第55話

フォリゾン・エルフの集落は町から3日の位置とのこと。

まぁ、集落と言っても、テントと天幕が立っているだけで、建物もないらしいが。


湖の畔で、何本かの小川が湖へ流れ込んでいる場所近くらしい。

そこから小高い丘上の森を切り開き、開拓して村を造るらしい。


ただ最低限の広場と特殊な素材にて作られた建屋以外は不要。

後は自然より与えられた物で十分なのだとか。


なにせ植物を精霊魔術にて使役した精霊で操り、可食部を産み出し採取するため、時期を気にせず食料を得られるらしい。


だから畑などは不要とのこと。

品質改良した植物の種を、前集落より持ち込んでおり、必要な時に必要なだけ地に放ち魔術で育てれば、欲しい物はいくらでも得られるんだとさ。


魔法文明期に作られたマジックバックも複数所持しており、生きるために必須である実を大量に保持はしているとのこと。

ただし、日々必要な品だけに、補充しないと、いずれは尽きるだろうな。


そのため新たな実を得ることは急務であり、実を得るには、その植物が育つに必須であるマユガカの体液がいると…


「精霊魔術でなんとかできないんですか?

 他の植物は、種から一瞬きに育てれるんですよね?」


教皇様の説明に対し尋ねると。

「そちらの植物も精霊魔術で育てることは可能らしいわぇ。

 ただのぅ、育てる過程にてマユガカの体液を与えぬと、実を成す前に枯れてしまうそうななじゃ。


 他の植物は様々な精霊を複合的に操れば、植物に必要な養分を産み出しつつ育てられるのじゃとか。

 じゃが…その植物だけは無理らしいわぇ」


「どうも魔法文明期の魔法使いが魔法で、そのようにしてしまったようね」

レンドレン枢機卿が補足をな。


「だから実に余裕がある内に、マユガカを飼育できる環境が必要なんですね」

なんとか納得を。


しかし、そのために必要な卵の入手は困難で、だから俺に頼るしかないと…


「国としてものぅ。

 彼らが造る薬や作物が有用と考えておってな。


 なにせ彼らが造る代物を、エルフどころか、ハイ・エルフやエンシェント・エルフでさえ造り出すのは不可能でな。

 これは魔導通信機にて、エルフ国とのホットラインにて確認した情報ゆえ、間違いないわえ。


 エルフ国からも古に袂を分かった同胞の保護を求められておる。

 一部の過激派エルフが騒ぐゆえ、国へ迎え入れるのは困難らしいがのぅ。


 まぁ、実状は不明じゃが」


フォリゾン・エルフ達の立場も複雑そうだな。

まぁ…マユガカを必要とする生態となった副作用なのか、あるいは…


「エルフ達がなしえない力を与えるために、そのような生態へしたのですかね?

 そして彼らが造る薬か何かが、魔法使い達に必要だったとか?」


思わず考えを口にしてしまったが…有り得るか?


「面白い推論じゃて。

 魔法文明が、なぜ滅びたのか…古来より謎じゃでな。

 あれだけの権勢を誇り、巨大な力を有した文明が、突如滅びておる。

 それが薬が必要な何かが原因と?

 ふぅ~む、面白いわぇ」


集落へ向かう馬車の中では、このような話ばかりがな。


最初は遠慮していた俺も、教皇様の明け透けな態度と、枢機卿様の的確な指摘にてタジタジと。

最後に押しきられ…


教会や国のトップを張るような方々には、敵わねーや。


この特殊な一族の取り込みは、国の威信に賭けても成功させねばならず、国は先王様を交渉にな。


教会業務だが、少ない術師と術師の力量およびに限界のある魔那量にて、常に聖術へ頼る訳にはいかない。

そのため、教会業務を補完するのに薬は必須なのだとか。


しかし聖術クラスの効能を持つ薬は稀であり、一部の魔術師が造る魔術薬ぐらいしか存在しないのが、実状だそうな。


そこへ聖術をも凌ぐ効能を持った薬を造れる一族が現れた訳だ。

国は一族の保護を対価に交渉を行うであろう。

では、教会は?


ある確かな情報筋にて、一族の族長と息子が呪われ、命の危機を迎えているらしい。

呪いは薬では解けない。

対策として有効なのは聖術であろう。


2人の呪いを解くことができれば、教会も交渉のテーブルへ着けるのでは?

そう教会幹部が考えるのもしかたあるまい。

だが問題が…


「して、誰が呪いを解くのじゃ?

 いや、解ける可能性があるのが、妾とレンドレン以外に、おるのかえ?」


そう教皇が告げ、教皇本人が枢機卿を連れて現地へと赴くと。

教会は揉めに揉めている間に、教皇と枢機卿が枢機卿補佐を伴い飛び出す事件が。


「カッカッカッ。

 これで呪いが解けませんでは、教会へ戻れんのぅ。

 その際には、ダリルに養って貰うわえ」などとな。


奔放すぎるだろっ!

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