ただ、はね返すだけでは無く、ラインはわずかに自分の魔力を上乗せしている。相手の力を利用して、最小限の力で相手を倒す。ゼオンの初見は、そんな印象であった。


「メータとパーラの気絶により、勝者はライン、ラックスチーム! 」


 相手にとって不足なし。ゼオンは決勝が、楽しみであった。照り付ける陽の光は、頭上から降り注いでいた。決勝は、休憩を取ったのち、再開するとアナウンスが入る。腹が減っては、何とやら。とりあえず、闘いは食後のデザートだな。ゼオンは笑いながら、ロイドと食事に向かった。


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