第25話 黒装束の少女の実力

 バカな奴らだ。

 お前らが力を合わせても、あのゴーレムには勝てない。

 なぜならあのゴーレムはある意味、無敵だからだ。

 そうなる様にあのジョンとかいう小僧が魔法を掛けている。


 考えても見ろ。

 過去に5人しか合格していない採用試験だ。

 今回だけで、20人以上も受かる訳が無い。

 

 魔王だって何人も面談する暇ない。

 だからここで一人に絞ろうとしているんだ。

 我々は殺し合うしかない。


 だが……

 殺すには惜しい者が数人いる。

 あいつと、あいつと、あいつ……。


 私はクナイを手にした。

 ゴーレムと戦うことにした。



「大丈夫?」

「はい」


 僕の背後で怯えている治癒魔法使いの少女は頷いた。


「危ない!」

「ぐっ!」


 僕はゴーレムのパンチを鉄の盾で防いだ。

 衝撃で全身が痺れる。

 何とか踏みとどまった。

 

「ありがとう」


 少女は僕にお礼を言った。


「タンクの役目を果たしたまでさ。君、名前は?」

「えっと……、マヲ」

「マヲ、か……」


 僕は同じギルドにいたマユのことを突然思い出した。

 いつも一緒にパーティを組んでモンスターを狩りに行っていた。

 魔王軍に志願しているのに、昔の仲間を思い出すなんて自分でもどうかしていると思った。


「はっ!」


 ふと我に返ると、周りは血の海だった。

 ゴーレムに倒された冒険者たちの死体だらけだ。

 生き残っているのは僕を含め7人。


「マヲ、治癒魔法を使ってくれ」

「ん……んん……」

「どうした?」

「もう、魔力が……」


 何だ?

 疑う訳じゃないが、そんなに魔法を使っていた様には見えないが。

 やはり魔力は自分のために温存しておきたいのか?


「ぐえ!」


 マヲが頭を抑えしゃがみ込んだ。

 その背後には、手刀を構えた黒装束の少女が立っていた。

 どうやらマヲの頭に手刀を叩きこんだらしい。

 やはり殺し合いに突入か。

 僕は瞬時に、鉄の剣を構えた。


「こいつ、偽物だ」

「え?」


 どういうことだ?


「えへへ、よく分かったね」


 マヲが額から血を流しながらニヤリと笑った。

 彼女は自分の髪をつかみ引っ張った。

 まるでぶどうの皮がむけるように、頭皮から全身の皮がズルリとむけた。

 中から、少年が出て来た。

 ジョンだ。


「いやぁ、よく分かったね」


 彼はおどけてみせた。

 そしてゴーレムに止まる様に指示した。


「どうして僕が化けてるって分かったの?」


 黒装束の少女はこう応えた。


「冒険者の人数が増えていたこと。そして、お前が化けていた治癒魔法使いだけゴーレムが攻撃しないこと。これだけ揃えば、分かる」

「冷静な分析だね。魔王様に伝えておくよ」


 なるほど。


「こんな楽しいショーは間近で観なきゃ損だもんね」


 悪趣味だなジョン。


「それだけじゃないだろう?」


 黒装束の少女は彼に詰めよった。


「お前はゴーレムに永続治癒魔法を使っていた。その魔法の効果が切れない様にゴーレムの近くにいなきゃいけなかったんだ」


 永続治癒魔法。

 マユがその初歩のやつを僕に使ってくれたことがある。

 ダメージを受けても自然に回復する魔法だ。

 ただし唱えた者が、唱えられた者の近くにいないと効果が無い。

 どうりで、ゴーレムが倒れない訳だ。


「正解! そう簡単に僕のゴーレムが倒される訳には行かないからね!」


 ジョンは黒装束の少女に拍手した。


つづく

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