15.寝返り

 真っ暗闇の中で、ギュッと体を抱きしめる。

 肌の上で薄手の毛布がずれる感触がした。


 手を伸ばして枕元にあるスマホの画面をつける。

 午前二時。

 明日も学校がある。

 寝ないといけないのに今日のことが頭の中でグルグル回っていて、眠くなる気配はまったくない。


 ため息を一つ吐く。

 それさえも吸い込んでいく沈黙に、モゾモゾと寝返りを打つ。


 柳生くんと話していたことが、アリサにバレた。

 あのとき柳生くんは庇ってくれたけれど、きっと嘘だと気づかれている。


 謝らないと、アリサに。

 でも、どうして?

 なんで、柳生くんと話してはいけないのだろう。

 小学生の頃にいったいなにがあったのだろう。

 それがわかれば、もしかしたら納得するかもしれないのに。

 納得しない可能性もあるけれど。

 理由がわからないまま距離をとるのは、少なくとも柳生くんにはしづらい。

 だけど理由を教えてと言えるほど踏み込む勇気はない。

 アリサでさえも、詳細は言わなかったのだ。

 気軽に訊いていいものではない。


「サラだったら……」


 きっと、訊いていた。

 いつものあの無邪気な笑顔で、二人がそれぞれ作っている壁を軽々と飛び越えるのだろう。

 サラなら、それが出来る。

 だってあの子は、嫌われるとか、そういったことは気にしていないから。

 そこが彼女のいいところで、一緒にいて楽なところでもある。

 もちろん、そのせいで頭を抱えることもあるけれど。


 そういえば、庇ってくれたことに対してお礼を言うのを忘れていた。

 でもどうすればいいのだろう。

 柳生くんからは、もう近づかないと言われた。

 今までのように偶然会う、なんてことはもうないだろう。

 アリサに注意されたのだから、直接話しかけに行くことも出来ない。


 もう一度、寝返りを打つ。

 睡眠を必要としない灰色の感情は、変わらず同じ言葉を吐き続けていた。


 消えてしまいたい、はやく消えてしまえ、と。

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