第40話
「どうやって卵を用意するのかは知らんが、難しいんじゃないか?」
「そうですなぁ。
野生種の巣より奪うしかありませんゆえ。
しかも飼育種が絶えた場合を想定するならば、野生種の殲滅は愚策。
ゆえに野生種に気付かれずに、マユガカの卵を手に入れねばならない訳です」
なんだか熱く語るなぁ。
マスターって、こんなキャラだったけか?
「なら、取ってくりゃぁ良いじゃん。
マユガカを飼育してたんなら、誰かが卵を取って来たんだろ?」ったらな、マスターが左右に首を振り…
「魔法文明期に魔法使いから、マユガカの卵を下賜されたそうなのです。
その卵から孵化したマユガカを、古来より飼育し続けていたそうで、とてもではないですが、野生種の巣から卵を得ることが、できる者がですね」
あっ、これ…拙いヤツだ。
「マスター、珈琲旨かったわ。
これ代金な。
釣りは要らないから」って、席を立ったんだがな。
俺が店へ来る前から居座ってた客が来て言うんだわ。
「坊主、そう慌てんで良いではないか。
休暇中なのであろ?
なに、代金は、儂が持ってやろうではないか。
まぁ座るが良い」っと。
なんだか…凄い威圧感がな。
何者ぉ~
「閣下、お手数をば」
「閣下は止めい、ロンエンターラ。
しかも、このような極上と言える者と既知とは、おそれいったわい。
しかしのう。
石化した左足首が治り、欠損し義手であった右手が癒えた今、できれば我が右腕として、着いて来て欲しいものだ」
んっ?
マスターの知り合いか?
っか、マスターって、怪我してたのか…俺に覚らせないとは、何者?
「閣下…いえ、先王様。
お戯れが過ぎまする。
10数年も前に引退した身なれば、体も錆び付いておりますれば」
せ、先王様ぁっ!
冗談だろっ!
「ふっ、薬にて若返り、以前の力を取り戻せておろうに。
それと先王も止めい。
既に引退した隠居の身じゃて。
ウォルフで良い」ってなことを。
迅風ウォルフ…先の隣国との戦争にて、迅速にて果敢たる手を打ち、相手側を孤立させては各個撃破した戦法にて付いた2つ名だったか…
確か先王の右腕として勇猛果敢に戦ったとされる将軍が居た筈。
猛将でありながら知将たる軍神ロンエンターラ将軍?
!!
マスターやんっ!
っか、あん時の敵将!
やべっ!
マスターの右手やったの、俺だっ!
バレて…ねぇよ、なっ!
俺の今の名はサイガだが…実は本命ではない。
10歳にもなってない頃に徴兵され、
狩人としての腕が知られてしまっていたため、即座に前線へと。
爺さまとは別部隊へ配属され、しばらくして、爺さまが配属された部隊が捨て駒にされたことをな。
そんで、俺達の部隊も。
俺は潜んで身を隠し、敵将を強襲して混乱させてから、敵軍内へと。
敵兵の死体を漁り、衣服や鎧を剥ぎ取って身に纏う。
その時の死体が孤児のサイガだ。
彼の身分証を奪い、彼に成り済まして敵陣へと。
彼の部隊は全滅しており、サイガと言う少年を知る者はいなかった。
あるのは書類だけだ。
だからこそ、サイガに成り済まし、サイガとして、この国で過ごせている訳だ。
しかし…あの時の将軍がねぇ。
力量差が有りすぎるため、バジリスクの幼体を将軍のブーツへな。
忍び込んで仕込むのも苦労したなぁ。
その甲斐があって、将軍に隙が生まれ強襲が成功。
手傷を負わせたことで、敵が混乱し、味方部隊が逆襲ってな。
その隙に、俺はトンズラって訳だ。
つまり、マスターの負傷は、百%、俺のせいだな、うん。
知られてはいないようだが…罪悪感はある。
まぁ、生き残るためには、仕方なかったんだがな。
ちなみに、故郷へ帰るつもりはない。
故郷の村が悪いのではなく、国が糞なんだわ。
帰ったらなんだかんだと扱き使われ、いずれは死ぬだろう。
国の上層部は国民を家畜以下としてしか見てないかんな。
使い捨てがデフォルトなのさ。
しかし…俺を放置して昔話しに花が咲いているようなんだが…行って良いかな?
先王様、肩を放して欲しいなぁ~なんて…ダメ、だよねぇ。
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